「永田町はe-Japanをどう見ているのか」〜自民党e-Japan重点計画特命委員:平井卓也衆院議員に聞く

 今回は霞ヶ関から歩いて10分、永田町に自民党の平井卓也衆議院議員(香川一区選出)を訪ねた。平井議員は(株)電通を経て(株)西日本放送に転身し社長を務めた後、衆院議員に当選という経歴を持ち、通信・放送分野、そしてITの分野に関心を持っている。国会では経済産業委員会、総務委員会に所属し、また自民党のe-Japan重点計画特命委員会の戦略強化チームの座長を務めており、自民党のIT政策におけるキーマンの一人である。

 これまでの連載では主に霞ヶ関の政策担当者にインタビューを行ってきたが、我が国の政策決定の多くが霞ヶ関で立案・推進されるとはいえ、立法府である国会、中でも政権党である自民党の役割を決して軽視するべきではない。各省庁毎に存在する自民党政務調査会の「部会」の承認(クリア)が取れない、すなわち自民党の意思決定過程を経ない重要施策や法案は、閣議に上程できず、ほぼ100%推進できない。

 その意味でも、自民党のe-Japanについての取り組みはあまり注目されないが、極めて重要であると言って良い。e-Japanについて、どの部分が評価でき、どこが問題だと考えているのか、そして今後、自民党がどのような分野への取り組みを強化しようとしているのかについて話を伺った。

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衆議院議員
平井卓也
昭和33年香川県高松市に生まれ。上智大学外国語学部卒業後、(株)電通入社。同社退社後、西日本放送(株)代表取締役専務、社長を経て、2000年の第42回衆議院選挙において初当選。衆院経済産業委員会、総務委員会、憲法調査会委員を務めるほか、自民党では総務部会長代理、経済産業部会副部会長の他、行政改革推進本部幹事、及びe-Japan重点計画特命委員会事務局次長を務める。当選2回。http://www.hirataku.com/

1.e-Japanに対する問題意識とレガシーシステム改革への取り組み

--今日はよろしくお願いします。平井議員はe-Japan特命委員会でレガシーシステム改革についての申し入れなどをされてきましたが、それを受けて実際に中央省庁から、レガシーシステム改革に向けての回答が出てきたところですね。そのあたりの評価を含めて、これまでの自民党の取り組みの経緯をお聞かせ願いたいのですが。

平井: e-Japanの流れを簡単に振り返ると、ご存じのように2000年11月にIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が成立し、2001年1月にIT戦略本部が設置され、e-Japan戦略が決定された。この中では、2005年までに日本を世界最先端のIT国家に、という目標が打ち出されたわけです。

 私が衆院に当選したのは2000年の6月の総選挙でした。逓信委員会に所属したこともあり、当初からITには関心を持っていたのですが、私の最初の質問は、「ADSLの普及が阻害されている理由は何か、どうして普及を促進できないのか」というものでした。当時は考えてみればISDN全盛の時代でしたよね。そのような状況を振り返ると、この4年間でものすごい進歩をしてきたことを感じます。当時なんて、携帯電話を持たないことが「カッコイイ」という人も居ました。「俺は縛られない」なんて言ってね。(笑)今は考えられないですね。また、当時はまさか楽天やライブドアがプロ野球球団の買収に名乗りを上げる、なんてことは誰も思ってなかったと思います。

 やはり、ITは社会を大きく変えているのだと思います。これは産業だけではなくて、例えば、民主主義、政治の世界だって変えてます。インターネットを通じていろいろな意見を表明することが出来るし、政治や行政に意見を送ることも出来る。そうした中で今後ITが社会をどこに導いていくのかについて、しっかり政治家として考えていかなければいけない、と考えています。単なるITの利活用、というレベルにとどまらず、ITが変える人間の生活についての想像力が必要になってきたのが現在の状況でしょう。

 e-Japan戦略について言えば、政策の枠組みとしては非常に良かったと思います。通則法として全省庁に対して横断的に政策を働きかけることが出来るから、物事の進み具合がスピードアップしましたね。ただ、我々はいわゆるITバブル期(2001、2002年頃)の反省も強く持っているのです。あのころ、IT関係と名が付くだけで予算が通ったという勢いでしたよね。各省庁がこぞって光ファイバーを敷いてましたね。ある意味、その時の反省が現在のITへの取り組みの基本的な方向性を特徴づけているとも言えます。日本政府は無駄な投資をたくさんしてしまったのではないか、なんでもITだといって予算を取るのを許してしまったのではないかと。

 「IT不良資産」という表現をしているのですが、日本企業におけるITの資本ストックは国全体で16兆円くらいあるはずですが、そのうち3〜4割は不良資産と言っていいのではないか。もちろん、急速な技術進歩がある世界だから、技術の陳腐化という側面はもちろんあると思いますけど、それ以外に、資産ではなく、かかっている費用の面でも無駄な部分があるのではないだろうか、ここが我々のITへの取り組みの出発点です。

--いわゆる「レガシーシステム」がとりわけ、重点課題に浮上してきたきっかけは何だったのですか?

平井: ITバブル期ほどではないですが、ざっくりと言って毎年2兆円近い規模で政府はIT投資をしています。(※注1)2004年度予算ベースでだいたい5000億円くらいが郵政公社関係の支出ですね。残りの約1兆4000億円が中央政府分、あとは地方自治体という構成になるわけですが、このあたりの調査をしているうちに、ものすごいお金をかけているシステムがあることに気が付いた。見学しにいくと、PC世代の私たちには想像できなかった光景、メインフレームが林立する世界が広がっていたんですね。それが、いわゆるレガシーシステムであり、社会保険庁や特許庁など、年間で数千億円が投じられていることがわかりました(※注2)。

レガシーシステムの特徴
長年の随意契約によりシステムの改良・保守を繰り返しているため高コスト構造体質
システムベンダ間が競争環境にない
システムベンダ主導で企画・設計・開発を行っているため、システムベンダに有利なシステム化が行われている
他システムとの接続が困難なものが多い

 ここで、レガシーシステムとは、規模が大きく高コストで、かつ特定業者との随意契約が長期間続いているシステムのことで、具体的な定義としては、汎用コンピュータ及びオフコンに接続するシステムで、1994年以降随意契約が継続しているシステムを指しますが、年間平均コストで比較してみると、レガシーでないシステムは平均で約37億円/件ですが、レガシーシステムは1件あたり約170億円にもなります。これはひどいなと。民間の人たちにも話を聞いたんですが、あり得ないよねと。それで、レガシーシステムを刷新したらどれだけコストを減らせるのか、刷新可能性を調査してください、でも、役所の発注能力から考えると役所の人に評価させても無理ですから、そこは民間の知恵を借りなさい、CIO補佐官を民間から雇いなさい、という申し入れを各省庁にしたわけです(※注3)。これは予算化せず、持っている予算の枠でやりくりしてもらいました。

 それでレガシーの中でも、社会保険庁の社会保険オンラインシステム、 財務省の国税総合管理(KSK)システム、特許庁の特許事務システム、法務省の登記情報システム等の、とりわけ金額が大きいもの、これは個別にヒアリングをするなどして、重点的に取り扱いました(※注4)。

 この申し入れには、各省庁の保有しているレガシーシステムを列挙した上で、それぞれを各省庁個別に見直しを行わせて報告を求めました。基本的には、レガシーシステムからの脱却を図ることで、コストを3割から5割カットしろ、と言っています。ただし、コストを減らすのは、システムを新型に入れ替えれば済む話。より重要なのは高コスト構造になっている原因が何なのかをきちんと認識させることです。例えば、データ通信役務契約のような契約慣習(※注5)をもたらしたのは、予算の単年度主義が大きく影響しています。いきなり初期コストがドカンと大きい案件を予算化するのはとても大変ですから、経費を平準化して長い期間で調達したいという役所側の思惑に繋がってくるわけです。企業側もそれを前提としていますから、初年度に安値で落札した企業が、2年目以降は高値で随意契約を繰り返すという摩訶不思議な現象が起きるわけです。これは、明らかに単年度主義の弊害でしょう。それを複数年ベースの、ライフサイクルコストを前提とした形で予算化できないのか、また情報システムの構築運用にROIの概念を導入できないのか。このあたりを追求していく必要があります。

 ただし、単にコストを下げるだけではダメで、究極的には情報システムについて、国民の利便性を下げずにコストダウンする、という程度の目標ではなく、情報システムによる新しい価値を載っけた上で、調達価格を下げて利便性、ベネフィットを上げなさいという目標を厳しく求めていく必要があると考えています。

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