前回の岸氏へのインタビューで取り上げたように、現在e-Japanはインフラ整備に焦点を当てたe-Japan戦略(I)から、昨年夏に公表されたe-Japan戦略IIの下での、「ITの利活用の促進」という新たな段階に突入している。それは、岸氏がいみじくも「目立たない地道でマニアックな作業」と語ったように、ITの枠を超えて様々な既存の制度との整合を取っていくという難しい作業となっており、IT担当室や各省庁の担当者は日夜厳しい折衝作業を続けている。
第2回のインタビューは、そのような現状のe-Japanの進捗状況について、岸氏の後任として内閣官房IT担当室の主査を務めた山田安秀氏に話を聞いた(編集部注:取材時点では山田氏は内閣官房IT担当室に在籍していたが、7月からジェトロ・バンコック・センター次長に赴任している。以下、本文中は取材時のやり取りのまま掲載)。
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e-Japan戦略の現状
--岸さんのインタビューでは、e-Japan戦略の背景や、e-Japan戦略(I)で成し遂げて来たことをメリット、デメリットの双方からお話しいただきました。今回は現在のe-Japan戦略IIの取り組みとその具体例としての「e-文書法」について、実際に担当している山田さんにお話を頂きたいと思っています。
山田: 分かりました。まず、e-Japan戦略IIでの取り組みの概要をお話して、後半に、現在IT担当室で取り組んでいる、「e-文書法」(e-文書イニシアティブ)について、ご紹介をしていきたいと思います。
e-Japan戦略が出来て3年が経って、我々は現状をどう見ているかという話ですが、インフラ、電子政府、電子商取引、生活面・人材育成という分野に分けてお話をしたいと思います。
【インフラ】
インフラの整備状況はITU(国際電気通信連合)でも高く評価されているところですが、元々e-Japanの策定段階では一番遅れていたのが、料金水準にしても、加入者数にしてもトップレベルになった。これにはソフトバンクの孫正義さんが作った突破口が大きいのですが。
加えて、サービス面でも、たとえば携帯電話のインターネット利用が加入者の80%が利用するまでに進んでいる。ITというのは誰かとコミュニケートするためのツールだと考えているので、我々としては携帯電話のインターネットも重視しているのです。
また、最近急激に利用者が伸びていますが、光ファイバーの個人向けサービスも日本が世界で初めてサービスインさせました。
【電子政府】
インフラの上の活用についても、当初から議論されていて、政府の部分については電子政府の推進、民間の部分については電子商取引の推進ということで施策を実行してきました。
電子政府については、行政手続オンライン法(※注1)が昨年の2月に施行されて、今年の6月段階で、政府の申請・届出手続のうち97%がオンライン手続が可能になりました。97%といっても電子申請・届け出の実利用が97%ではないので、今は実際に各省庁がどんどん使ってもらうように普及計画などを策定しているところです。ただし、電子入札については、国が直轄の入札案件については原則全部、電子入札でやっています。
その他にも、多種多様な申請を簡略化できるように、電子政府構築計画というのが昨年の4月に策定されて、いわゆるワンストップサービス(※注2)を実現しようという環境を作るための計画ができたところです。これは2005年末を目標に実現を目指しています。
【電子商取引】
民間のほうは、インターネットを利用した株式取引が急成長していたり、中小企業の5割くらいの企業が電子商取引を行っている等、電子商取引においても、着実に進展が見られています。
我々も法制度面でのサポートをしており、たとえば、商法の改正で、株主総会のネットを通じた招集請求ができるようになったり、書面一括化法(※注3)により、様々な手続きの電子化を推進するスキームを作りました。
この書面一括化法は50本くらいの法律が関係しているもので、ネットで出来る手続についてニーズがあったものはぜんぶ出来るようにしました。例えば、パックツアーをネットでオンライン販売したい、というニーズがあるときに、壁になっていたのはパックツアーの内容を旅行取扱主任者が対面説明し、かつその場で契約書を交付しなければならない、という旅行業法の規定でした。これを、対面説明をなくし、契約書はメールで交付できるようにしたわけです。
その他にも、書面の交付・申請の際のなりすましを防止する電子署名法(2001年4月施行)とかも出来てきて、電子商取引を巡る環境は整備できてきた状況です。ただ、後で話しますが、実利用をどう増やすかというのは今後の課題です。
【生活・人材】
ここは国が頑張ったというよりは民間が頑張った所なんですが、ITバブルから一旦不況があった後に、ここ1年ほどの間にいわゆる新・三種の神器と呼ばれるような、日本の強い技術を核にした製品が出てきて、なおかつそれが市場で人気を呼ぶようになってきました。
また、人材教育という点では、以前から推進してきた学校へのインターネット接続環境の整備については、全公立学校4万校の接続を達成しました。ただし、本当は教室すべてに引き込みたかったが、そこはまだ学校単位でしか引けてないという課題は残っています。韓国では教室単位でネット接続が出来ていますが、日本では全教室の30%くらいに敷設されていて、2005年度までは100%、つまりすべての教室に線を引くというのを明文化して目標にしています。一方で、ホームページの整備は全公立学校の6割が出来ていて、情報発信を行っているので、これは非常に頼もしい成果だと思っています。
このように各分野で着実な進歩を重ねてきたわけですが、特に小泉政権の発足(01年4月)以後は、インフラ面では、高速インターネットの料金は3分の1に、加入件数は15倍になった。インターネットでの株取引の全体に占める割合は5.8%から19%へと約3倍になって、公立学校のホームページ数も1.5倍、電子申請可能な手続の割合も1%しかなかったのが、97%が可能になっています。これはやや自画自賛気味ですが。(笑)
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