e-JapanIIの最新の状況:加速化パッケージ
--そういった利活用の遅れという状況に対して、文字通りてこ入れするために、「e-Japan戦略II加速化パッケージ」が登場してきたという理解でよいのでしょうか?従来は加速化パッケージというのはなくて、単に年度の重点計画だけでしたよね?
山田: 利活用面の推進と言うことに関しては、昨年7月に策定されたe-Japan戦略IIの中で、先導化7分野を規定しました。これは、インフラ整備は一定の成果をあげた中で、利活用をどう進めるかという問題意識の下、選んだものです。
先ほど触れましたが、医療の情報化をトップバッターにもってきて、2番目に「食」。これは食の安全、トレーサビリティということです。続いて「生活」ということで、高齢者をターゲットとした健康管理のITによるサポート等を取り上げています。
その次が、字面だと、分かりにくいかも知れませんが、「中小企業金融」というのは、小泉改革の一つの売りである、行財政改革を進めつつも景気回復を実現する、すなわち新規のお金は投入しませんよという大テーマに対して、ITを用いた中小企業の経営改善努力に対するサポートをするということで応えたものです。
その次がブロードバンド上のコンテンツやeラーニングを含めて、ナレッジをどんどんブロードバンド上で流しましょうということで「知」になっています。ここでは、実際に通信と放送の融合を目指すというテーマが盛り込んであります。(※注6)
あとは「就労・労働」ということで、セーフティネットの一環としてのITということで、ネットで簡単に仕事探しが出来、職を得られる人を、2010年までに100万人にするという目標を設定しました。また、先ほどのテレワークに関して、就業人口の2割が電子会議や在宅勤務と言ったテレワークが出来るという目標を立てて、まずは公務員から取り組もう、と言うことで各省庁と戦っているところです。
最後の「行政サービス」は電子政府の推進ということで、24時間365日ワンストップサービスの実現を目指しています。
こういう基礎がある上で、さらに2005年の目標年度に向けて、どこにもっと力を入れるべきかについて、茂木IT担当大臣が昨年9月に就任以降、一生懸命議論をして、目標達成に向けて選定したのが、今年の2月に作った加速化パッケージで、加速化5分野として、国際政策(アジア)、セキュリティ、コンテンツ、IT規制改革、(評価)、電子政府が位置づけられているわけです(評価は本来は5分野ではないですが、これを入れてAからF、という語呂合わせになっています)。
国際政策というのは、むしろITを使ったビジネスの国際戦略というもので、インターネットやブロードバンドの、日本が強い部分を海外、特にアジアに広めてビジネスを発展させていきましょう、という意味が込められています。
セキュリティは、安心してITを使えるような環境を作るというものです。また、政府がセキュリティを強化して、しっかりとした情報基盤を持たないと安心して行政サービスを使ってもらえないじゃないかという問題意識もあります。
あと、セキュリティという事から言えば、9.11に関連した水際でのセキュリティ政策、eパスポートや国家公務員の身分証明書のICカード化による政府庁舎の入退室管理の導入など、茂木IT担当大臣が直前まで外務副大臣だったこともあり、テロ対策とITのような話も盛り込まれています。
コンテンツについては先ほど述べましたからここでは割愛するとして、我々が現在力を入れてやっているのが、IT規制改革という分野で、後でお話しする「e-文書法」もこの中に入ります。
周辺的なところから話をすると、最近話題となった、ドンキホーテが医薬品を深夜に売る際に、薬剤師がオンラインで対応しようとしたことが薬剤師法の対面販売規定との関係で問題がありましたし、書面一括法で既に解除されましたが、パックツアーのオンライン販売を阻んでいた旅行業法の規定のように、他にも国が「これは対面でやれ」と決めているものはたくさんあるのです。
上の図で見てみると、民間-民間の請求・申請の部分については、改正商法や書面一括法でほとんどカバーされています。書面一括化法では、国際条約の関係上、そのような請求や交付をしてはダメと決められているもの、公証役場等での公正証書が必要なもの、あとトラブルが発生したときに、電子化していると面倒なことになる、貸金業とかに係る法律関係のもの以外は電子化して構わない、ということになっています。
書面の保存については、民間でも国でもほとんど手が付けられていない状況で、唯一実現しているのが税務関係書類の作成の際に、電子的に作成されたものを電子的に保存をするというものです。これは1998年に出来た電子帳簿保存法(※注7)によるもので、会計ソフトなどの普及を踏まえて、それら電子的に作られた帳簿データの保存について、いちいちプリントアウトしなさい、というのは非常に無駄なので、電子データ形式で保存できるように定めたというものです。
今取り組んでいるのは、これをもっと幅広く拡張した、税務・財務関係書類の電子化で、領収書、契約書、請求書、見積書といったものがその対象となります。これらは現在では電子化して保存することが認められていないのですが、その理由は簡単で、帳簿みたいにファイル一冊とか、そういう自分でデータ入力をする世界ではなく、基本的に他者からもらうもの、かつ日々の業務で発生していくものなので、フォーマットも数も非常に大量になります。
対面行為の電子化については、ドンキホーテの一件もあるので、一部の分野では検討が進むと思いますが、その他にも課題はあって、例えば本来対面が要求される取締役会/株主総会の出席をネットで出来るようにできるかというテーマがあります。つまり、電子会議的にそれらの会議に出席し、発言をするということが(技術的には出来るのに)できないのはおかしい、という指摘が世界ベースで展開している企業から出てきていて、このあたりの実現も今後の課題だと思います。
行政の部分は、請求・交付、保存の関係に関しては、行政手続オンライン化法で一括してカバーされている。ただし、免許証や外国人登録証のように、現物で渡さないと意味がないものについては、例外になっています。
行政でカバーされていないものとして、対面の部分では、行政不服審査の際に役所に出頭せよというような例があって、電子的に出頭しても良いでしょ、というニーズに応えられていない。
司法では、証人や鑑定人が遠くにいて、管轄の裁判所に出頭できない際は、テレビ会議での出頭が認められていて、この点が進んでいるところです。ただし、そこはいいんですが、司法は請求・申請や保存の面で電子化が全然進んでいない。訴状の提出とか、遅延分の債権について裁判所が行う催促などについては民事訴訟法を一部改正して、電子的に出来るようになる見込みではありますが。
また、立法の所は全部のエリアで、何もできていない。彼らが一番遅れている(笑)という現状で、全体を俯瞰すると、このような星取り表になっている。
また、この図とは違う次元の話になりますが、医師・弁護士といったような、その人の資格が極めてその人の仕事に重要な場合には、電子的な属性認証をどうするかという話も重要になってきます。そうでないと、彼らが電子的な手段を用いて行った仕事の有効性が問われてしまうことになりますから。
最後の、電子政府の取り組みについては、行政手続オンライン化法ができたので、国はそれに従って電子政府化を引き続き推進していくことになるが、むしろ焦点は地方自治体の取り組みに移ってきています。情報政策についても地方分権という原則ははっきりしていますから、地方自治体は自分で関連条例を作らなければならない。この条例作りが全然出来ていない(参照:前回コラム:e-Japanを知る豆知識(1))。
さらに、地方自治体が条例を作って電子化したとしても、地方自治体の財源不足という問題があり、満足なシステムが組めるかどうかは分かりません。また、お金がないので電子化したとしてもセキュリティの問題がしっかりケアされているかが懸念されています。
さらに言えば、ITを分かっている人材が地方自治体に不足しているという問題もあると思います。よくわからないので、詳細な仕様書はベンダーに丸投げみたいな状況がよく指摘されていますよね。その結果、重複投資という無駄が発生しています。人事や受発注等については各地方自治体でほとんど仕様は共通化できるはずですから、共同受注できるようなスキームの整備が国の仕事としては重要だと考えています。
ただ、自治体の中には、ITの地場産業がそれなりにあるところもあって、そういうところは自分の所の会社にやらせたい、という希望もあったりするので、その辺の調整、連携の推進も課題です。
以上のような分野を加速化5分野と指定して、これから1年半かけてやっていくことにしています。これが達成できれば、少なくとも世界最先端のIT国家という目標は達成できるのではないかと思います。国連の電子政府ランキングで2003年に18位でしたが、2002年は26位でしたから、今年は少なくとも一桁台に飛び込みたいと考えています。このランキングで日本の評価がまだまだまだ低い理由は政府の電子申告・電子決済がまだ出来ていないからなのですが、今年の2月に国税の電子申告はできるようになりましたし、電子決済も出来るようになるので、ランキングは上昇していくはずです。
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