e-Japan戦略IIのねらいとは?
--それでは、次に昨年の夏に策定されたe-Japan戦略IIについてお伺いしたいのですが、こちらはe-JapanIと比べてどのような違いがあるのでしょうか?
岸: 基本的には、インフラ整備は「e-Japan戦略I」の仕事、アプリ(利活用)は「e-Japan戦略II」の領域、という整理が分かりやすいと思います。e-Japan戦略IIを読めば分かりますが、利活用の部分にかなり力を入れて書いています。
考えてみると、e-Japan戦略Iのターゲットは明確だったと思います。高速インターネットの常時接続環境の普及、なんてのは問題の所在が分かりやすいですし、数値にも簡単に落とせた。だから、やることも明確で、じゃあDSLやダークファイバーについて、競争的な市場の形成をしましょう、ということになるわけです。こういうのはメリットが一目瞭然なので、政策に落とした段階での国民へのPR効果も高かったのです。
しかし、今取り組んでいるe-Japan戦略IIの狙いと言いますか、政策的なスコープはかなり広いのです。ITを実際の社会に落としていく、ということですから、幅広くなるのも当然ですが。そうなると、やる仕事は細かい仕事ばっかりで、マニアックになっていくことになります。
ただし、目立たないと言うことは、逆に生活に密着した細かいところを進めていると言うことで、今後、じわじわと効いてくるような仕事も多い事も事実なのです。CNETの読者の皆さんには、ぜひこのあたりに注目して欲しいと思います。
e-Japanの全体像をつかむために必要な前提知識として、e-Japan関連のドキュメントの関係を説明しておこう。e-Japanと一言で言っても、その中にはいろいろな推進計画が存在しているので、どの文書がどのような意味を持っているかを確認しておかないと、全体像の把握が困難になってしまう。
e-Japanは、いくつかの主要な文書と、それに規定される政策群により構成されている。それぞれの主要な文書とその構造は、以下の図のようになっている。
図の一番コア部分にあるのがe-Japan戦略の最重要文書である「e-Japan戦略」である。これは2001年1月の「e-Japan戦略」と2003年7月に公表された「e-Japan戦略II」がある。これは、事実上e-Japanのすべてを司るバイブルのようなもので、すべての下部的な文書や各施策はこの「戦略」の方向性に従って策定されることになる。これは、IT戦略本部の会議で本部の構成員(現在の一覧)により、相当な議論を重ねて策定される。
「戦略」の次の段階、すなわちコア部分を取り巻くように配置されているのが「重点計画」である。これは、e-Japanのビジョンや政策の方向性、大まかな目標を示している「戦略」を一段階噛み砕いたもので、具体的な政策パッケージとなる。IT戦略本部は、この重点計画の策定と推進を行うと、IT基本法に明記されており、これまで、年度毎に重点計画が策定(e-Japan重点計画、重点計画2002、重点計画2003)されている。この重点計画は、実際の政策内容と絡めて策定されるため、本部構成員が議論して作ることは難しく、戦略本部の事務局(内閣官房IT推進室)が策定し、戦略本部で議論の上承認するというスタイルを取っている。
さらに昨年度からは、e-Japanのより一層の推進を図るために、「e-Japan加速化パッケージ」という推進計画も導入された。これは、重点計画とやや重複する点もあるが、e-Japan戦略の中で特に重要なテーマについて、具体的な目標期限を切って検討・施策の実施に取り組むというもので、事実上、各省庁にとってはIT戦略本部への政策実施公約リストに近い意味を持っている。2003年秋に策定された「e-Japan戦略II加速化パッケージ」では、365の項目がA〜F(A:国際戦略(Asia)B:セキュリティ(Block and Back-up Security)C:コンテンツ政策の推進(Contents)D:IT規制改革(Deregulation)E:評価(Evaluation)F:電子政府・自治体の推進(Friendly e-government and e-local government))という重点政策分野別に配置されて列挙されている。
このように、各々のドキュメントはバイブルである「戦略」をどのように具体的に実行させていくかを目的にデザインされていることがわかる。つまり、e-Japanの全体像を掴むためには、各論から入るのではなく、まずは「戦略」から「重点計画」や「加速化パッケージ」、さらには各省庁が公表している個別施策についてのリリース、といったように、構造を理解してドキュメントを見ていかなければ混乱してしまう。逆に言えば、政府機関の出す公式文書は、そのような文書同士の関係が矛盾しないようにきちんと構成されているのが基本である。単純に読むのではなく、相互の関係を整理しながら注意深く資料を読んでいく必要があるだろう。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス