ソニーは5月13日、新しいフラッグシップスマートフォン「Xperia 1 VII」を発表。「Xperia Intelligence」を打ち出し、AI技術によるカメラやオーディオ機能の強化を図り、高い関心を集めている。
だが、その一方でソニーのスマートフォン事業は縮小を続け、出荷台数シェアも減少を続けている。実際、MM総研が5月14日に公表した、2024年度通期の国内スマートフォン出荷台数シェアでは、レノボ・グループ傘下で復活したFCNTや、シャオミらに抜かれて「ランク外」となっている。
Xperiaブランドへの消費者の関心は依然として高いが、縮小を続けているソニーのスマートフォン事業は、今どうなっているのだろうか。「Xperia 1 VII」に合わせて公表された情報などから、現状と今後を探ってみたい。
これまでの経緯を振り返れば、ソニーはかつてスウェーデンのエリクソンと合弁で携帯電話端末事業のソニー・エリクソンを展開。Androidスマートフォンを比較的早期に展開し、「Xperia」ブランドで世界的にも支持を獲得した。スマートフォン大手の一角を占めていた時期もある。
その事業がここまで縮小してしまった背景には、2014年にスマートフォン事業を担っていたソニーモバイルコミュニケーションズが、中国メーカーの低価格攻勢によって大きな赤字を発生させ、ソニーのグループ全体の経営を揺るがす事態となったことが極めて大きく影響している。
その時にソニーモバイルコミュニケーションズの立て直しを進めたのが、現在のソニーグループ取締役代表執行役社長CEOである十時裕樹氏である。十時氏の方針によって同社は、スマートフォン事業から撤退しないためにも赤字を出さず、確実に利益を出す戦略へと転換。そのためにはシェア縮小もいとわない姿勢を明確にしたのである。
スマートフォン事業がソニーの1部門となった現在も、シェアより利益を追う姿勢は徹底している。確かにソニーは既にスマートフォン市場の世界シェアだけでなく、日本国内のシェアも大きく失っている。しかし、それは利益を出すため、提供するモデル自体を絞り込んでいることが大きい。
ソニーはかつて、非常に多くの機種を市場に投入してきた。しかし、現在新機種を提供しているのはフラッグシップの「Xperia 1」シリーズと、ミドルクラスの「Xperia 10」シリーズのみ。2024年からはコンパクトな高性能モデル「Xperia 5」シリーズの新機種を投入していないし、エントリーモデルの「Xperia Ace」シリーズに至っては、2022年に国内で販売された「Xperia Ace III」を最後に後継機種が出ていない。
一方で、先のMM総研の調査で国内シェアが上昇しているFCNTとシャオミは、いずれもエントリーモデルの販売に注力したことが大きな要因とみられる。低価格のエントリーモデルは販売数が多くシェア向上につながりやすいが、利益率が低いことから「薄利多売」のビジネスが求められる。シェアの小さいメーカーには難易度が高いといえる。
実際、現在はレノボ傘下の旧FCNTが経営破綻した理由は、ニーズの高まったエントリーモデルに注力した結果、円安や半導体の高騰などが直撃して利益を出せなくなったためと見られている。それだけに事業規模を大幅に縮小したソニーは、エントリーモデルと距離を置き、確実に利益が出せるハイエンドモデルに重きを置く姿勢を強めて生き残りを図っているわけだ。
もう1つ、ソニーの利益重視の姿勢を見て取ることができるのが、ソニーマーケティングのモバイルビジネス執行役員本部長である大澤斉氏の発言だ。
ソニーは5月15日にXperia 1 VIIの新商品体験会を実施しており、そこでXperiaシリーズのシェア低下について問われた大澤氏は、「2024年度は絶対比で(シェアが)落ちたように見えるが、新製品の販売が増えて利益が伸びた」と答えている。
大澤氏によると、スマートフォン出荷台数のシェアは旧モデルと新モデルの販売数の合算でカウントされており、新モデルの販売比率が高いほど利益を出しやすいという。
2024年度の場合、同年の新機種「Xperia 1 VI」の販売が大きく伸び、旧機種からの販売シフトがスムーズに進んだという。厳しい市場環境下で利益を出すにはモデル数を絞り込むだけでなく、新機種の魅力を高めて、販売台数を増やすことも重要になっている様子がうかがえる。
確かにXperia 1 VIを振り返ると、Xperia 1シリーズの特徴の1つでもあった、映画視聴がしやすい21対9比率の4Kディスプレイをやめ、かつ複数に分かれていたカメラアプリも統合しスマートフォンらしいインターフェースに変更するなど、より万人受けする方向へ舵を大きく切っていた。Xperia 1 VIIでもXperia 1 VIの路線を踏襲するとともに、関心が高まっているAI技術に関しても、「Xperia Intelligence」と名称を付けアピールを強め販売につなげようとしていることが分かる。
その一方で、Xperia 1 VIIでは、Xperia 1シリーズで力が入れられてきたゲーミング関連の機能強化がなされておらず、注力度合いが大きく落ちている。これはスマートフォン自体がコアゲーマーからの支持を失ってきており、ゲーミングに注力しても販売につながらないと見込んだのが理由だろう。
円安に加えて政府による厳しいスマートフォンの値引き規制が続く状況下では、携帯電話会社の値引きによる販売拡大も見込めなくなっている。それだけに、値段が高くても確実な購買につながる要素に重きを置く、取捨選択がより重要となってきているのではないだろうか。
国内では京セラ(法人向け事業は継続)や旧FCNT、海外ではLGエレクトロニクスなど、中国メーカーの攻勢で名だたる企業のスマートフォン事業撤退が相次いでいる。それでもなおソニーのスマートフォン事業が現在も継続できているのは、ここまで示してきたように2014年の赤字以降、シェアを度外視してでも確実に利益を出すことに重きを置いたが故でもある。
だが、スマートフォンを巡る市場環境は年々厳しさを増す一途であり、ソニーが今後も事業を継続できるか不安視する声が少なくないのもまた確かだ。では今後、ソニーのスマートフォン事業を大きく左右するのは何かといえば、国内で最も大きなスマートフォンの販路とされている、携帯大手3社ではないかと筆者は見ている。
Xperiaシリーズは国内で強いブランド力を持ち、固定ファンを多く抱えることもあって、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社がソニーのスマートフォンをおおむね継続的に扱っている。実際、Xperia 1 VIIやXperia 1 VIだけでなく、現行のXperia 10シリーズでは最も新しい「Xperia 10 VI」も3社から販売されている。
そして最近の傾向を見るに、携帯3社全てが扱うスマートフォンは、アップルのiPhoneとグーグルのPixelシリーズを除けば、あまり多いとは言えない状況にある。
実際にソフトバンクは、2025年の「Galaxy S25」シリーズまでサムスン電子製のスマートフォンを長らく扱っていなかった。国内では大きなシェアを持つシャープもKDDIの取り扱いが減少しており、執筆時点で最新となる「AQUOS R9 Pro」もKDDIは販売していない。
それだけに、ソニーがいかに携帯3社から大きな販売支援を受けているかが分かるのだが、一方でそれが崩れれば販売数が大きく減少し危機に陥る可能性も小さくない。
そのことを示しているのがXperia 5シリーズの動向だ。というのも、Xperia 5シリーズは、2022年発売の「Xperia 5 IV」まで携帯3社が取り扱っていた。しかし、2023年発売の「Xperia 5 V」はソフトバンクが販売せず、KDDIも「au」ブランドで販売したものの販路をオンラインショップに絞り、実店舗での販売が見送られた。
その結果、Xperia 5 Vは販売数も大幅に減少したものと見られている。2024年には先にも触れたように、ソニーがXperia 5シリーズの新機種投入自体を見送っている。携帯3社から販売面で支持が得られなくなったシリーズは開発継続が難しくなる可能性が高いだけに、ソニーのスマートフォン事業の将来は、国内携帯3社が大きく左右するというのが、筆者の見方である。
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