「アナログ的」の代名詞だった不動産業界で、今ようやくデジタル化が加速し始めた話【解説】

川戸温志(NTTデータ経営研究所)2025年04月02日 07時02分

 「不動産テック」というトレンドワードが誕生してから10年ほどが経とうしている。矢野経済研究所によると、2022年度の不動産テックの市場規模は前年度比21.1%増の9402億円と推計され、2030年度には2022年度比約2.5倍の2兆3780億円に拡大すると予測されている。

 国内の不動産テックを収録する不動産テックカオスマップでは2016年の初版から2024年時点の第10版までサービス数が実に6倍以上に増えている。そうしたなか近年、注目を浴びるのがAIの活用だ。

  1. 不動産業界に広がるAIの活用
  2. 本気となった国の不動産DXへの取り組み
  3. アナログ的だった業務スタイルがついに変わる

不動産業界に広がるAIの活用

 以前から不動産価格の推定や賃料査定の一部サービスでAIが活用されていたが、「ChatGPT-4」の登場をきっかけに、生成AIを中心としたAIの活用が不動産の世界にも本格的に広がっている(下図参照)。


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 不動産ビジネスの肝となる用地取得。Penetratorが提供する「WHERE」は、衛星画像からAIによって全世界どこでも、空き家や駐車場や畑など指定した不動産を自動的に識別し、不動産所有者情報をワンクリックで割り出すサービスだ。

 従来、紙の地図を見て有望そうな土地を特定し、現地調査をし、法務局で不動産登記情報を見て情報を得ていたものが、同サービスによって、パソコン画面上を操作するだけで不動産所有者情報を得られる。

 他にも、オフィスデザインやオフィスレイアウト設計がある。イトーキは、東大発AIスタートアップ企業、燈と共に、オフィスデザイン自動生成AIと関連したアプリケーションを開発している。

 オフィスデザイン自動生成AIは、イトーキの社内データベースに蓄積されたオフィスレイアウトなどのデータをもとに、様々なパターンのオフィスを自動でデザインできる。

 この生成AIと連携させ、燈のもつ空間スキャン技術を活用し、オフィスデザインを瞬時にシミュレーションすることで、従来は膨大な工数と時間を費やしていたオフィス内の寸法測定などのアナログ作業を大幅に軽減し、オフィスデザインの初期提案をよりスピーディーに行える。

 住宅販売時に家具や照明などインテリアで演出するホームステージングでもAIの活用が広がっている。

 AIによってバーチャル内見の動画を自動生成し、プロンプト等の指示語から様々な生活スタイルの家具やインテリアなども自動生成するバーチャルステージングが広がっている。

 生成AIの登場により、物件の写真さえあれば、あたかも本物のホームステージングのような家具等インテリアを配置した画像や動画を簡単に生成できるため、こうしたサービスは続々登場している。

 Webページへの物件掲載においてもAIの活用が進む。

 野村不動産ソリューションズの「ノムコム」では、間取り図から部屋の特徴を抽出する「間取図特徴抽出AIモデル」が使われている。これにより、物件情報の登録漏れを防ぎ、業務効率化を実現している。

 アットホームが提供する不動産業務総合支援サイト「ATBB」では、AIの活用により物件画像から特長と魅力を読み取り、画像のキャプションを自動生成する機能を搭載している。これにより業務負担を軽減している。

 契約書周りもAIによって変化が起きている。

 AI契約書レビューサービスは、契約書をアップロードするだけでAIが自動でリーガルチェックを行ってくれるサービスだ。

 AIによって時間をかけずに契約書に潜むリスクやインシデントを洗い出し、指摘コメントを受けられる。

 なかには、リーガルチェックだけでなく、ドラフトの作成や条文の修正もサポートしてくれる。

 AI契約書レビューサービスによって、多くの契約書を扱う不動産業において従来からの課題であった業務の属人化や煩雑なやりとりなど業務を効率化できる。

 AIによるチャット系サービスも広がっている(下図参照)。


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 不動産業はお客様から問い合わせや相談の多い世界だ。

 これまでは1件1件、営業担当者が対応していたが、ChatGPTなど自然対話式のAIの登場により、AIによるチャット系サービスに置き換わり始めている。

 背景にあるのは、労働集約的な業務による人手不足や24時間対応へのニーズ、LINEなどの浸透によるチャットの一般化だ。

 社内文書やノウハウの検索、文書作成やSNS投稿などの社内業務においてもAIの活用が広がっている。

 三井不動産株は、全従業員約2,500人を対象に自社特化型AIチャットツール「&Chat」を開発。「&Chat」によって、社員は文章の要約や翻訳、アイデア出しなど日常業務の効率化を実現している。

 東急リバブルは、SNS投稿文章の作成業務に生成AIを活用した独自の業務システムを開発。不動産情報の読取・理解からSNS投稿文章の原案作成までを生成AIが担い、それを担当者が修正することで、1件当たり45分の作業時間を10分にまで短縮している。

本気となった国の不動産DXへの取り組み

 国も不動産DXへの取り組みに積極的だ。

 2020年にスタートした「PLATEAU」は、国土交通省が主導する日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクトだ。誰もが自由に都市のデータを引き出せるよう、3D都市モデルをオープンデータとして提供している。


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 「PLATEAU」は、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化を進めることで、まちづくりのDXや日本全国の都市デジタルツインを実現し、多くの地方公共団体や民間企業らと共にオープンイノベーションを創出している。

 2024年にスタートした「不動産情報ライブラリ」も見逃せない。

 「不動産情報ライブラリ」は、日本全国の取引価格や成約価格、周辺施設、防災情報、都市計画の情報など不動産取引の際に参考となる様々な情報を重ね合わせて地図上に表示させるWebサービスだ。

 かつては「土地総合情報システム」という名前で知られていたが、現在はより広範な不動産情報をカバーし、使いやすく進化している。

 注目すべきポイントがAPI公開だ。APIに接続することで、民間企業は自社のITシステムやWebサイトに「不動産情報ライブラリ」のデータを取り込め、その企業は新たな付加価値の高いITシステムやWebサービスを新たに作り出せる。

 「不動産ID」の取り組みも進んでいる。

 「不動産ID」とは、建物や部屋ごとに番号を振って一意に識別できるようにする制度だ。不動産データや各種データの紐づけるためには、不動産IDが必要不可欠だ。

 従来は住所に数字や漢字、かなが交じっているため、表記が揺れやすく、業務の手間やミスが発生しやすかった。

 これに対して不動産IDは、法務省の登記情報をもとに17ケタの番号を割り振って一意のIDとしている。

 2024年12月からは、日本郵便が持つ郵便受けの所在地情報をもとに割り振った番号のデータベースを不動産IDと紐づけした形での実証実験をスタートさせている。

アナログ的だった業務スタイルがついに変わる

 日本生産性本部が2024年12月に発表した日本と海外の労働生産性を比較したレポートによると、日本の不動産業は米国の生産性を100とするならば、わずか31.3と全産業のなかでも低い水準だ。

 不動産業の業務は極めて多岐にわたっており、例えば不動産の販売や仲介であれば、来客対応やメール・電話対応、物件や顧客情報の管理、内見や商談・契約の対応、契約書など書類対応、売り上げ管理やアフタフォローなど労働集約的な業務が殆どである。

 こうした業務を「紙・電話・FAX」に代表されるようなアナログな業務スタイルで実施していることが、低い労働生産性の要因となっている。

 このようにアナログかつ労働集約的な業務の多い不動産業だからこそ、生成AIをはじめとするテクノロジーの活用によって、業務変革やビジネス変革を起こせる大きな伸びしろがある。

 国主導の不動産データのオープン化の動きが進みはじめ、様々なシーンで生成AIを中心としたテクノロジーの活用が広がっている。

 AIには質の高い膨大なデータが必要不可欠であるため、不動産データのオープン化とAI活用の両輪が揃うことで、より加速度的に広がっていくであろう。

 「不動産テック」というトレンドワードが登場して10年。いよいよ日本の不動産DXは次のステージへと進もうとしている。

川戸 温志 KAWATO, Atsushi

 ビジネストランスフォーメーションユニット/シニアマネージャー
大手システムインテグレーターを経て、2008年より現職。経営学修士(専門職)。ITやテクロノジーを軸とした中長期の成長戦略立案・事業戦略立案や新規ビジネス開発、アライアンス支援を得意とする。
不動産・物流・ホテル・小売・通信・TI・金融・エネルギーなどの幅広い業界を守備範囲とし、近年は特に不動産テック(PropTech/RealEstateTech)や物流テック等のTech系ビジネスやビッグデータ、AI、ロボットなど最新テクノロジー分野に関わるテーマを中心に手掛ける。
一般社団法人不動産テック協会の顧問、不動産・建設DX推進会議の事務局長も務める。

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