iPad Air、その「Air」はどこへ?立ち位置は今も「手の届くiPad Pro」

Scott Stein (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年03月13日 07時30分

 目の前に最新のiPadがある。色はパープル。画面は大きく、内蔵チップは「M3」。製品名は「iPad Air」だ。しかし、ぱっと見ただけでは、これがiPadの新モデルだとはわからない。新型iPad Airは、予算さえ許せば、ほとんどの人にとっては最も汎用性の高いiPadとなるだろう。しかし2025年も、iPadシリーズに革新の風は吹かなかった。

iPad Air 提供:Scott Stein/CNET
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 2020年代も半ばに入ったが、iPadが提案する価値はほとんど変わっていない。つまり、ソフトウェア面では多少の制約があるものの、その点さえ受け入れられれば「ノートPCの代替になり得る優秀なタブレット」だ。しかし、iPad Airという名称は依然として誤解を招く。その名に反して、iPad Airは最も薄いiPadではない。むしろ、ほとんどの人にとってはお手頃価格のiPad Proだ。

 2024年にAppleはiPad AirとiPad Proを刷新した。iPad Airには「M2」チップが搭載され、iPad Proには「M4」チップに加えて、新たに有機ELディスプレイが採用された。それから1年。現在のところ、iPad Proに新モデルは登場しておらず、価格は最小構成でも999ドル(日本では16万8800円)と非常に高いままだ。一方、iPad Airには新型が登場し、内蔵プロセッサーがM3にアップグレードされた。別売の専用「Magic Keyboard」も刷新され、若干安くなった。こうした改良点にもかかわらず、新型iPad Airの価格は据え置かれ、最小構成なら599ドル(日本では9万8800円)で手に入る。

 とはいえ、今回のアップデートはあまりときめかない。それどころか、これほど気分の上がらないiPadのアップデートは初めてだ。もちろん、値上げなしで性能が向上したことは歓迎すべきニュースだが、新鮮さに欠ける。

 筆者は1年前の記事で、2024年モデルのiPad Airをほとんどの人に適した、手の届く価格のiPad Proと評した。この評価は2025年モデルでも変わらない。確かに、M4搭載iPad Proはすばらしいタブレットだが、発売から1年がすぎた今、400ドル(日本では約7万円)も余計に支払うのは気が進まない。iPad Proと比べると、iPad Airは少し厚みがあり、「Face ID」は使えない。背面のLiDARセンサーも、M4チップも、有機ELディスプレイもない。しかし、性能は十分に高く、「Apple Pencil Pro」にも対応する。問題は、妥協点を受け入れられるかだ。

iPad Air 提供:Scott Stein/CNET
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 また、iPadシリーズにはもう1つ、ほとんどの人にとって検討する価値のあるモデルがある。無印iPadだ。今回、新型iPad Airと同時に発表されたエントリーモデルの新型iPadは、十分すぎるほどの魅力を放っている。まだテストはしていないが(Appleからレビュー用のiPad Airが届いたとき、新型の無印iPadは同梱されていなかった)、128GBのストレージと「A16」プロセッサー(性能は高いがApple Intelligenceは実行できない)を搭載した新しい無印iPadは有力な選択肢となるだろう。しかし、Apple Pencil Proを使いたい、AIやグラフィック機能を積極的に使いたいなら、ほどほどの価格で高性能なiPad Airがおすすめだ。

 今回、Appleから送られてきたレビュー用iPad Airは容量1TBの13インチモデルだった。実際にこの構成で買おうとすると、価格は1299ドル(日本では21万6800円)。これだけの額を出すなら、筆者はiPad Proの購入を検討する。個人的に買うとすれば、検討するのは11インチモデルのiPad Airだ。容量はもっと少なくていい(13インチモデルはアスペクト比の都合上、映画は大幅にリサイズされて表示されるため、思うほど動画の閲覧には向いていない)。

iPad Air 対 無印iPad:価格差250ドルの価値はあるか

Apple Pencil Pro Apple Pencil Pro
提供:Scott Stein/CNET

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 エントリーモデルである無印iPad(349ドル、日本では5万8800円)と比べると、iPad Airは250ドル(日本では4万円)も高いが、価格差分の価値はある。理由は大きく2つあり、1つはM3チップを搭載していること、もう1つは別売のApple Pencil Pro(129ドル、日本では2万1800円)が使えることだ

 iPad Airに搭載されたM3が、A16搭載の無印iPadと比べて、どれだけの性能差を生むかはまだわからない(前述したように、まだ新型の無印iPadはテストしていない)。M3はグラフィック処理、AI機能、速度の面で大きな向上が見られ、すぐに時代遅れになる心配はない。ほとんどのiPadユーザーにとってM3はオーバースペックだが、新型の無印iPadはApple Intelligenceに対応していないため、長期的にはiPad Airの方が長く使えるかもしれない。

 同じことは純正スタイラスの上位モデルであるApple Pencil Proにも言える。Apple Pencil Proは無印iPadが対応している「Apple Pencil」より機能が多いため、アーティストなら迷わずiPad Airを選ぶだろう。

 エントリーモデルの無印iPadがApple Pencil Proに対応しておらず、Apple Intelligence対応チップも搭載していないのは差別化のための意図的な判断のように感じられる。不満はあるが、2025年モデルはそういうものと考えるほかない。

iPad Air 対 iPad Pro:Proモデルの優位性が低下

 今、あえて高額なiPad Proを買う理由はあまりない。M3とM4チップの性能差は、2024年のM2とM4の性能差ほど大きくない。新型iPad Airなら、新型Magic KeyboardやApple Pencil Proも使える。iPad Proにしかない特徴としては、高コントラストのHDRカスタム有機ELディスプレイ、さらに薄型のデザイン、Face IDカメラ、背面のLiDARセンサーなどが挙げられるが、一部の人を除けば、そのために400ドルを追加で出す価値があるかは微妙だ。個人的には納得感はない。

M3搭載は朗報だが、決定打にはならない

 Apple純正のMシリーズは高性能なチップだが、AIやグラフィック、ビデオや写真関連の機能を日常的に使うヘビーユーザーでもない限り、その性能をiPadでフルに生かせる人は少ないだろう。とはいえ、M3にアップグレードしたことにより、ベンチマーク測定ソフト「Geekbench 6」で、新型iPad Airはマルチコアのスコアが1万1643を記録した(M4搭載iPad Proは1万4672、2024年発売のM2搭載iPad Airは9894)。つまり、マルチタスクの処理速度を比較すると、M3搭載iPad Airは2024年のM2搭載iPad Airより約18%速く、M4搭載iPad Proより約26%遅い。

 しかし、Apple自身もMシリーズのチップ間の性能差を明らかにはしていない。実際、M2とM3の差はそれほど大きくないだろう。しかし、Mシリーズチップを搭載したiPadを使うのが初めてなら、大きな進化を感じられるはずだ。

Magic Keyboardはさらに魅力的に

Magic Keyboard 提供:Scott Stein/CNET
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 2024年に発売されたM2搭載iPad Air用のMagic Keyboardは、M3搭載iPad Airでも使えるため、すでに持っているなら新調する必要はない。しかし、新型Magic Keyboardはやや価格が下がった(269ドル、日本では4万6800円〜)だけでなく、ファンクションキー列が追加されるなど、魅力が高まっている。後ろにひっくり返すことはできないが、iPadをノートPC化するための筆者お気に入りの手段となっている。

 ただMagic Keyboardは重く、付けるとiPadの厚みが増す。筆者はもう慣れたが、13インチのiPad Airで使うと、全体の重量は「MacBook Air」を超える。また、iPad Air用Magic KeyboardとiPad Pro用Magic Keyboardには若干の違いがある。例えば、トラックパッドの面積はPro用の方が大きく、全体のサイズは同じにもかかわらず、キーボードの位置が全体に上に押し上げられている。個人的にはiPad Pro用キーボードのレイアウトの方が好みだが、iPad Air用キーボードとレイアウトが違う理由はわからない。

 違いはこれだけではない。iPad Air用キーボードには、iPad Pro用キーボードにあるバックライトがない。内側の素材もiPad Pro用のようなアルミニウム製ではなく、トラックパッドもiPad Pro用より小さい。また、iPad Pro用キーボードのトラックパッドは触覚フィードバックに対応しているのに対して、iPad Air用キーボードのトラックパッドは物理クリック機構を採用している。iPad Air用キーボードは、iPad Pro用と同様にパススルー充電に対応したUSB-Cポートを備えるが、いくつかの点でコスト削減の跡が見られる。

良くも悪くも、いつものiPad

 この1年間、ソフトウェア面ではApple IntelligenceがAppleに関する話題の中心だった。2024年と同様に、2025年モデルのiPad AirもiPadOSに搭載された生成AI機能をすべて実行できる。現時点では、これらの機能はそこまで驚くべきものでも、便利なものでもない。メッセージや通知の要約機能はうっとうしく、誤解を招くことさえある。「Image Playground」と「ジェン文字」の画像生成は、他の生成AIアプリの画像生成ツールほど優秀ではない。「Siri」は「ChatGPT」と連携したが、ChatGPTアプリを入れて、ChatGPTを直接使うことも可能だ。Appleは予定していたSiriの機能強化を再延期すると報じられているので、Apple Intelligenceを急いで生活に取り入れる必要はない。実際のところ、今はまだベータ版の機能のように感じられる。

 言うまでもないが、iPadは汎用性の高いデバイスで、たくさんのアプリを実行できる。(ある程度は)マルチタスクも可能だ。Mシリーズのチップを搭載したiPadなら、外付けモニターでも対応できる。まるでノートPCだ。その気になれば、コンピューターと遜色ない体験が得られる。とはいえ、Macとは同じではない。この点が筆者にとってはストレスだった。このレビュー記事もiPad Airで書いているが、完成したらMacBookから提出するつもりだ。米CNETのコンテンツ管理システムはiPadからは使いにくいからである。現在のiPadはMacとは違う。Apple製コンピューターのラインナップは現在も分断されており、ユーザーは2025年もiPad派かMac派か、あるいは併用派かを決める必要がある。

 併用は可能であり、筆者もそうしている。ただし、その場合はiPadに多額を投じることは避けたいと思うだろう。エントリーモデルのiPadは、カジュアルなアクセサリーとして購入しやすい価格に設定されているようだ。一方、iPad Airはやや手頃な価格(599ドル)から始まり、ストレージを拡張(最大1TB)したり、Apple Pencil ProやMagic Keyboardなどのアクセサリーを追加したりすると、ハイエンドノートPCに近い価格になる。

次から名称は「Air」でなくていいのかも

 Appleは最新のiPad Airで背面から「iPad Air」の文字をなくし、Appleのロゴのみを残した。これは何かの予兆かもしれない。現状、iPadのラインナップにおいて「Air」という名称は大きな意味をなしていない。

 iPad Airの完成度は高いため、構成次第では将来性がありながらも比較的手頃な価格で、自分に合ったiPadを手にできるだろう。特に、M3チップの性能を必要とするツールを本格的に使いたいなら、有力な選択肢となる。高額な出費にならないようにすれば、満足度は高いはずだ。

 では、実際のところ筆者が何を望んでいるのかと言うと、キーボードを付けたこの高性能なiPadが、ボタン1つでMacに切り替わってほしいというのが正直なところだ。有機ELディスプレイの搭載も望ましい。これらの点を除けば、iPad Airは現状でも筆者が求める基本的機能をすべて備えている。ただし、「macOS」にも切り替えられる形態への進化が見込めないのであれば、高い価格を受け入れるのは難しい。今回、Appleが低価格帯やミドルレンジのiPadに注力しているのは、同社も同様の考えを持っているからかもしれない。または、Pro向けのM5チップがまだ準備段階にある可能性も考えられる。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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