「公衆Wi-Fi」はオワコンなのか--相次ぐサービス終了、最新動向を解説

 特定のスポットでWi-Fiに接続し、多くの場合無料でインターネットが利用できる公衆Wi-Fi。一時は多くの企業が公衆Wi-Fiの整備に動いていたが、最近ではその存在感が大きく低下しつつある。あまり利用していないという人も多いのではないだろうか。

 なかでも公衆Wi-Fiの退潮を象徴する出来事として、『セブン-イレブン』などを展開するセブン&アイグループが提供していた公衆Wi-Fiスポット『7SPOT』の2022年終了が挙げられるだろう。

  1. セブン、ファミマ、東京メトロも終了
  2. 終了の要因は
  3. 利用できるところも
  4. 逆に利用が広がっているケースも

セブン、ファミマ、東京メトロも終了

 7SPOTは2011年からサービスを開始しており、会員であれば1回最大60分のWi-Fi接続を無料で1日3回利用できたほか、携帯ゲーム機などとの連携施策も実施するなど、公衆Wi-Fiでは大きな存在として知られていただけに、その終了は大きなインパクトを与えることとなった。

 また同年には、同じコンビニエンスストア大手のファミリーマートが「Famima_Wi-Fi」を終了したほか、東京メトロも「Metro_Free_Wi-Fi」を終了するなど、大手事業者が公衆Wi-Fiを終了させる動きが相次いでいる。その一方で、2025年現在も公衆Wi-Fiの大規模整備に動く事業者は見られない。

終了の要因は

 しかしなぜ、以前は整備が活発に進められていた公衆Wi-Fiが、大きく存在感を失うに至ったのだろうか。これまでの経緯を振り返るに、大きな影響を与えた要因は2つあると考えられる。

 その1つは訪日外国人観光客の存在だ。そもそも国内で公衆Wi-Fiの整備が進んだのは、日本政府のインバウンド需要開拓に向けた取り組みが非常に大きく影響している。

 日本は元首相の小泉純一郎氏の政権下にあった2003年から、観光立国の実現に向けた動きを進めた。2007年には観光立国推進基本法を施行するなど、訪日外国人向けの観光を新たな産業として開拓する動きが積極化した。

 そこで問題点の1つとして多くの指摘されたのが、訪日外国人向けのインターネット環境整備、なかでも海外では既に広く利用されていた公衆Wi-Fiの整備が日本では進んでいなかったことだ。

 とりわけ、2013年に2020年の東京五輪開催が決定し、より多くの外国人が日本を訪れることが予想されたこともあり、東京五輪に合わせて公衆Wi-Fiの整備が進んだ側面も大きい。だがそこに大きな影を落としたのが、2020年からおよそ3年に渡って続いた新型コロナウイルスの影響だ。

 コロナ禍の影響で外国人観光客は激減、東京五輪も1年延期の末、ほとんどの競技が無観客で実施されるなど、長期間にわたってインバウンドの需要がほぼ消失してしまった。コロナ禍からの需要復活を見通せなかった当時、訪日外国人に重点を置いて整備が進められた公衆Wi-Fiの見直しを進めた企業が増えたといえよう。

 特に流通小売や交通事業者は、コロナ禍で移動が制限されたことで事業に大きなダメージを受けていただけに、需要が失われた公衆Wi-Fiにお金を出し続けるのが難しくなったと考えられる。実際、先に挙げた7SPOTなど主要な公衆Wi-Fiのサービス終了は、コロナ禍の真っ只中にあった2021年から2022年が目立っている。

 そしてもう1つ大きな影響を与えたのが5G、ひいてはモバイル通信だ。実は公衆Wi-Fiを要望する意見にはインバウンド需要以外にもう1つ、外出先で安くインターネットを利用したいという声も少なからずあった。

 確かに3Gや4Gが主体だった2000年代から2010年代半ばにかけては、モバイル通信のデータ通信速度が遅い上に料金も高く、携帯電話やスマートフォンのデータ通信を、Wi-Fiなどを経由してパソコンやゲーム機などで利用する「テザリング」も禁止、あるいは制約を加える事業者が多かった。だが一方で、外出先で高速なデータ通信を安く利用したいというニーズも多くあり、それが公衆Wi-Fiの整備を後押しした側面も強い。

 しかしながら、2010年代後半になると4Gの技術進化で高速大容量化が進み、携帯各社のテザリングに関する制約も徐々に減少。そして2020年には日本でも5Gのサービスが開始したことで、理論値であれば最大通信速度がダウンロードで1Gbpsを超えるサービスも既に一般的なものとなっている。

利用できるところも

 加えて、2020年に首相に就任した菅義偉氏の政権下では、携帯電話料金の引き下げを政権公約に掲げ、携帯各社にプレッシャーをかけて料金引き下げを迫った。その結果、2021年にはオンライン専用の「ahamo」など、より安価で大容量通信を利用できる料金プランが相次いで登場。5Gの高速通信が安く利用できるようになった結果、国内ユーザーの公衆Wi-Fi需要も減少したことで存在感が失われたといえる。

 ただここで1つ、既にコロナ禍が終息しておりインバウンド需要は復活しているにもかかわらず、公衆Wi-Fiの存在感が落ちたままなのはなぜなのか? という疑問を抱く人も多いことだろう。確かにコロナ禍を経て多くの公衆Wi-Fiスポットは終了したままなのだが、だからといって全ての公衆Wi-Fiスポットが終了した訳ではない。

 実際、通信各社が提供する「d Wi-Fi」「au Wi-Fi」などの公衆Wi-Fiは継続して提供されているし、災害時にこれらスポットを無料開放する「00000JAPAN」の取り組みも進められている。

 加えて、訪日外国人も多く利用するホテルや観光施設などでは、無料でWi-Fiが利用できることが既に当たり前だ。広くあまねく公衆Wi-Fiを提供する動きは確かに減少したが、需要に応じて必要な場所に公衆Wi-Fiを整備する動きは現在も進められているのだ。

逆に利用が広がっているケースも

 また逆に、最近になって公衆Wi-Fiスポットの利用が広がっているケースもある。それは野外音楽フェスなど、一時的に多くの人が集まる大規模イベントだ。こうした場所ではスマートフォンの利用が集中してモバイル通信の利用が難しくなることが多いのだが、一方でスマートフォン決済の利用が広がっており、混雑のため物販コーナーでスマートフォン決済が利用できないという不満やトラブルも増えている。

 そこで物販コーナーの周辺でモバイル通信とは別に公衆Wi-Fiを設け、そちらを利用して決済してもらうという取り組みも広がってきているのだ。高速データ通信が可能な衛星通信サービス「Starlink」が登場し、場所を選ばずブロードバンド回線が利用できるようになったことも、臨時イベントで公衆Wi-Fiを活用しやすくなった要因となっているようだ。

 環境変化で以前のように広域で公衆Wi-Fiを整備する必要性は薄れたが、公衆Wi-Fiのニーズは確実に存在している。そうしたニーズをカバーする公衆Wi-Fiは現在も多く存在するが、それが目に入らなくなったことで多くの人には“オワコン”のように見える、というのが2025年の公衆Wi-Fiの現状といえるのではないだろうか。

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