中国DeepSeekに「過度な期待」は禁物--冷静になるべき理由

Imad Khan (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年01月29日 06時11分

 AIは「スプートニク・ショック」を迎えたようだ。これは歴史的な転換点とも言える出来事だ。

DeepSeek(James Martin/CNET) DeepSeek(James Martin/CNET)
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 先週日曜日、起業家のマーク・アンドリーセン氏がそう表明した。シリコンバレーや株式市場、ネット上の論者たちは、AI分野に突如訪れたゲームチェンジに戸惑っている。

 中国発の新しいAIモデル「DeepSeek AI」はAppleのApp Storeで急上昇し、シリコンバレーを揺さぶっている。DeepSeekによれば、このAIはOpenAIの「o1」と同等の性能を発揮し、特定の条件下ではそれを上回ることもあるという。

 そして、そのコストはわずかしかかからない。また、DeepSeekの「R1」モデルは完全オープンソースで、誰でも無料でコードにアクセス可能だ。

  1. DeepSeekとOpenAIの違いとは
  2. 「米国が負けた」と断じるのは時期尚早
  3. DeepSeekは本当に550万ドルでR1を開発したのか
  4. DeepSeekはAIの競争を加速させる

DeepSeekとOpenAIの違いとは

 OpenAIのo1とDeepSeek-R1の大きな違いは、R1が思考の過程(チェーン・オブ・ソート)を可視化できる点にある。AIがどのように「考え」答えを導き出そうとしているのかを、実際に見ることができるのは驚きだ。

 たとえば、天安門事件に関する質問に回答しようとすると、途中でその回答を取りやめる様子も確認できる。この革新が注目を集める一方、AI革命の中心にいるNVDIAの株価は、DeepSeekの急成長の影響を受けて18%下落し、1日にしてトヨタ2つ分の時価総額が吹き飛んだ。

 もしDeepSeekの主張が正しく、旧型のNVIDIA製チップでo1に匹敵する性能を低コストで実現できるなら、市場が動揺するのも当然だ。

 ネット上では、DeepSeekの台頭について議論が盛んだ。「本当にo1と同等の性能を低コストで実現しているのか」「DeepSeekや中国が言う効率性の高さはどこまで信頼できるのか」「コスト削減は技術的なブレイクスルーによるものか、それとも中国のサプライチェーンの安さに起因するのか」といった点が問われている。

 いずれにせよ、R1は非常に強力だ。

 「この低コスト化で、これまで高度なAI技術を利用できなかった小規模企業やスタートアップがその技術を活用できるようになる」──。AIリサーチエンジン企業Corpora AIのCEO、メル・モリス氏はCNETの取材に答えた。

 さらに彼は「DeepSeekが既存のAIプレイヤーにとって大きな脅威となる。この存在がAI技術のさらなる進化を促進し、増え続ける需要に応えるため、より効率的でアクセスしやすいソリューションをもたらすだろう」と付け加えた。

 こうした流れを受けてか、OpenAIのCEOは土曜日に上位モデルに近い「o3 mini」の価格を引き下げたようだ。

 現在、大手テック企業は何十億ドルもの資金や膨大なリソースをAI開発に投じ続けている。一方、DeepSeekの効率化は、自動車技術がキャブレターから燃料噴射システムに進化した時のような劇的な変化に匹敵するかもしれない。

 しかもOpenAIとは異なり、DeepSeekのR1はオープンソースで提供されており、誰でもその技術を利用できる。これは、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiが市場を閉鎖的に独占してきた現状を大きく変えてしまう。

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「米国が負けた」と断じるのは時期尚早

 米中のAI競争で米国は、シリコンバレーへの巨額投資と、中国への半導体の輸出規制でリードしてきた。しかし、その規制が中国に独自チップ開発を急がせ、むしろ逆効果を招いた可能性がある。

 今や世界中のユーザーと企業が、高い推論能力を持つモデルを低コストで使えるようになった。しかもTikTokの親会社ByteDanceは、R1よりさらに安価なモデルをリリースしているという。

 こうした中国の動きに対して市場やSNSが素早く反応しているが、米国がAI競争で負けたと断じるのはまだ時期尚早だ。それでも、中国が急速に追いついているのは間違いない。

 CivAI(AIの可能性を示す非営利団体)の共同創設者であるルーカス・ハンセン氏は、「中国は従来もGPT-4に匹敵するモデルを作ってきたが、1年から1年半ほど遅れていた。それが今回のモデルでは半年遅れに縮めた可能性がある」と述べた。「米国はまだリードしているが、その差は以前よりも縮まっている」とも指摘した。

 DeepSeekのR1が注目を集める理由の一つは、その思考過程を可視化できる点だ。たとえ全ての回答が正確でなくても、その過程を見られることでAIモデルの改善が進む。ハンセン氏は「R1が人々に衝撃を与えているのは、思考過程を目にすることができるからだ」と語る。OpenAIのo1はこの部分を公開しておらず、いわば「秘伝のタレ」を隠すことで有料サブスクリプションを維持している状況だ。

DeepSeekは本当に550万ドルでR1を開発したのか

 ただし、R1のコスト対性能比には疑問の声もある。DeepSeekが公表したホワイトペーパーには100人以上が名を連ねているが、550万ドルという低コストでそこまでのAIモデルを訓練することが本当に可能かは疑問だ。550万ドルという費用は電気代だけで、研究者たちの人件費などは含まれていない可能性がある。さらに、中国は米国と異なり、データセンターの設立費用に政府の補助金があった可能性もハンセン氏は指摘する。

 また、DeepSeekが使用したチップについても議論がある。古いNVIDIAのA100やH800を使用しているとされるが、実際には最新のH100を別ルートで調達している可能性もあると、Scale AIのCEOアレクサンドル・ワン氏は指摘した。

 仮に550万ドルという数字を控えめに見ても、OpenAIがGPT-4の訓練に要した1億ドルと比べると圧倒的に安い。OpenAIはo1の開発費を公表していないが、トークン使用料金が高いことから見ても、GPT-4よりかなり多額の費用がかかっていると考えられる。

 「2030年までに米国のデータセンターの消費電力は2~3倍になると予想される中、効率化の重要性は非常に大きい」と、バーモント法科大学院エネルギー・環境研究所のマーク・ジェームズ氏は述べた。すでにAIの電力需要が公共インフラに負荷をかけている。もしDeepSeekの効率が本物なら、電力負荷を軽減し、環境や消費者への影響を抑えられる。一方で、効率化がさらなる市場拡大を引き起こし、結果的に電力需要が増加する可能性にも同氏は触れた。

DeepSeekはAIの競争を加速させる

 米国がAI競争で敗北したと決めつけるのはまだ早いが、競争が激化したのは間違いなく、さらなるイノベーションの余地が生まれている。DeepSeekがすぐに人工汎用知能(AGI)を実現するわけではないが、大規模言語モデル(LLM)の商業利用が一層進む可能性がある。

 「DeepSeekがAGIに近づいたとは言えないが、商業的に実用的なLLMの実現が加速するのは素晴らしいことだ」──。Artificial Superintelligence(ASI)アライアンスのCEOであり、SingularityNETの創設者でもあるベン・ゲルツェル氏はそう述べた。

 DeepSeekも他のAIモデルと同様に認知的な限界はあるが、その効率性はAIをさらに民主化し、多くの人々が活用できる環境を作る可能性を秘めている。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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