NVIDIAから「トヨタ2つ分の時価総額」を剥いだ中国AI DeepSeek--使用のリスクは

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 編集部2025年01月28日 08時12分

 AIアシスタント「DeepSeek」が、iPhoneのApp Store無料アプリランキングで急上昇している。しかし、この中国製アプリをダウンロードした人は、あまり長く使えない可能性があると思っておいたほうがいいかもしれない。

 このチャットボットは、その速度や効率性、そして強力な推論力が高く評価され、ランキング首位からOpenAIのChatGPTを押しのけたことで比較されることが多い。それだけでなく、シリコンバレーが自称する「AIのリーディングフォース」というイメージを揺るがすように、米国の主要企業が使うほど高性能なチップではなく、より低スペックなチップでも動作する点も注目を集めている。

  1. DeepSeekはファーウェイやTikTokをなぞるか
  2. 「中国政府が隠したい過去」への検閲が制裁の根拠に
  3. DeepSeekは素晴らしいかもしれないが依存はNG

DeepSeekはファーウェイやTikTokをなぞるか

 中国製アプリやサービスが話題になるとき、まずよく聞かれるのがユーザープライバシーに関する懸念だ。とはいえ「DeepSeek」アプリが急速に広まり、すでに多くの人のスマホにインストールされているのは事実だ。今のところ自分のデータを「DeepSeek」に預けるかどうかは個人の選択に委ねられているが、長期的にはそうとも言っていられないかもしれない。

 そう考えられる理由の一つは、米国政府が中国のテクノロジーを警戒しているからだ。アプリの成功に対して何らかの介入をする可能性は十分にある。実際、TikTokをめぐる現状や、かつて中国のスマホメーカー「Huawei(ファーウェイ)」がたどった経緯を思い出せばわかりやすい。Huaweiは米国でスマホやネットワーク機器を事実上買えない状態に追い込まれた。ワシントンが国家安全保障上の懸念を理由に強く反対すれば、製品やサービスを規制することはたやすい。

 2018年、Huaweiは世界のスマホメーカーとしてサムスンに次ぐ2位の座にまで上りつめ、Appleを3位に追いやったこともある。しかし米国での販売を制限された結果、Huaweiの世界シェアはその後徐々に縮小していった。一方、人気SNSアプリ「TikTok」も米国で利用を継続できるかどうかの瀬戸際にあり、今のところ米国内のiPhoneやAndroid端末ではダウンロードできなくなっている。

 いくつかの競合チャットボットと違い、「DeepSeek」がオープンソースである点は一定の防御策になりうる。誰でも自分のパソコンで動かせるし、開発者がAPIを利用することも可能なため、完全に締め出すのは簡単ではないからだ。とはいえ、アプリとしての「DeepSeek」は依然として危うい立場にある。

「中国政府が隠したい過去」への検閲が制裁の根拠に

 国家安全保障上の問題に加えて、米国政府はDeepSeekを国内企業の競争力を脅かす存在とみなす可能性もある。これは、HuaweiがAppleにとって、またTikTokがMetaをはじめとする米国のSNSにとって脅威と見なされた状況と似た構図だ。現在はいわゆる「AI競争」に拍車がかかっており、米国はこの分野で覇権を握りたいと考えていると多くの人がみている。

 先週、ドナルド・トランプ大統領は米国企業のOpenAIとNvidiaを、新しいAIインフラプロジェクト「Stargate」の主要パートナーとして発表したばかりだ。しかし、DeepSeekの急速な普及によって、両社のビジネスには即座に影響が出ている。たとえば、OpenAIの「ChatGPT」はApp Storeのランキング順位を下げ、NVIDIAの株価は17%、(編集部追記)時価総額にしてトヨタ2つ分の約90兆円が消え飛んだ。

 トランプ大統領は今のところDeepSeekの急浮上について公にコメントしていないものの、これまでの姿勢を考えると米国のビジネスを守ることには積極的だ。国防上の脅威なのか、ただの競合相手なのか。その境界は外部からはあいまいに見えることが多い。だからこそ、中国企業が米国で大きな注目を集めるときは、あらゆる疑念を払拭しなければ「政府の標的」にされかねない。

 すでに、DeepSeekには、中国政府が過去に隠そうとしてきた歴史的出来事に関する質問を検閲している形跡があるという疑いも指摘されている。もしそれが事実なら、その事実がアクセス制限などの動きの根拠となりかねない。

 米国政府の禁止措置に対して争うのはそう簡単ではない。TikTokもファーウェイも、疑惑を晴らそうと米国内で多大な時間と資金を投じてロビー活動を行ってきた。「DeepSeek」も同様の状況に陥った場合、大きな資金力が不可欠になるだろう。しかも、どれほど優秀で魅力的なチャットボットだとしても、政府が規制に踏み切ればユーザーの意見はほとんど考慮されない。

DeepSeekは素晴らしいかもしれないが依存はNG

 米国ではTikTokへの支持が強いし、CNETではファーウェイのスマホを長年高く評価してきた。iPhoneやSamsung Galaxyと比べても優れた点が多かったと感じている。しかし、国家安全保障を理由とした政治的決定は、往々にして製品のクオリティを上回る力を持つのが実情だ。

 つまり、もしDeepSeekを試してみるなら、あまり依存しすぎないほうがいいかもしれない。過去を振り返ると、中国発のテクノロジーはいつ利用できなくなるか分からないケースが珍しくないからだ。少なくとも米国においては、「DeepSeek」がAIアシスタントの主要な選択肢として定着するとは限らない。

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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