「開いたらミニサイズのiPadになるiPhone」、「半分に折りたためる普通サイズのiPhone」、あるいは「折りたたんで持ち運べる大型iPad」――この中なら、どれが欲しいだろうか。一般的な意見ではないかもしれないが、筆者なら折りたためるiPadを選ぶ。その理由を説明しよう。
フリップ型であれ、ブック型であれ、折りたためるiPhoneに興味をそそられる人はいるだろう。折りたたみスマートフォンこそ、理想の端末だという人もいるかもしれない。しかし既存の折りたたみスマートフォンが実証してきたように、半分に折りたためるという利点は相応の欠点も伴う。例えば左右に開くブック型の場合、閉じた状態でも普通のスマートフォンのようには感じられない。左右に開けば小さめのタブレットサイズのディスプレイが現れるが、中央には折り目が目立つ。しかも、価格は標準的なスマートフォンの約2倍だ。一方、上下に開くフリップ型の場合、ポケットにおさまるコンパクトなサイズ感とセルフィーが撮りやすいという点を除けば、これといったメリットはない。
もちろん、折りたたみiPadが完璧だとは思わないし、手の届かない価格になる可能性も十分にある。しかし、BloombergやThe Wall Street Journalが報じているように、もしAppleが本当にiPad風の大型折りたたみ端末を開発しているなら、その魅力を最大限に引き出すアイデアはたくさんある。現在の「iPad Pro」は、生産性を高め、創造性を刺激し、エンターテインメントを楽しむことを目的とした、そこそこにニッチで高価なデバイスだ。そう考えると、ディスプレイをさらに拡大し、折りたためるようにすることは、iPadの本来の目的を発展させるものであって、スマートフォンとタブレットの体験を強引に合体させようとしているわけではない。「Apple Pencil」に続く、折りたたみiPad専用のアクセサリーを開発し、iPadの新たな使い方を提案することもできる。
iPadは、スマートフォンとノートPCという2つの異なるデバイスの間を埋めるものとしてスタートした。折りたたみiPadもタブレットとノートPCの中間に位置するデバイスとして誕生し、発展することになるかもしれない。その意味では、折りたたみiPadは約15年前に登場したiPadが自然な進化を遂げた姿とも言える。
ノートPCとタブレットの融合に取り組んでいる企業はすでに存在する。例えばレノボやASUSは「Windows」を搭載した折りたたみデバイスを販売中だ。しかし、Appleが初代iPadのアプローチを継承するなら、先行企業に欠けている部分に手が届くかもしれない。
折りたたみiPadが登場するとすれば、その狙いは無理なく持ち運べる大型ディスプレイを実現することだろう。一般に、大型ノートPCといえば17、18インチあたりを指す。このタイプのノートPCはゲームや生産性の向上を目的とした高性能なモデルが多く、バッテリー駆動時間はあまり長くない傾向がある。言い換えれば、大きくて、かつ気軽に持ち運べる軽量なディスプレイが欲しい人にとっては、現時点ではあまり選択肢がない。
この問題に対応するために、レノボやASUSは「ThinkPad X1 Fold 16」や「Zenbook 17 Fold OLED」といった折りたたみタブレットを出した。しかし、この種のデバイスは価格が高く、欠点も多い。例えば、ThinkPad X1 Fold 16はバッテリー駆動時間が短く、ノートPCモードではディスプレイが狭い。Zenbook 17 Fold OLEDは洗練されたデザインとは言いがたい。
The Wall Street Journalによれば、Appleが開発している可能性のある折りたたみタブレットは約19インチで、開くとデスクトップモニターとほぼ同じ大きさになるという。一方、Bloombergの記事は、折りたたみiPadはiPad Proを2台合わせた程度の大きさで、2028年に発売される可能性があると伝えている。
折りたたみiPadが、同じく開発中とうわさの折りたたみiPhoneよりも魅力的だと考えられる理由の1つは、現代人とタブレットの関係は、スマートフォンとはまったく異なるからだ。タブレットが補助的、中間的なデバイスとして設計されているのに対して、スマートフォンは間違いなく、人々が日常生活を送る上での最重要ガジェットとなっている。
メッセージングサービスを展開するSimpleTextingの2020年の調査では、ミレニアル世代の44%がスマートフォンか恋人・配偶者か、どちらか一方と1カ月間離れなければならないとすれば、恋人・配偶者と離れる方を選ぶと回答した。これがタブレットやノートPCであれば、違う結果になっていただろう。
この調査結果も、折りたたみiPadの方が実験的な取り組みは受け入れられやすいことを示している。スマートフォンが重すぎる、片手で扱いにくい、バッテリーがすぐ切れる、中央に大きな折り目があるといった場合、それがタブレットだった場合よりもずっと早くにユーザーは我慢の限界を迎えるはずだ。
これこそ、サムスンが1号機を発売してから約5年がたつにもかかわらず、折りたたみスマートフォンがニッチな存在にとどまっている理由の1つに違いない。International Data Corporation(IDC)によれば、2024年の折りたたみスマートフォンの出荷台数は2500万台に達するとみられるが、スマートフォン全体の推定出荷台数(12億4000万台)と比べれば、わずかな数にすぎない。米CNETがYouGovと共同で実施した調査では、スマートフォン所有者の52%が折りたたみスマートフォンの購入に関心がないと答えた。
iPad、特に大型のProモデルのターゲットは明確だ。外出先でも作業がしたいアーティストやミュージシャンである。一般に、タブレットはスマートフォンよりも用途が絞られており、映画鑑賞、ウェブ閲覧、読書、ゲーム、あるいはノートPCを持ち歩きたくない時のちょっとした作業などが想定されている。そして、これは大きなディスプレイという折りたたみデバイスの最大の特長が活きる使い方にほかならない。
確かに、ほとんどの人はこうした用途にスマートフォンも使っている。しかし、それは好んでというより、必要に迫られて、あるいは利便性が高いからにすぎない。本を読んだり、Netflixの映画を観たりするなら、6インチの小さなスマートフォンの画面よりも、広々としたタブレットの方が優れた体験を提供できることは論をまたない。
しかも、AppleがiPad向けに開発しているソフトウェアは、そもそもハイブリッドデバイスを想定した設計になっているとも言える。Windowsの世界には、タブレットにもノートPCにもなる2in1 PCが存在するが、これに相当するApple製品はない。しかし、AppleはiPadでMac風の環境を実現するための生産性向上ツールを徐々に増やしている。
例えば「ステージマネージャ」は、iPadのアプリをデスクトップのウィンドウのような感覚で移動できる機能だ。また、Mac用のビデオ編集ソフト「Final Cut Pro」や音楽編集ソフト「Logic Pro」にはiPad版があり、両者に機能面の違いはほとんどない。
iPadは、初期にはiPhone向けのOSである「iOS」上で動いていたが、2019年に専用の「iPadOS」が登場した。デバイスの変化に合わせて進化する柔軟なソフトウェアはiPadの強みと言えるかもしれない。
一方、Macのインターフェースも進化し、iPhoneやiPadのインターフェースに近づいた。このこともAppleが(良いか悪いかはともかく)デスクトップとモバイルの体験を切り分けつつ、一貫性を強化しようと考えている証だ。
とはいえ、乗り越えなければならない課題は多い。ソフトウェア戦略はAppleの大きなアドバンテージになり得るが、iPadの立ち位置をさらにあいまいにする可能性もある。
iPad Proは現在、奇妙なポジションに立たされている。iPad ProはノートPCとまったく同じことはできないが、両者はいらだつほど似通っている。Appleが折りたたみiPadを開発するなら、iPadの役割のあいまいさを助長するのではなく、この問題を解決する機会としてほしい。
ディスプレイが大きくなれば当然、バッテリー容量も求められる。初期の折りたたみスマートフォンは、第1号であるサムスンの「Galaxy Fold」を含め、バッテリー駆動時間が短いという課題を抱えていた。これは新しいカテゴリーのデバイスでは起こりがちな技術的課題だ。しかしAppleにとっては、この課題は解決しやすいかもしれない。Appleが「MacBook」に搭載してきた純正プロセッサー「M」シリーズが、iPadの上位機種にも搭載され始めているからだ。Mシリーズは従来のIntel製チップと比べて、バッテリー駆動時間を大幅に伸ばすことができる。
Appleにとって有利な要素もある。まず、Appleは世界のタブレット市場で31.7%(IDC調べ)のシェアを誇り、販売台数では世界1位だ。折りたたみタブレットという斬新な新製品の購入を消費者に決意させることのできる企業があるとすれば、それはAppleだろう。ただし、折りたたみiPadの価格は目が飛び出るほど高くなるはずだ。
折りたたみiPadを「半分に折りたためるノートPC」ではなく、独立したカテゴリーの製品と位置づけることで、魅力的なソフトウェアが登場する可能性もある。ユーザーインターフェースに新たな要素を追加すれば、折りたたみiPadを単にアプリやゲームのための大きなキャンバスとしてではなく、ノートPCの代替品として使えるようになるかもしれない。
携帯できる大画面という利点を最大限に生かすアクセサリーがAppleから登場する可能性もある。例えば、iPadをデスク上に立てて、「iMac」のように使えるスタンドなどはどうだろう。Appleが、「Surface Dial」を出したMicrosoftの戦略から学ぶことを期待したい。Surface Dial は、Microsoft が10年近く前にオールインワンPC「Surface Studio」向けに導入した円盤型のアクセサリーだ。同社はこれにより、タップやスワイプ以外の方法で大型ディスプレイを操作する斬新で巧みな方法を提案した。
折りたたみ式スマートフォンについて筆者が批判的に見ている最大の点は、ソフトウェアがハードウェアに追いついていないように感じられることだ。折りたたみ式スマートフォンの特徴である、画面の上下にアプリを分割表示する機能などは、購入の理由というよりも、折りたたみ式スマートフォンが生み出した問題への対策のように思える。
しかし、Appleは長年にわたりiPadのソフトウェアを改良し、Macのタスクをいくつか引き継げるハイブリッドコンピューターのような使い心地を実現しようとしてきた。そのため、Appleがソフトウェアの動作について、折りたたみ式スマートフォンやPCのメーカーが示してきたものよりも魅力的なビジョンを見せてくれると期待している。
おそらく、2010年に初代iPadを発表した際のSteve Jobs氏の言葉が最も的を射ているだろう。「ハードルはかなり高い」と、発表の直前に同氏は語った。「真に新しいデバイスのカテゴリーを生み出すには、それらのデバイスはいくつかの重要なタスクをはるかに巧みに実行しなければならない」
Appleの未来に折りたたみ式iPadがあるなら、この原則に沿ったものになることを期待しよう。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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