「Magic V3」開発の道のり--超薄型折りたたみスマホはどうして生まれたか(前編)

Sareena Dayaram (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2024年09月03日 07時30分

 世界で最も薄いブックスタイルの折りたたみスマートフォンを開発するという栄耀(Honor)の野望は、構想から実現までに約2年を要した。テクノロジー業界のようにめまぐるしく変化する世界では、2年という時間は永遠のように思えるかもしれない。

HONOR Magic V3
提供:Sareena Dayaram/CNET

 しかし、Honorによると、同社の第4世代折りたたみスマートフォンである超薄型の「HONOR Magic V3」を開発するのに長い時間がかかったのには、相応の理由があるという。Honorは、開発を公式に開始する前から、「特定の部品」や新素材の研究開発に投資しており、その成果を折りたたみスマートフォンプロジェクトに正式に導入しているそうだ。参考までに、Honorの通常のスマートフォンの開発期間は多くの場合、12~18カ月である。通常よりも長い時間をかけた結果、本体を閉じた状態だと通常のスマートフォンと驚くほど似ているブックスタイルの折りたたみスマートフォンが完成した。

 折りたたみスマートフォンの競争に勝利することは、Honorにとって重要な目標だ。調査会社International Data Corporation(IDC)によると、世界の折りたたみスマートフォン市場の出荷台数は、2023年に1810万台を記録し、2024年末までに前年比37.6%増の2500万台に達する見通しだという。さらに、2028年までに、折りたたみスマートフォンの世界出荷台数は4570万台まで増加し、2023年~2028年の年平均成長率は20.3%になるとみられている。

 大手スマートフォンメーカーのサムスンと小米科技(シャオミ)は毎年、大幅に改良された折りたたみスマートフォンを大量に作り出しており、Honorには、多くのライバルがいる。2024年現在、主要なスマートフォンメーカーのほぼすべてが、ブックスタイルの折りたたみスマートフォンとクラムシェル型の折りたたみスマートフォンのいずれか、または両方を発売している。

 サムスンは7月、本体の幅を1mm以上スリム化した「Galaxy Z Fold6」を発売した。8月に入って、Googleもブックスタイルの前モデルよりコンパクトな「Pixel 9 Pro Fold」を発表した。出荷台数で世界第3位のスマートフォンメーカーであるシャオミは、Magic V3と同じ軽さで、ほぼ同じ薄さの「Xiaomi MIX Fold 4」を発表し、Honorにかなり迫ってきている。新興テクノロジーをしばらく静観することで知られるAppleも、2026年にクラムシェル型の「iPhone」を発表するとうわさされている。

 中国の巨大テクノロジー企業である華為技術(ファーウェイ)の子会社だったHonorが、そのミッションを達成するためには、折りたたみスマートフォンを可能な限りスリム化することが不可欠だと考えていることは、明白である。

 折りたたみスマートフォンを開発する取り組みを支えているのは、「より頑丈に、よりスリムに」というデザインのモットーだ、とHonorは話している。そして、Magic V3はその約束を果たしているようで、折りたたんだときの厚さはわずか9.2mmと、Galaxy Z Fold6や発表されたばかりのGoogle Pixel 9 Pro Foldだけでなく、Xiaomi MIX Fold 4よりも薄い。

 HonorのMagic V3担当プロダクトエキスパートのHope Cao氏は、9月に予定されているMagic V3のグローバル版発表に先立って行われた米CNETとの独占インタビューで、「最近の折りたたみスマートフォンは非常に薄いので、1mm薄くするだけでも大変な作業だ」と語った。Cao氏はプロダクトエキスパートとして、Magic V3の製品開発を最初から最後まで指揮している。

Magic V3の設計

 2023年に発売された「Magic V2」は、Honorの折りたたみスマートフォンが急激に進歩したことを示していた。同機種はブックスタイルの折りたたみスマートフォンの携帯性の水準を引き上げ、国際的な話題となった。Honorは、2つのディスプレイを備えたスマートフォンが通常のスマートフォン(もちろんディスプレイは1つだけだ)と同様のサイズを実現できることを初めて世界に示したのだ。

 Magic V3はその方向性をベースとしている。カバーディスプレイは6.43インチで、それを本のように開くと、7.92インチの内部ディスプレイが現れる。合計5つのカメラを備えており、3.5倍の光学ズームが可能なペリスコープ(潜望鏡)式の望遠レンズも搭載されている。また、Magic V3には、5150mAhのシリコンカーボンバッテリーが内蔵されている。シリコンカーボンバッテリーはスマートフォン向けの新しいタイプのバッテリーで、同梱の66Wの有線充電器や45W対応のワイヤレス充電器で充電できる。

 こうしたフラッグシップ機能が、ほかのさまざまな機能とともに、超薄型の本体に詰め込まれている。折りたたんだ状態の厚さはわずか9.2mmで、重さは226gだ。サムスンの「Galaxy S24 Ultra」や「iPhone 15 Pro Max」といった通常のスマートフォンとほぼ同じサイズである。実際のところ、Magic V3はGalaxy S24 Ultraよりも数g軽い。

 Cao氏は米CNETに対して、「折りたたんだ状態では、通常のフラッグシップスマートフォンと同じくらいスリムで、携帯しやすい。そして、本体を広げると、小型タブレットと同等の性能と使いやすさを備えている。そのような折りたたみスマートフォンを開発すれば、日常的に使用するデバイスとして折りたたみスマートフォンを選ぶユーザーが増えるだろう」と語った。

 だがシャオミも負けてはいない。MIX Fold 4は広げた状態の厚さが4.59mmと、Magic V3の4.35mmよりもほんの少し厚いだけだ。米CNETに提供されたIDCのデータによると、2024年第1四半期の時点で、HonorはMotorolaの親会社であるレノボと並んで世界第3位の折りたたみスマートフォンメーカーであり、ファーウェイに次ぐ存在だという。しかし、より広範なスマートフォン市場で世界第3位につけるシャオミが全体的にHonorよりも大きな影響力を持っていることは、間違いない。

 ライバルたちと同様、Honorも、本体のスリム化を実現するために、軽量スチールでヒンジを作り直す、新しい素材(ブラックカラーモデルの背面カバー用の航空宇宙用特殊繊維など)を採用する、フレームに強度の高いアルミニウムを使用するといった、設計上のいくつかの重要な点を検討する必要があったそうだ。さらに、バッテリーの研究開発への投資のおかげで、最終的に大容量バッテリーをMagic V3の薄型化されたフレームに収めることに成功した、とも述べている。

 Cao氏は、「業界の標準的な折りたたみスマートフォンにはスイングアームが1セットしかないのに対し、HONOR Magic V3では、Honorのスーパースチールヒンジにスイングアームをもう1セット追加している」と話す。この設計により、ヒンジの弾力性はHONOR Magic V2と比べて1250%向上したそうだ。

 Magic V3では、ヒンジ以外にも、スマートフォンの本体やディスプレイ、バッテリー、ベイパーチャンバーに19種類の新素材が使用されている。同社によると、それらの新素材のおかげで、ディスプレイの性能やバッテリー持続時間、耐久性、放熱効率が向上したという。

 Cao氏は米CNETに対して、「新素材はHonorが追求している重要な方向性だ」と語った。「Honorはヒンジ、具体的にはヒンジの一部であるスチール素材に多額の投資を行っている」

折りたたみスマートフォンの妥協点への対処

機械にセットされたMagic V3が折りたたみを繰り返す様子
Magic V3の折りたたみテスト
提供:Honor

 しかし、そのような取り組みをしているのは、Honorだけではない。2019年に最初の折りたたみスマートフォンが登場して以来、折りたたみスマートフォンのメーカー各社は大きな進歩を遂げてきたが、耐久性は依然としてユーザーにとって重大な懸念事項である。折りたたみスマートフォンの中には2000ドル(約29万円)もするものもあるため、購入者はその価格に見合う耐久性を備えたスマートフォンを求める。「Reddit」でも、ディスプレイの問題が発生したことを複数のMagic V2所有者が報告するなど、耐久性は依然として重大な懸念事項だ。

 透明性を高めるため、Honorは、スマートフォンの耐久性テストの様子を見せてくれた。米CNETのためだけに撮影された動画には、中国の深センにあるHonorの「Reliability Lab」で、複数のMagic V3スマートフォンが機械で何度も開閉される様子が映し出されていた。まるで折りたたみスマートフォンのブートキャンプといった光景だ。同社が米CNETに語ったところによると、このラボには、水しぶきや浸水、摩耗、ひっかき、腐食に対する耐性をテストする装置が設置されているという。少なくとも開閉テストと落下テストに関しては、サムスンも同様の方法で折りたたみスマートフォンをテストしている。

 HONOR Magic V3は50万回の開閉テストをクリアしている。前モデルのMagic V2が40万回の開閉に耐えられると宣伝されていたことを考えると、大幅な改善だ。ただし、注意点もある。競合するほかの多くの折りたたみスマートフォンと同様、Magic V3も防水防塵性能を表す高度なIP等級を取得していない。Magic V3が取得したのは、深さ1.5mの水中に最大20分間沈めても故障しないことを表すIPX8等級である。これはGoogleの新しいPixel 9 Pro Foldと同じだ。

 中国での発表イベントで、HonorはMagic V3を洗濯機に入れても問題なく動作することを見せたが、これは制御された環境でのデモであり、日常的な使用を反映しているとは言えない。一方で、Magic V3はホコリの侵入に対する耐性を表す保護等級を取得していないので、ビーチや砂漠に持って行くと、故障するおそれがある。

 ホコリに対する高い耐性を備えた折りたたみスマートフォンは、IP52の耐塵性能を持つ2023年発売のMotorola「razr+」(日本では「razr 40 ultra」)くらいだ。IP48のGalaxy Z Fold 6は、1mm以上の固形物に対して保護されているが、砂やより小さな粒子には弱い。防塵性能は折りたたみ式ではないスマートフォンでは一般的であるため、このことはMagic V3のような折りたたみ式スマートフォンに改善の余地があることを示している。

 防塵性能に関する計画について質問されたCao氏はコメントを避け、「いずれ」Honorが発表するだろうと述べた。

 後編に続く。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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