1999年、米CNETで記者の仕事を始める数年前に、筆者はウィスコンシン州ミルウォーキーでルート配送の仕事をしていたことがある。三菱の7トントラックに乗り、夜の間に地域のベーカリーに商品を届ける。1人でこなす仕事なので、特に暗く寒い冬は不安が多い。そこで上司が連絡用にと、Qualcommの携帯電話「QCP-860」を支給してくれた。携帯電話があれば、非常時には上司に連絡をとったり、ロードサービスを呼んだりできる。いざというときは助けを求められると思うと、週5日の夜の配送も安心してこなせるようになった。
あれから25年。スマートフォンは今も同じ安心感を与えてくれる。当時と比べると、安心のための機能は強化されたと言っていい。例えばGoogleの「Pixel 9」シリーズには「衛星SOS」という新機能が搭載された。この機能があれば、モバイルデータ通信の電波が届かない場所、Wi-Fiネットワークと接続できない場所でも、通信衛星を使って救急サービスに連絡できる。この機能は8月にリリースされたばかりだが、すでにPixelユーザーに恩恵をもたらしているようだ。
「この機能が役に立ったという体験談が続々と寄せられており、手応えを感じる」と語るのは、GoogleでPixelシリーズのグループプロダクトマネージャーを務めるStephanie Scott氏だ。「個人的にも、ハイキングなどに出かけるときは、衛星SOSが使えると分かっているだけで心強い。特に海に近い場所では、電波が届かないことが多いからだ」と同氏は言う。
衛星SOSはGoogleが提供している安全機能の1つだ。転倒検出機能や自動車事故検出機能に加えて、Googleはスマートフォンから衛星に接続するサービスを導入した。目的は、緊急時の通信手段を確保し、困ったときは助けを求められるという安心感をユーザーに提供することだ。同様の機能はすでにAppleやT-Mobile、SpaceXも提供している。
衛星SOSは、Pixel 9シリーズの重要な機能であると同時に、できれば使う機会がないことを願う機能でもある。その仕組みを知るために、筆者はカリフォルニア州マウンテンビューのGoogle本社を訪れ、この機能を実際に体験してきた。
衛星SOSについて、まず知っておくべきことは「何も知らなくていい」ということだ。
「圏外にいる時に911(緊急通報番号)に電話をかけようとすると、自動的に(衛星SOSに接続するかを確認する)プロンプトが表示される」と説明するのは、GoogleのPixelソフトウェア担当プロダクトマネージャーのAisha Sharif氏だ。「最も必要とされる時にこそ、極めて簡単にすぐ見つけられるようにした」と同氏は言う。
衛星に接続する手順は、画面に表示されたプロンプトが教えてくれる。今回のデモは、Google本社の中庭の一角を借りて実施した。使った端末は「Pixel 9 Pro」だ。Googleのモデム検証担当テクニカルプログラムマネージャーのParty Pallerlamudi氏と、PixelのテストエンジニアのArvind Ramesh氏が支援してくれた。
うっかり911に電話をかけてしまわないように、Pixel 9 Proは電波を遮蔽する箱の中に入れ、電波を受信できないようにした。デモの前半では、箱の中のPixel 9 ProをUSB-CケーブルでノートPCにつなぎ、Pixel 9 Proの画面をノートPCのディスプレイにミラーリングした。
電波が遮断され、モバイルデータ通信ができなくなると、Pixel 9 Proの画面の右上、ふだんなら5Gのアイコンが表示されている場所に、小さな衛星アイコンが表示された。まずは911に電話をかけてみるが、つながらない。すると、ダイヤルパッドの下に新しい衛星SOSボタンが現れた。
箱からPixel 9 Proを出し、衛星SOSボタンをタップすると、筆者の状況とニーズを把握するための質問が表示された。いくつかの質問に応えることで、ユーザーが置かれている緊急事態の内容を把握し、緊急サービスに短く的確なメッセージを送信できるようになるという仕組みだ。画面には6つの選択肢が表示された。「病気/けが」「車/船」「道に迷った/行方不明になった/閉じ込められた」「犯罪」「火災」「その他」だ。
選んだ選択肢に応じて、さらにフォローアップの質問が表示される。今回は「火災」を選んだ。すると、負傷者や命が危険にさらされている人がいるかどうかをたずねられた。回答すると、燃えているものをたずねる質問が表示された。そして最後に、回答内容を事前に登録しておいた緊急連絡先にも通知するかと聞かれた。「Pixel 9」「Pixel 9 Pro」「Pixel 9 Pro XL」「Pixel 9 Pro Fold」を使っているなら、あらかじめ緊急連絡先を登録しておくことを強くお勧めする。
すべての質問が終わると(全体の所要時間は数秒だった)、回答データの送信準備中というプロンプトが表示され、屋外に出て、空がよく見える場所に移動するよう促された。接続しようとしているのはWi-Fiネットワークではない。モバイルデータ通信のアンテナを1本増やそうとしているわけでもない。回答データを送信するために、Pixelが接続しようとしているのは時速2万7000kmほどで移動している人工衛星だ。近くに建物や電柱、木があると、接続がうまくいかない場合がある。
数秒後、ディスプレイに表示された進捗状況が変わった。今度はPixelを持っている手のイラストに衛星のアイコンが重なっている画面が表示されている。たとえるなら、Android 14以降のスマートフォンでホーム画面に追加できる時計ウィジェットだ。この衛星アイコンが円の中心に来るように、右を向くよう指示された。
筆者は屋根のない中庭にいたが、近くにあった4、5階建ての建物群が接続を邪魔していた。そこで建物から約10mほど離れた駐車場に向かって歩き、画面の指示に従った。手のひらを上に向けて、その上にPixelを乗せる(ディスプレイを上にした状態で、地面と平行にする)と、つながりやすいことが分かった。
筆者のPixelは30秒ほどで衛星と接続された。しかし場所や障害物の有無によっては、接続に数分かかることもあるという。衛星SOSは救助を要請する方法の1つだが、衛星とスマートフォンの接続は必ずしもうまくいくわけではなく、屋内など、空がよく見えない場所ではサービスを利用できない場合がある。
今回のデモでは、衛星と無事につながり、回答データを緊急サービスに送信したことを示すメッセージが表示された。続けて、さらに詳しい情報をたずねる質問が表示される場合もある。筆者の回答が送信されるまでの時間は約15秒というところだ。緊急サービスにテキストメッセージを送信する場合、接続の問題でかなり時間を要することがある。時間の長さは、場所や障害物の有無による。
今回のデモは、衛星SOSを体験する有意義な機会となった。実際に助けが必要だったわけではないが、衛星SOSを簡単に利用できることが分かったのは収穫だ。
Googleの衛星SOSを利用できる端末は、Pixel 9、Pixel 9 Pro、Pixel 9 Pro XL、Pixel 9 Pro Foldだけだ。これらの端末には、衛星とメッセージをやり取りする機能を備えたモデムが搭載されている。Pixel 9シリーズよりも古い機種では、衛星SOSは使えない。
Googleは衛星SOS機能を実現するために2社と提携した。その1社はGarminだ。デモの中で、筆者は緊急SOSメッセージの送信先であるGarmin Responseから、SMSで返信を受け取った。Garmin Responseは24時間対応の緊急応答サービスで、ユーザーの問題に優先順位を付け、緊急サービスにつないでくれる。
もう1つのパートナーは衛星サービスプロバイダーのSkyloだ。モバイルデータ通信が使えない場所ではSkyloが衛星接続を可能にしてくれる。
なお、衛星SOSは米国本土でしか利用できない。また、「Googleメッセージ」がデフォルトのメッセージアプリに設定されている必要がある。最初の2年間は無料だが、その後の料金や、衛星接続が可能なAndroidスマートフォンは今後増えるのかについては情報を得られなかった。
すでにPixel 9シリーズを持っている場合、実際に911を呼ぶことなく、衛星通信接続を試せる簡易デモが用意されている。自分の端末の「設定」を開き、「安全性と緊急情報」をタップし、「緊急SOS」のアイコンを選択して指示に従おう。
IT分野のジャーナリストとして、衛星接続のような安全機能がPixelシリーズにも搭載されたことをうれしく思う。Appleも同様のサービスをiPhone向けに提供している。Googleと同じように、Appleのサービスも2年間は無料だ。「iOS 18」のリリースに伴い、「iPhone 14」以降のモデルでも衛星経由でSMSを送信できるようになった。
米国では、通信事業者が衛星事業に参入しつつある。ハリケーン「Helene」の被災者を支援するために、米連邦通信委員会(FCC)はT-MobileとそのパートナーであるSpaceXに対し、スマートフォンから直接衛星通信を利用できる「Direct-to-Cell」機能を有効化する特別許可を一時的に与えた。これにより、ノースカロライナ州のT-Mobileユーザーは、モバイルデータ通信が利用できない場所でも、衛星経由で緊急通知やSMSを受信できるようになった。
Googleの衛星SOSサービスは、筆者が携帯電話をお守りに、ウェディングケーキを満載したトラックで冬のウィスコンシンを走っていた頃は想像もしなかったものだ。技術の進化はめざましい。しかし、スマートフォンによる衛星接続はまだ始まったばかりだ。数年後、私たちはこの技術をどのように活用しているのだろうか。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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