「iPhone 16 Pro」と「iPhone 16 Pro Max」を1週間かけてテストする機会を得た。開始から数日たった頃には、このハイエンドスマートフォンの最大の特徴は、新しいカメラ操作ボタンでも、大画面でも、大容量バッテリーでもなく、「Apple Intelligence」ですらないことに気づいた。
高解像度のスローモーションビデオ撮影機能――これこそ、iPhone 16 Proの目玉であり、少なくとも筆者にとっては過去最高の新機能だ。テストではiPhone 16 Proを使って、獅子舞のリハーサルの様子を撮影した。踊り手たちの目にもとまらぬアクロバティックな動きが、スローモーション撮影によっていっそう際立つ。この優雅で途切れることのない力強い動きは、肉眼では捉えきれない。確かに、筆者の評価はバイアスがかかっているかもしれない。筆者は短編映画を撮影していた時期があり、スローモーションの美しさを愛しているからだ。
しかし、iPhone 16 Proに搭載された4K 120fpsのビデオ撮影機能に喜ぶのはカメラオタクだけかもしれない。実際、AppleがiPhone 16 Proを売り出す上で、前面に押し出しているのはApple Intelligenceの威力だ。
Appleは、生活を便利にするさまざまな生成AI機能をApple Intelligenceとしてパッケージ化し、その利便性を享受するための器として、フラットなエッジを持つチタン製ボディと虹色に輝く「Siri」を備えたiPhone 16 Proを大々的に宣伝している。
しかし、Appleが9月の新型iPhone発表イベントで華々しく発表した「Apple Intelligenceが動くiPhone 16 Pro」というビジョンは、まだ実現していない。個人的には、Appleの慎重なアプローチは評価できる。AI機能を段階的に取り入れることで、AppleはAIの世界に性急に飛び込んだGoogleの失態を回避できるかもしれない。しかし、Apple Intelligence目当てでiPhone 16 ProやiPhone 16 Pro Maxを買った人たちは、残念だがしばらくはお預けをくらうことになるだろう。
筆者はiPhone 16 Proを使って、Apple Intelligenceの初期プレビュー版をテストしたが、「ChatGPT」との連携や絵文字生成ツール「ジェン文字」、AI画像生成機能の「Image Playground」といった主要な機能はまだ利用できなかった。
しかしiPhone 16 Proには、他にもたくさんの見所がある。例えば、高解像度のスローモーションビデオ撮影、「iOS 18」の新機能、ハードウェア面のアップグレードは、iPhone 16 Proにアップグレードする価値を十分に感じさせるものだ。
Apple Intelligenceが目的でiPhone 16 Pro(999ドル、日本では税込15万9800円)、またはiPhone 16 Pro Max(1199ドル、同18万9800円)を買おうとしているなら、やめた方がいい。少なくとも、今ではない。AppleはAI機能を盛り込んだiOS 18.1を10月にリリースすると示唆している。
もし「iPhone 12 Pro」以前のモデルを使っているなら、iPhone 16 Proにアップグレードするのは理にかなった選択だ。今使っているのが「iPhone 13 Pro」で、かつバッテリー容量がまだそれなりにあるなら、今あえて大金をはたいて新調する必要はない。もし「iPhone 14 Pro」または「iPhone 15 Pro」を使っているなら、アップグレードは不要だ。iPhone 16 Proのエントリーモデル(999ドル)は、ストレージが128GBしかないことに注意してほしい。参考までに、Motorolaのミッドレンジスマホ「moto g power 5G (2024)」(300ドル、約4万3000円)もストレージ容量は128GBだ。iPhone 16 Proは3倍以上の値札をつけているのだから、エントリーモデルでも最低256GBのストレージは欲しかった。
2023年に出た「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」には望遠カメラの有無という違いがあったが、iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxはまったく同じカメラを搭載している。つまり、iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxに関しては、画面サイズ、バッテリー駆動時間、そして価格がどちらを選ぶかの決定要因となる。
欠点はあるにせよ、iPhone 16 Proは非常に優れたスマートフォンだ。今後のソフトウェアアップデートを通じて予定通りに新機能が追加されれば、さらに魅力的な端末となるだろう。しかし、Apple Intelligenceを期待して買うのは(今はまだ)やめておこう。
2020年、ロックダウンのさなかにソニーから送られてきた「Xperia 5 II」には、4K 120fpsのスローモーション撮影機能が搭載されていた。4K解像度のスローモーション動画を撮影できる初のスマートフォンとして、Xperia 5 IIは間違いなく時代を先取りした端末であり、スマートフォンによるスローモーション動画撮影の頂点に君臨してきた。
しかし、Appleはこのすべてを別次元に引き上げた。
iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxは、4K 120fpsのスローモーション動画を撮影できるだけではない。撮影自体が非常に簡単なのだ。Xperia 5 IIでは、プロ仕様のカメラアプリを使ってビデオを撮影・保存する必要があったが、Appleはこの機能をiPhoneの標準カメラアプリで実現した。
しかも、動画の仕上がりはすばらしい。だからこそ、この機能は注目に値する。これまでのiPhoneでも、光量の多い場所では見栄えのいいスローモーションビデオを撮影できた。しかし解像度はHDにとどまり、通常の4K 30fps動画と比べると、画質は格段に落ちた。
しかしiPhone 16 Proで撮影したスローモーションビデオは細部まで鮮明で、ダイナミックレンジは広く、色も正確だ。iPhoneで撮影した通常のビデオと画質の面では遜色がない。サンフランシスコの倉庫でダンスカンパニーLionDanceMEによる獅子舞のリハーサル風景を撮影したときも、照明環境は最高とはいえなかったが、質の高い動画を撮影できた。
今回、Appleから借りたレビュー用端末には、iOS 18.1の開発者向けベータ版がインストールされており、Apple Intelligenceの一部機能を試すことができた。しかし、その体験はiOS 18.1の開発者向けベータ版を入れた筆者のiPhone 15 Proとあまり変わらなかった。Apple Intelligenceは新型iPhoneの目玉機能だが、まだ完成には至っていない。しかし今回テストした限りでは、便利で楽しく、今後の可能性を感じるものだった。
特に賢いと感じたのは作文ツールだ。自分が書いた文章を校正してもらったり、「簡潔」「プロフェッショナル」「フレンドリー」など、さまざまなトーンやスタイルで書き直してもらったりすることができる。「プロフェッショナル」スタイルはやや堅苦しい。テストでは、筆者が書いた隣人宛てのメッセージをリライトしてもらった。このメッセージは、留守中に飼い猫の世話を頼んだことに関するもので、筆者がいなくて猫が悲しんでいることを冗談めかして書いた。リライトの結果はこうだ。「わが友である猫は、私の激務により、遊びや質の高いコミュニケーションといった、猫が好む活動がおろそかになっていることに苦痛を感じている」
この結果には大笑いしてしまった。
プロのライターである筆者が、リライト系のツールを日常的に使うことはないと思う。しかしApple Intelligenceの機能の中で唯一、頻繁に使ったツールがある。それは「要約」ツールだ。特にブラウザーの「Safari」でニュース記事を読むときによく使った。毎日、大量の記事を読む筆者にとって、「要約」ツールは中身のない記事を排除し、熟読に値する記事を選び出す役に立ちそうだ。
「写真」アプリに追加されたメモリームービーの作成機能も楽しい。「サンフランシスコでのブランチ」というプロンプトを与えたところ、「シティでブランチを」というタイトルのメモリームービーができあがった。BGMはThe Metersの「シシー・ストラット」だ。
しかし、最も注目すべき機能は画像から不要な要素を取り除ける写真アプリ内の「クリーンアップ」ツールだろう。例えば、下に掲載した米CNETのLisa Eradicicco記者の写真では、Lisaの左側にあった椅子と右側にあったモニターを消している。椅子の脚のキャスター部分が残ってしまっているが、それを除けば、もとは椅子やモニターがあったと推測することは難しい。
続いて、米CNETのLexy Savvides記者とCelso Bulgatti記者を写した写真を見てほしい。
下の写真は、上の写真を「クリーンアップ」ツールで編集したものだ。2人の左にいた人物を削除したが、違和感はない。しかし、右側の背景に写っていた車を削除したところ、代わりにサルバドール・ダリの絵画に出てきそうな、ゆがんだ自転車の車輪が出現してしまった。
新型iPhoneでは、画面にSiriの虹色に輝く枠が現れる。新しいSiriは、これまでよりも反応が早く、便利になったようだ。自然な言葉で話しかけることができ、途中で話題を変えてもついてこれるが、Googleのスマートフォン「Pixel 9」に搭載されている会話型AI「Geminiライブチャット」には遠く及ばない(もちろんGeminiライブチャットにも問題はある)。Siriは電話まわりの操作にはうまく対応できたが、スマートフォンのシリアル番号をたずねたときは反応がなかった。スマートフォンのストレージ容量を聞いたときも同じだ。
しかし前述したように、筆者が使ったのはあくまでもApple Intelligenceのプレビュー版であって、正式版は10月にリリースされる。まだ生成AI機能が使えないにもかかわらず、AppleがiPhone 16 ProとApple Intelligenceをセットで宣伝していることに疑問を感じないわけではないが、Appleが生成AIと大規模言語モデルを使って何を目指しているのかは分かる。また、AppleがAIの導入を焦らず、慎重に進めている点も評価したい。
後編に続く。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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