本連載の第1回ではWebtoonの成り立ちと漫画との違いについて、第2回では国内市場の動向について、第3回では今後のWebtoonの未来について、第4回では日本と韓国のWebtoon業界についてまとめました。
第5回では「俺だけレベルアップな件」を手掛けたレッドセブン代表のイ・ヒョンソクさん、第6回では「ジャンプTOON」をローンチに携わった統括編集長の浅田貴典さん、編集部・編集長の三輪宏康さん、第7回では、NTTドコモのコンシューマサービスカンパニー コンテンツサービス部を統括する宮原さおりさんに話を伺いました。
第8回では、Webtoonマンガ「おデブ悪女に転生したら、なぜかラスボス王子様に執着されています」を手掛けるクリエーターである原作者の琴子さん、作画の花宮かなめさんをお招きしました。クリエーターからみたWebtoonの魅力や、今後実現したいことについてお伺いします。
中川: まずは、おふたりの経歴をお伺いしてもよろしいですか?
琴子: 2020年3月に「小説家になろう」というサイトで小説を投稿したことがきっかけで、2021年に作家としてデビューしました。これまでは主にライトノベルやマンガ原作に関わっています。
花宮: 私は新卒社員として都内のゲーム会社に就職し、アートディレクター兼イラストレーターとして、ソーシャルゲームのカードイラストなどを制作していました。2021年に独立し、現在はイラストの仕事を中心にフリーランスとして活動しています。
中川: おふたりとも、「おデブ悪女に転生したら、なぜかラスボス王子様に執着されています」(以下、おデブ悪女)が初めてのWebtoon作品ですよね?
花宮: そうですね。「おデブ悪女」は、編集者のこあらさん(現Minto Studio編集長)に誘っていただいたのがきっかけで線画を担当しています。私は「ピッコマ」や「LINEマンガ」は一切読んでこなかったので、始めるときは不安もありました。
中川: 連載型のマンガも初めてだし、そもそも読者としてもマンガに馴染みがなかったんですね。
花宮: 独立当初は「イラストで食べていく」と決めており、マンガをやるなんて想像もしていませんでした。ただネームを含めて描く必要がある横読みマンガに比べると、Webtoonは敷居が低いと感じます。私はネームを考える必要がなく、いただいたネームをもとに線画に取り組めば良いからです。
中川: Webtoonの経験は、花宮さんのキャリアに活かされていますか?
花宮: とても良い経験でした。先日、30ページほどの読み切りマンガを描く機会がありましたが、Webtoonを経験したからこそ新たな挑戦ができたと感じています。イラスト以外の選択肢が増え、これからも積極的にマンガの仕事に取り組んでいきたいです。
中川: 琴子さんもWebtoonは初挑戦です。もともとWebtoonに関心はあったのでしょうか?
琴子: 「おデブ悪女」の前にも、Webtoonをやってみないかという打診はありました。ただ当時、Webtoonの主流は韓国だったので、日本ではあまり売れないのではないかと懐疑的でした。私も花宮先生と同様、編集者のこあらさんに熱心に誘われたのが大きかったですね。「こあらさんと組めば良い作品ができる」と思い、やってみることにしました。
中川: Webtoonならではの大変さについて教えてください。
琴子: Webtoonは1話ごとに読者に課金いただく形です。だからこそ、毎話で「引き(読者を惹きつける仕掛け)」を作ることが求められます。1冊の最後に引きを作ればいいライトノベルに比べると、早いペースで次々に引きを考えなくてはなりません。
中川: それは大変ですよね。逆に、Webtoonならではの面白さはありますか?
琴子: 自由に表現できることです。Webtoonは新しい形式なので、いろいろな表現を試すことができます。例えばライトノベルでは、「当て馬」というキャラクターがよく出てきます。主人公とヒロインのカップルの引き立て役として存在する当て馬キャラが、主人公やヒロインとキスするシーンはあまり見受けられません。一部読者の不興を買うかもしれないからです。このように暗黙のルールとして、“このキャラクターはこんな言動はしない”という制約がライトノベルにはあるように思います。
中川: なるほど。Webtoonは“読み方”がそこまで固まっていないからこそ、いろいろな表現が許容されているということなんですね。
琴子: 横読みマンガとの違いもありますね。最近の横読みマンガでは、物語のテンポがとても重視され、セリフや描写も「いかに無駄を削るか」を考えなければなりません。Webtoonもテンポは意識しますが、横読みマンガほど極端ではありません。“遊び”の要素も書くことができ、結果として読者の皆さんに楽しんでいただいているように感じます。
中川: ありがとうございます。Webtoonの特徴として、他のクリエーターと協働する機会が多いことも挙げられると思います。おふたりが他のクリエーターと仕事をするにあたって、意識していることを教えてください。
花宮: 信頼関係が大切なので、良いところや印象に残った点を積極的にお伝えするようにしています。
琴子: 私も意識的に、ポジティブな感想を言うように努めています。というのも、私自身が作ったものに対して不安を感じるタイプだからです。最初の読者としてリアクションいただけるのは嬉しいし安心できるものだと思います。
花宮: 琴子先生の感想はすごく熱くて、いつも励みになっています。
中川: 一方で、他のクリエーターの表現について「ここは違うな」と思うこともあると思います。どのように対応していますか?
花宮: 先ほどのポジティブな感想をお伝えしているというのが前提ですが、調整が必要だと感じた点は、「こうするのはどうですか?」といった提案型のコミュニケーションをとるようにしています。資料を提示するなど、指摘というよりはフォローという形でやりとりをすることを心掛けています。
琴子: 私が想像していたものと異なる場合もありますが「そういう解釈もあるんだ」「キャラはこんな風に考えていたのかも」という、新たな発見があったりします。なので、指摘することはほとんどありません。原作のコミカライズは、基本的に漫画家さんの作品だと私は考えていますので。
中川: Webtoonのクリエーターの収入についてお聞きします。花宮さんはイラストの仕事も続けていますが、イラストの仕事に比べてWebtoonの収入はいかがですか?
花宮: イラストの仕事はそれほどたくさんあるわけではありません。マンガのような定期収入になりづらいので、Webtoonのような連載型の仕事があると収入的には安定しますね。またイラストは印税がつかない仕事が大半です。Webtoonは作品がヒットすることで印税収入を得られるという良さもあります。
中川: クリエーターが収入面のメリットを感じてもらえる方法については、弊社でも議論を行っています。着彩の仕方など、クリエーターの工数を下げるといった工夫もできるのではないかと。琴子さんはいかがですか?
琴子: 収入については原作者の場合も、横読みマンガやノベライズと変わらないと思います。やはり作品の売上が大事になってきますね。
中川: 日本の作家が得意としているキャラクター性やドラマ性の高い作品が、ワールドスタンダードで売れていく未来も可能性があると感じています。今はまだ韓国のトレンドが日本に流れてヒットにつながっているケースが多いですが、必ずしもそれが長期的にみて正解とは限りません。
琴子: やはり将来的には、作品がIP化してほしいですね。ドラマやアニメでも配信されてほしいです。
花宮: ビッグサイトで開催されているアワードにも参加できるようになりたいですね。
中川: ピッコマが開催しているアワードでは、まだWebtoonの部門で日本人の受賞がない状態です。弊社からもぜひ日本人クリエーターに受賞してほしいと思っています。
琴子: 編集者とも、「ピッコマAWARD獲りたいよね」という話をずっとしています。他の女性向け作品には負けたくないですね。
花宮: ぜひ「おデブ悪女」で獲りましょう!
中川元太
株式会社Minto 取締役
2010年に大手インターネット広告代理店に新卒入社。札幌営業所長を経て、2013年より漫画アプリ「GANMA!」の運営会社の創業メンバーとして漫画編集チームとアプリマーケチーム等を立ち上げる。2016年にSNSクリエイターのマネジメント会社・株式会社wwwaapを創業。2022年に株式会社クオンと経営統合し、株式会社Mintoの取締役に就任。
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