携帯4社とそのグループ企業の決算が出揃った。楽天モバイルが割引施策などで契約数を急増させ、黒字化が近い様子が見えるなど好調ぶりを見せているが、一方で競合他社からは顧客流出が起きている様子を示す声はなく、別の側面での課題が浮上している様子も見えてくる。
携帯電話事業に関する動きを中心とした、4社の決算を改めて振り返ってみよう。
まずは各社の決算を振り返ると、NTTドコモの2024年度第1四半期決算は売上高が前年同期比1.3%増の1兆4769億円、営業利益が前年同期比5.9%減の2754億円と、増収減益の決算となっている。
一方でKDDIの2025年3月期第1四半期決算は売上高が前年同期比4.2%増の1兆3891億円、営業利益が前年同期比3.9%増の2770億円。ソフトバンクの2025年3月期第1四半期決算は売上高が前年同期比7.4%増の1兆5357億円、営業利益は前年同期比23.4%増の3039億円と、ともに増収増益となっている。
大手3社の中でNTTドコモだけ減益となっている理由は、政府主導による携帯電話料金引き下げからの回復遅れが大きく影響している。KDDIは通信ARPUの増加が続き、ソフトバンクもモバイル売上高の増益基調が続くなど、両社ともに主力の携帯電話事業での回復が鮮明であるのに対し、NTTドコモは今四半期も前年同期比でARPUを80円減らすなど、回復の様子が見られない。
その要因は低価格プラン「irumo」の好調によるところが大きく、低価格プランの提供が遅れたことが回復の遅れに直結していることは間違いないだろう。
だが、ドコモの親会社であるNTTの代表取締役社長である島田明氏は、「NTTドコモは顧客基盤をずっと減らしてきた歴史があるが、私としてはそろそろ限界と思っている」と話しており、APRUの減少よりも顧客が減少してしまうことの方が大きな課題と捉えているようだ。
そこでドコモは、実店舗での販売強化に向けた投資を積極化しているそうで、それが減益につながる要因の1つとなっているという。なぜ同社がARPUより顧客基盤の維持を優先させているのかといえば、そこにはいわゆる“経済圏”ビジネスの存在が大きく影響しているだろう。
携帯大手3社は携帯電話で獲得した顧客を軸として、自社系列のサービスの利用を増やすことで顧客の囲い込み強化につなげようとしている。その顧客基盤を減らすことは経済圏ビジネスを拡大する上でマイナスに響くと考えたからこそ、ドコモはモバイル通信の回復よりも顧客の維持を優先したといえそうだ。
とはいえARPUの回復に向け手を打っていない訳ではない。8月1日には「ドコモポイ活プラン」の新プラン「eximoポイ活」の提供を開始している。通信量の増大傾向を受けてeximoの契約が好調なことに加え、第1弾となる「ahamoポイ活」の契約が順調なことから、強固な顧客基盤を持つ「dカード」を軸としてeximoポイ活の契約拡大でARPU上昇に弾みを付けたい考えなのだろう。
一方、楽天モバイルを有する楽天グループの2024年12月期第2四半期決算は、売上高が前年同期比8.0%増の1兆51億円、営業損益が516億円と、引き続き赤字が続いている。ただその赤字幅は前年度と比べ半減しており、急速に回復傾向にあるようだ。
その理由は、最大の赤字要因でもある楽天モバイルの好調にある。実際、楽天モバイルの全契約回線数は770万、MVNOの回線数や、MVNOに向けて回線を提供しているMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)、そしてBCP(事業継続計画)向けの回線を除いても703万回線と、700万契約を超えていることは確かなようだ。
契約好調の要因は、「最強家族プログラム」「最強青春プログラム」といった割引施策の展開、そして「楽天市場」「楽天カード」など楽天グループ内のサービスで展開しているキャンペーン施策によるところが大きいという。獲得している契約も20~40代の比較的若い世代が中心となるようで、割引やキャンペーンのお得さが若い世代に響いているようだ。
それに加えて同社は、KDDIとのローミング契約延長などによって、投資コストを大幅に削減している。楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏は、楽天モバイルの黒字化達成が視野に入ってきたことに言及している。
実際に三木谷氏は、マーケティング関連の投資を差し引いたPMCF(マーケティング前キャッシュフロー)では、今四半期で黒字を達成したとアピール。さらに顧客獲得を進めて今後EBITDA、そして営業利益の黒字化を目指すとしている。
また、楽天モバイルは2024年8月8日、通信設備を一部売却し、それをリースで借り受けて利用を継続する、セール・アンド・リースバック方式での資金調達を発表。これによって楽天モバイルが1500~3000億円規模の資金調達を実現し、楽天モバイルの運営に必要な当面の資金を確保。事業面での不安要素も減少してきている。
そうしたことから楽天モバイルでは、さらなる契約拡大に向けた施策に取り組みを進めるとともに、プラチナバンドとなる700MHz帯のサービス開始前倒しによって通信品質の強化を図る方針を打ち出している。
ただその一方で、競合他社から楽天モバイルに契約が流れている様子はほぼない。実際、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏は、「われわれからの流出状況を見ても、そんなに大きくない」と話しているし、ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏も、楽天モバイルは「脅威」としながらも、「(楽天モバイルの)影響があるのかというと、ほとんどない」と答えている。
さらにNTTの島田氏も「他社とそんなに変わらないと思っている」と回答。いずれも契約数に大きな影響を受けている様子はないようで、宮川氏は「見ていなかったマーケットがあるのかもしれない」と、楽天モバイルの契約増に首をひねる様子も見せる。
では一体、楽天モバイルの契約者はどこから来ているのか。そのヒントとなりそうなのが、高橋氏が「分析するとデータ容量が少ないSIM単体の流動が、少し楽天(モバイル)に出てるかなという感じがする」と話していたことである。
実は2023年末にスマートフォンの値引き規制が一層厳しくなって以降、携帯各社はSIM単体での契約に2万2000円分のポイントなどを還元する販売施策を強化。携帯各社によるSIM単体での販売による顧客獲得競争が、ここ最近激化しているのだ。
昨今のスマートフォン値引き規制によって、電気通信事業法では4万4000円を下回るスマートフォンに対して2万2000円までの値引きを認めるとされているが、実は端末を販売しない場合もこれと同様に、顧客に2万2000円までの利益供与をすることが認められている。そこでこの規制を契約数拡大につなげるべく、携帯各社がSIM単体での契約にポイントなどを付与する施策を強化している訳だ。
実際に各社の解約率を見ると、今四半期はKDDIが1.11%、ソフトバンクが1.39%とともに上昇。0.75%と低く抑えられているNTTドコモも、ここ最近irumoのSIM単体販売を強化するなど、他社に追従しようとしている動きが見られる。
KDDIの例を挙げると、解約率自体は増えているがメインブランドの「au」の解約率は伸びておらず、サブブランドの「UQ mobile」で提供している低価格プランの解約が伸びているという。低価格のプランを契約してポイントを獲得し、短期間で乗り換え、あるいは解約してしまう人が増えている様子がわかる。
一方の楽天モバイルは、無料キャンペーンを実施した以前と比べれば大きく下がっているとはいえ、短期解約も含んだ調整前の解約率は1.47%と、競合と比べれば依然高い水準にある。それだけに、SIM単体契約でのポイント還元に主眼を置いたユーザーが楽天モバイルに流れているのでは、という見方があるようだ。
とりわけ楽天モバイルは、利用者からの紹介で契約すると、紹介した側とされた側の双方にポイントが入るキャンペーン施策に力を入れている。今後、ポイント獲得を目的としてSIM単体で契約しているユーザーが、獲得後に解約してしまうことで顧客流出につながる懸念もあるだろう。そうした意味で言えば、契約数を急速に増やした楽天モバイルはこれから正念場を迎えることになるのかもしれない。
【8月15日9時30分修正】
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