「Galaxy AI」はサムスンが提供するさまざまなAIツールの総称だ。2024年1月に発表されたサムスンのフラッグシップスマートフォン「Galaxy S24」シリーズに初搭載され、7月には同社の新型折りたたみスマートフォンにも対応した。その際は、人物の写真をスタイリッシュなポートレートに転換するツール、スケッチをアート作品に仕上げるツールなど、新たなAI機能も追加された。
筆者はこの半年間、「Galaxy Z Fold6」と「Galaxy S24 Ultra」を使いながら、Galaxy AIの使い勝手を試してきた。その結果、一部のAI機能はあまり実用的とは言えないことに気づいた。例えば「通訳」アプリに新搭載された「会話モード」は、言葉が分からない相手と話をするときに、内側ディスプレイと外側ディスプレイに相手が話した言葉の翻訳が表示される機能だが、期待していたほどの実用性はなかった。アイデアとしてはいいのだが、実際の場面では、会話の相手に意識を向けながら翻訳された文字も追うのは難しい。
もうひとつの新機能「文章の生成」は、プロンプトをもとにメッセージやSNS投稿の下書きを生成してくれるものだ。この機能には期待していたが、提案される文面は絵文字を多用したものが多く、これまでのところ、あまり頼りにならないと感じている。
それでも、Googleの「かこって検索」やサムスンのリアルタイム通訳機能は、現在のAIブームが一過性のものではなく、大きな進化の可能性を秘めていることを示している。
Galaxy AIはまずGalaxy S24シリーズに搭載され、その後、ソフトウェアアップデートを通じて他のサムスン製デバイスでも利用できるようになった。この動きは、サムスンがGalaxy AIをモバイル機器の標準機能にしようと考えていることを示している。現在、Galaxy AIは「Galaxy S22」シリーズ以降、および「Galaxy Z Flip4」、「Galaxy Z Fold4」ファミリー以降で利用できる。
「かこって検索」は、その名が示す通り、スマートフォンのディスプレイに表示されているものを丸で囲むだけでGoogle検索を起動できる機能だ。「Instagram」のフィードで美味しそうな料理を見かけたら、丸で囲むだけでGoogleがレシピや似たような料理を出す近隣のレストランを検索してくれる。「かこって検索」は「Googleレンズ」に似ているが、写真を撮らなくてもディスプレイに表示されているものなら、ほぼ何でも検索できる点が違う。
今のところ、「かこって検索」が役立つのは主に買い物やレシピ検索、地域のレストランや観光スポットの発見などだが、この手の機能には大きな可能性があると思う。例えば、丸で囲んだものにテキストクエリを追加すれば、結果を絞り込める。テキストと画像を適切に組み合わせれば、検索結果を延々とスクロールすることなく、目的の情報をすばやく見つけられるようになるはずだ。
なお、「かこって検索」は対応するGalaxy端末だけでなく、一部のPixel端末でも利用できる。Googleは「かこって検索」にできることを順次拡大しており、最近は数学の問題も解けるようになった。
「ポートレートスタジオ」は、Galaxy Z Fold6とGalaxy Z Flip6で新たに使えるようになったAI機能だ。この機能を使うと、人物の写真をコミックや3Dマンガ、水彩画、スケッチなど、さまざまなスタイルのポートレートに変換できる。確かに実用性が高いとはいえないし、そもそも本人に似ていないことも多い。しかし、間違いなく楽しい。筆者は自分のセルフィーがどんな風に変わるかを見たくて、Galaxy Z Fold6でのポートレート作成にすっかりはまってしまった。
この機能が切実に必要となる状況は思いつかないが、おもしろい機能であることは確かだ。そして今は、それで十分なのかもしれない。
AIスケッチも、ユーザーの創造性を刺激するAIツールだ。ポートレートスタジオと同様に、Galaxy Z Fold6とGalaxy Z Flip6のリリースに合わせて登場した。その名が示す通り、ボタンを1度押すだけで、適当に描いた手書きのスケッチをアート作品に仕上げてくれる。
これは頻繁に使うタイプの機能ではないかもしれない。イメージ通りの仕上がりにならないこともある(例えば、飼い猫の写真に帽子を描き足してみたところ、頭に本を乗せた画像が生成されてしまった)。
しかし、プレゼンや仕事関係の資料にちょっとしたイラストを添えたいと考えていて、たまたまその文書をサムスンの「Samsung Notes」アプリで作成しているときなど、非常に限られたシーンでは役に立つだろう。
ポートレートスタジオと同じく、あれこれ試しているだけで楽しい機能だ。
「チャットアシスト」は、「Samsung Messages」アプリに追加された4つの新機能の総称だ。具体的には、チャットの文章をさまざまな言語に翻訳する「チャットの翻訳」、Googleの「文章マジック」のように、メールを送信する前に表現を整える「文章のスタイル」、指示を元にメッセージの下書きを作成する「文章の生成」、文章に誤りがないかをチェックする「スペルと文法」だが、特に感動したのは「チャットの翻訳」だ。
何度かタップするだけで、チャットのスレッド全体を別の言語に翻訳できる。翻訳したいテキストをコピー&ペーストしたり、アプリを切り替えたりする必要はない。同僚から韓国語のメッセージが届いたときは、Samsung Messagesアプリが自動的に英語に翻訳するか尋ねてきた。翻訳可能な言語は順次拡大中で、アラビア語、インドネシア語、ロシア語も追加されている。
この機能は、海外に行く機会が多い人、母語が異なる家族や同僚と定期的に交流している人には役に立つだろう。筆者の場合、チャットの翻訳を日常的に使うことはないが、履歴をスクロールするたびに、過去のテキストメッセージがリアルタイムで自動翻訳されていく様を見るのは感動的だった。
Galaxy AIを開発するにあたって、サムスンが翻訳・通訳機能を重視していたことは間違いない。サムスンはスマートフォンの「電話」アプリに通訳機能を搭載し、「リアルタイム通訳」と呼ばれる新機能を追加した。電話をかける際に「リアルタイム通訳」ボタンをタップすれば、通話内容をリアルタイムで翻訳してくれる。相手には、通話内容が翻訳されることが自動音声で伝えられる。自分が話し終わると、その内容が指定した言語(相手の言語)で再生されるため、自分が言ったことを相手に理解してもらえる。逆もしかりだ。
この1年は海外に行く機会が多かったが、この機能があれば、レストランの予約やイベントチケットの購入はずいぶん楽になるだろう。ただリアルタイム通訳をはさむと、自分が話すタイミングがつかみにくくなるので、会話の流れが悪くなりやすい。しかし対応言語は続々と増えているため、今後さらに便利になっていくはずだ。
Galaxy S24シリーズなどの「インスタントスローモーション」機能では、ディスプレイを長押しするだけで、「ギャラリー」アプリに保存されている動画をスローモーション再生できる。これも必須の機能ではないが、とても楽しい。スローモーション動画を保存することも可能だ。
「生成AI編集」は、Googleの「編集マジック」に似た機能で、写真に映っているオブジェクトの位置やサイズを変えたり、消去したりできる。この2つの機能は共通点が多いが、それはサムスンの「生成AI編集」がGoogleの技術をもとに開発されているからだ。
しかし、「生成AI編集」と「編集マジック」はまったく同じというわけではない。例えば「生成AI編集」の場合、編集後の画像にはAI生成したことを示すウォーターマーク(すかし)が入るが、「編集マジック」の場合は入らない。また、「編集マジック」は複数の生成候補が表示され、その中から選択できるが、「生成AI編集」の場合、表示される結果はひとつだけだ。
「生成AI編集」や「編集マジック」のような機能は便利だが、スマートフォンで撮った写真の信頼性を脅かすという負の面もある。インターネットでは、すでに誤情報が問題化していることを考えると、なおさらだ。しかし責任を持って使えば、「生成AI編集」は「Photoshop」などの特別なソフトウェアの知識がなくても、手軽に写真を編集できるというメリットがある。
今回紹介した機能は、2024年に発表されたGalaxy AIの新機能の一部にすぎない。しかし、AIがいかに革新的で実用的な機能をスマートフォンにもたらし得るかをよく示している。
Galaxy AIは現在、対応するGalaxyデバイスのユーザーに無料で提供されているが、今後は分からない。サムスンの製品ページには、2025年以降の有料化を示唆する但し書きが小さく記載されているからだ。
ともあれ、Galaxy AIは力強いスタートを切った。今後の進化に要注目だ。
Galaxy AIこの記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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