「Twitter」が「X」になり、青い鳥が私たちの元から飛び立ったのは、米国時間で一年前の2023年7月23日のことだった。青い鳥のロゴマークを消したくなくて、Twitterを表示したブラウザーをリロードできなかった日が懐かしい。
いまだにXをTwitterと呼ぶ人も少なくないが、最近は「Xが」と話しても、何を指しているかすぐに通じるようになったと感じる。同様に、「ポスト」や「リポスト」と言った機能名の変更に関してもずいぶんなじんだ。
ただ、Twitterに認証されたアカウントに付与されていた青いチェックマークについては、いまだに認証アカウントだと勘違いしている様子を見かける。ちなみに、青いチェックマークは名称変更以前の2023年4月に、有料サブスクリプションに契約している人に付けられるものに変更されている。
米国の起業家イーロン・マスク氏がTwitterの買収を完了したのは、2022年10月のこと。決済やショッピング、配車などのあらゆるサービスを提供する「スーパーアプリ」に進化させる展望を語っていた。それは、例えるなら中国における「WeChat」のようなサービスで、イーロン・マスク氏自身もYouTubeで、「WeChatは良いモデルになると思う」と話している。
2023年10月に実装された音声通話とビデオ通話機能は、まさにスーパーアプリへの第一歩だ。かつてDMを受け取った相手とのメッセージの画面を開くと、右上に音声通話とビデオ通話のアイコンが表示されているので、タップすると通話できる。現在はサブスクリプションに加入していないユーザーでも利用できる。国内ではあまり利用されていないかもしれないが、相手の電話番号を知らなくても通話ができる利便性がある。
しかしXの現状は、イーロン・マスク氏が抱く理想像とかけ離れているように見える。そのひとつが、「インプレゾンビ」の徘徊だ。
インプレゾンビとは「インプレッションゾンビ」の略称で、ポストの表示回数を稼ぐことで収益を得ようとするアカウントを指す。日本では2023年8月に導入された「クリエイター広告収益分配プログラム」の副産物として誕生してしまった。
クリエイター広告収益分配プログラムは、イーロン・マスク氏が導入したクリエイター支援を目的としたものだ。有料プラン「Xプレミアム」に加入すると、長いポストが可能になり、ポストの編集やテキストの書式設定といった機能が増えるほか、Xが得た広告収益の一部を受け取れる。イーロン・マスク氏としては、サブスクリプション収入以外にも、クリエイターが質の高いコンテンツをポストするようになることでユーザー数やプラットフォームの滞在時間が増え、広告収入の増加による経営改善も狙えると考えたのだろう。
しかし、インプレゾンビは質の高いコンテンツをバズらせるよりも、手っ取り早い方法を見つけてしまった。バズっているポストへのリプライや「トレンド」のキーワードを含んだ関連性のないポストをすることで表示回数を稼ぐようになってしまった。画像や短いループ動画も効果的と考え、同じような投稿ばかりが並ぶようになった。一般のユーザーが他ユーザーの意見をリプライで読みたいときや、トレンドで最新情報を得たいとき、インプレゾンビのポストだらけで肝心のポストにたどり着かないという事態が起きている。
日本にとって、インプレゾンビの出現は深刻な問題だ。国内では、地震などの災害が起きたとき、もっともスピーディーに多くの情報が集まるツールとしてTwitterが重宝されていた。しかし、2024年1月1日に起こった能登半島地震では、インプレゾンビによる偽情報があふれかえり、消防や警察による救助の妨げとなった。「助けてください。建物の下にいます」などのポストが画像ごとコピペされて大量に発生したため、情報の精査にかなりの苦労を要したはずだ。
インプレゾンビ以外にも、収益目的のアカウントが人々の怒りを買うような「釣り」ポストをしてインプレッションを稼いでいるのを見かける。また、政治、ジェンダー、マナーなどのテーマで激しく意見を交わすうちに誹謗中傷へと発展したり、迷惑行為を盗撮した動画や誤った特定による個人情報が拡散されたりと、治安が良いプラットフォームとは言えない状況が続いている。
それでも、Xの代替として候補に挙がった「Bluesky」や「Mastdon」への移行は特に起きていないようだ。Xでのソーシャルグラフをすべて捨ててしまうことが寂しくて留まっている人や、他のサービスに魅力を感じなかった人が多いのだろう。
Xはまもなく1年となる2024年7月10日、月間アクティブユーザー数が5億7000万に達し、前年比で6%増加したと発表した。
今後は、2024年6月に実装された「いいね」の非公開化によるユーザーの活発化が期待される。「周囲に気兼ねなくいいねできる」との声も挙がっているため、インプレゾンビやXの仕様変更に振り回されながらも利用を継続するだろう。
一方、X対抗と噂されたMetaの「Threads」も好調である。米国時間の2023年7月5日にローンチしたThreadsは、1周年記念のイベントを大々的に行った。Threadsのアプリアイコンを好きなデザインに変更できる機能や、「Threads1周年」「スレッズ祝1周年」などのキーワードをタグ付けして投稿するとプロフィールのアイコンにパーティハット(帽子)が付く機能を提供するなど、お祭りムードの1周年となった。
マーク・ザッカーバーグ氏はThreadsにおいて、リリースから約1年で月間アクティブアカウント数が1億7500万を超えたことを発表している。
Threadsは、当初最小限の機能でリリースされたこともあり、期待外れだと感じて離脱したユーザーも多くいた。しかし、現在はハッシュタグにあたる「トピック」やウェブブラウザーでのマルチカラム表示など、使い勝手を向上させる機能を続々と実装している。
2024年1月のNTTドコモ モバイル社会研究所の調査によると、Threadsの利用率は全体で5%程度だが、10代では17.9%の人が利用している。ThreadsはInstagramアカウントで利用するサービスであるため、Instagramの利用率が高い10代(78.7%)が飛びついたのかもしれない。
しかし、Threadsを眺めていると、30~40代を中心とした女性の投稿が目立つようだ。アルゴリズムによる影響はあると思うが、周囲の声を聞いてもおおよそ同じような感想を聞く。愚痴の多さに「汚いInstagram」と評価する声や、「なぜテキスト発信になると愚痴投稿になるのか」といった意見も出ている。
私はこれを「キャズム超え」の予兆であると解釈している。Xのユーザーはテクノロジーやアニメが好きな人が多く、スマホ以前からネットを利用している人も多い。SNSやネットへの投稿に長けている人々だ。一方Threadsは、ファッションや写真などが好きな人が多く、スマホからネットを活用し始めたようなユーザーが多い。バズることを目当てにしておらず、メッセージの感覚で文章をつづっているようにも思える。
この違いにより、例えばXとThreadsに同じ内容の投稿をしたとしても、Xでは叩かれ、Threadsでは真剣なアドバイスをされることがある。逆に、内容によってはThreadsでは怒られ、Xでは賛同されることもある。それほど、ユーザー層やカルチャーが違う。今や、ネットはIT好きの人だけが使う特別なものではなくなった。ごく普通の人々がThreadsを利用して、テキストコミュニケーションを楽しんでいるのではないか。今後もThreadsが活用されていく兆しと捉えているのはそうした理由だ。
TwitterがXになった頃、Xはこのまま衰退していくようにも思えた。インプレゾンビの発生もそれを予感させた。しかし、「結局、Xがいいよね」というユーザーたちに支えられて盤石な様相だ。そしてThreadsは、Instagramとは違う表現をしたいInstagramユーザーによって新たなコミュニティを作り上げている。今後、この2つのサービスがどのように進化していくのか、しっかりと注視していきたい。
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