なぜ非対面の携帯契約で「マイナカード」が必須化されるのか--背景にある「SIM乗っ取り」問題

 携帯電話契約時の本人確認において「マイナンバーカード必須」というニュースが盛り上がっている。

 一部で「マイナンバーカード所有は義務ではなかったはずだが、携帯電話の契約で実質、所有を強要されるのはおかしい」と反発の声が上がっているのだ。

  1. 「マイナカード必須化」は非対面限定
  2. 誰でも被害者になりうる「SIM乗っ取り」問題とは
  3. 不便になるが安心感は向上
  4. 楽天モバイルの黒字化に影響する可能性

「マイナカード必須化」は非対面限定

 しかし、実際のところ、マイナンバーカードがなければ携帯電話の契約ができないというわけではない。

 デジタル庁や政府官邸の犯罪対策閣僚会議では「オンラインなど非対面での契約の場合、本人確認はマイナンバーカードのICチップに一本化」とあるが、ショップ店頭など対面での契約は「マイナンバーカード等のICチップ情報の読み取りでの本人確認を義務付ける」とある。

 つまり「マイナンバーカード等」という「等」というのがミソのようで、ここには運転免許証や在留カードなどが含まれるとされている。つまり、マイナンバーカードなんて持ちたくないという人は、運転免許証を持って、キャリアショップ店頭で手続きをすればいいだけの話だ。

誰でも被害者になりうる「SIM乗っ取り」問題とは

 今回、犯罪対策閣僚会議が携帯電話契約時の本人確認を強化した背景にあるのは、やはり、「SIMスワップ」や「SIMハイジャック」と呼ばれる、SIMカードの乗っ取り事件が多発している点にあるだろう。

 最近では東京都の都議会議員や大阪府八尾市の市議会議員が被害に遭った件が大きく報道されている。犯人がSIMカードの再発行を依頼した際、偽造マイナンバーカードを提出。ショップ店員が目視だけで本人確認をしてしまったため、簡単にSIMカードが乗っ取られたとされている。これが、マイナンバーカードだけでなく、運転免許証のICチップを読み取り、チェックしていれば、乗っ取りは防げたはずだ。

 このように、SIMカードを乗っ取られる犯罪は、誰もが被害者になる可能性は十分にあるわけで、マイナンバーカードだけでなく、運転免許証のICチップを積極的に活用するというのは、国民を守る上で最良の方法なのではないか。

不便になるが安心感は向上

 筆者は仕事柄、レビュー記事を書くために新しいスマートフォンやタブレットを試して使うという機会が多い。古いデバイスから新しいデバイスにSIMカードを移そうと思うと、昔であればプラスチックの小さなカードを移し替えれば良かったが、最近ではeSIM対応機種が増えてきたこともあり「eSIMを移行させる」という手順を踏まなくてはならない。

 これが「iPhoneからiPhone」という移行であれば「eSIMクイック転送」という機能を使うことで、サクッと移せるのだが、「iPhoneからAndroid」といったプラットフォームをまたいだり、「スマホからタブレット」というデバイスの種類をまたぐ移行となると結構厄介だ。

 この場合には、キャリアのオンラインサポートのページにIDとパスワードでログインし、eSIMの切り替え手続きが必要になってくるのだ。

 この際、キャリアやサブブランドによってはeSIMを切り替える際にIDとパスワードに加えて、マイナンバーカードのICチップを読み込ませたり、運転免許証の画像を提出して本人確認作業する必要があったりする。

 一方で、eSIM再発行時、電話番号やメール宛にメッセージが届く二要素認証だけで、マイナンバーカードなどの本人確認は不要のところまでさまざまだ。

 ちなみに、米国のGoogle Fiを契約しているが、Google FiはIDとパスワードさえあれば、新しいデバイスに簡単にeSIMを移せるようになっている。

 昨今のSIMスワップやSIMハイジャックなどの被害を考えると、不便ではあるが「一度は本人確認書類の提出を求めるキャリアの方が、他人に盗まれる心配がなく、安心して使えるかも」と思い始めている。

 KDDIで代表取締役社長を務める高橋誠社長は「eSIMに関してはネットで簡単に再発行できてしまう事業者がいるというのは認識している。このあたりは総務省にも指導してもらいたい。乗り換えの促進よりも、重要な課題ではないか」と警鐘を鳴らしていた。

楽天モバイルの黒字化に影響する可能性

 実は楽天モバイルでは、すでに楽天銀行や楽天証券、楽天生命などで本人確認が済んでいる場合、新規に楽天モバイルを契約する際には、改めての本人確認書類の撮影を不要とするといった施策を展開していたりする。

 楽天モバイルは、早期に800〜1000万契約を達成し、一人あたりの通信料収入も月額2500〜3000円にすることで、黒字化する見立てとなっている。

 現在、700万契約を超えた楽天モバイルとしては、他社から簡便に乗り換えてもらうためには、できるだけ本人確認のプロセスでユーザーに負担をかけたくないというのが本音だろう。

 しかし、犯罪対策閣僚会議が、オンラインでの携帯電話契約時の本人確認をマイナンバーカード搭載のICチップに一本化するとなれば「マイナンバーカードを持っていないから、楽天モバイルを契約できない」なんてユーザーが出てくる可能性も考えられる。

 特に楽天モバイルは店舗契約よりも、インターネット経由での新規契約獲得が強いということもあり、「マイナンバーカードによる本人確認」は避けて通れなくなるだろう。

 国民を犯罪から守るために携帯電話契約時の本人確認を強化するというのは是非とも推進すべき事だが、一方で今回の施策は、黒字化を目指す楽天モバイルの足を引っ張りかねないのだ。

(※高橋誠社長の高の漢字ははしごだか)

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