熊本県内で鉄道・バス事業を営む5つの事業者は5月31日、鉄道およびバス利用時の決済手段について、全国交通系ICのサービスを停止し、クレジットカードなどのタッチ決済を導入する方針を進めていると発表した。発表したのは、熊本電気鉄道、九州産交バス、産交バス、熊本バス、熊本都市バスの5社。各社は5月23日付で、熊本県と熊本市に対し、本方針を説明していた。
各社では、乗車時の決済手段として、「Suica」や「ICOCA」などの全国交通系ICカードと、各社独自の「くまモンのICカード」を導入している。2023年度の実績では、くまモンのICカードは鉄道、バスともに半数以上の利用者が使用していた。一方、全国交通系ICカードの利用率は、熊本電鉄の電車で18%、バスで24%だったという。
熊本では、インバウンドの増加によるキャッシュレス決済の多様化やスマホ決済の利用増といった全国的な流れに加え、台湾のTSMCが進出することで、外国人労働者の増加が見込まれている。各社はこの状況下で、より多くの利用者のニーズに応えられるよう、全国交通系ICカードに変え、クレジットカードなどによる決済が可能な読み取り機器を導入する方針を固めた。新たな決済手段に対応する機器では、QRコードを読み取れる機能を有するという。各社では将来的な展開として、MaaSアプリなどによるQR乗車券の導入も検討するとしている。
加えて、対応機器の更新費用も、今回の決済手段変更の背景の一つとなる。更新時に全国交通系ICカードの提供を継続する場合は、更新費用は12億1000万円となるという。全国交通系ICカードの継続を断念し、クレジットなどのタッチ決済に置き換える場合には、更新費用は半額に近い6億7400万円に抑えられるとしている。
今回の決済手段変更で提供を終了するのは、全国交通系のICカードのみ。熊本で広く使われているくまモンのICカードは、小児・高齢者・障がい者割引や定期券としての利用などで優位性を発揮しているとし、今後も提供を継続する。
全国交通系ICカードは、Suica、ICOCAなどの10種類。各社相互間のほか、札幌市交通局の「SAPICA」、広島エリアの「PASPY」など、地域・事業者独自のICカードでも、片乗り入れの形で利用が可能となっている。これら全国交通系ICカードの利用可能エリアにおいて、その利用を終了した事業者は、2024年現在は皆無。広島エリアのPASPYでは、2024年度内にサービス提供を終了し、QRコード主体の「MOBIRY DAYS」に置き換える方針を発表しているが、こちらは全国交通系ICカードは引き続き利用可能となる予定だ。
熊本電鉄などとともに熊本市内を走る熊本市電では、全国交通系ICカードの「nimoca」(でんでんnimoca)を導入している。熊本市の大西一史市長は、5月28日の定例会見において、熊本市電でも2026年4月にnimocaのサービス提供を廃止し、熊本電鉄などと同様の決済手段に変更する方針を説明している。
熊本の5社での全国交通系ICカードサービスは、2024年12月中旬以降に終了する予定。クレジットカード決済の導入は、国や県、熊本市の支援が得られれば、2025年3月にも実現できるとしている。
九州では、JR九州の一部路線、福岡市営地下鉄、西日本鉄道の一部駅・バス、熊本市電、九州産交バスの一部、鹿児島市の市電およびバス、南国交通の空港バスで、クレジットカードなどによるタッチ決済が導入済みとなっている。
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