「CES 2024」展示減、国内事業化失敗率91.9%--冷めつつある「メタバース熱」の要因は

小林拓人 (クニエ)2024年05月27日 08時00分

 2021年から着目され始めたメタバース。「Facebook」などを運営するMetaを筆頭に多くの企業が参入を表明し、多額の投資が行われてきた。それから約3年が経った今、メタバースはビジネスとしてどのような状況なのかを解説していく。

 なお、本連載ではメタバースを、「インターネット上でユーザー自身がアバターを用いてお互いにコミュニケーションすることが可能な、現実世界とは別の仮想空間」と定義する。いわゆる“狭義”のメタバースで、AR/MRサービスや、別ユーザーとのコミュニケーションが発生しないVRサービスはスコープ外としている。

  1. 冷めゆく“メタバース熱”
  2. 主要プレイヤーはメタバースへの投資を継続
  3. 91.9%が事業化に失敗
  4. 今必要なのは現場目線でのアプローチ

冷めゆく“メタバース熱”

 2021年後半から2022年にかけて、多くの企業がメタバースに進出した。多様なメディアが特集を組んでメタバースを取り上げるなど、メタバースは“過熱”状態であった。

 しかし現状、その熱は冷めてきており、メタバースからの撤退を表明する企業やメタバースのサービスを終了させる動きが出てきている。メディアを通じて「メタバース」という用語を見聞きすることも、かなり少なくなっている。

 メタバースの熱が冷めてきていることは、2024年1月に米国で開催された「CES 2024」においても顕著に表れていた。

 2023年に開催された「CES 2023」においては、「Gaming|Metaverse|XR」とカテゴライズされた展示区画が用意され、その区画にメタバースに関する数々の製品・サービスが展示されていた。さらに、CESの主催者であるCTA(全米民生技術協会)の基調講演では、毎年その年のキーテクノロジーが発表されるが、その一つとしてメタバースが紹介されており、メタバースに対する注目度が高かった。

 しかし、CES 2024では「Gaming|Metaverse|XR」の展示区画は同じく設けられていたものの、メタバース関連の展示は2023年と比べて減少した。展示された製品・サービスも、2023年と比べて目新しいものは見受けられなかった。一方で、XRやデジタルツインに関連した製品・サービスの展示が増えており、CTAの基調講演でも2024年のキーテクノロジーとしてデジタルツインが挙げられた。注目度がメタバースから離れ、XR・デジタルツインに移り変わっていることが伺える。

主要プレイヤーはメタバースへの投資を継続

 メタバースからの撤退を発表した企業がいる一方で、継続的な投資を行っている企業も少なくない。Metaは、一時は業績悪化により、投資家からメタバース撤退を求める声が上がっていたものの、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は引き続き投資する方針を明確にしている。

 Appleもメタバースへの投資を行っており、「空間コンピューティング」という新しい概念を提唱し、2024年2月にはVRゴーグル「Apple Vision Pro」を発売した。ディズニーにおいては、2021年からメタバースへの参入を検討していたものの、その後2023年5月にメタバース部門の解体を発表し、メタバースからの撤退を表明していた。しかし、2024年2月に人気オンラインゲーム「FORTNITE」を有するEpic Gamesの株式を取得し、再度メタバースに取り組んでいくことを発表している。

 日本国内においても、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどの通信会社各社はプラットフォーム展開やメタバース関連サービスの開発に積極的であり、全日本空輸(ANA)のような旅客業界もバーチャルトラベルやショッピング体験を提供するプラットフォームを展開している。そして、竹中工務店、三井住友フィナンシャルグループ、ヤマハなど、異なる業界の企業が協力してメタバースプラットフォームの構築に取り組む事例も見られる。

 さらに、上記で挙げた企業を含めた数々の日本企業が、中期経営計画やプレスリリースでメタバースへの参入を表明している。メタバースの製品・サービスが新たに登場していくものと考えられる。

91.9%が事業化に失敗

 現在においても、メタバースに取り組む企業が一定数存在することは確認できたが、事業化に辿り着くまでの道は険しい。クニエが2023年1月に行った、国内のメタバースビジネスの実態調査によれば、91.9%が事業化に失敗している。

 なお、本調査での事業化とは、「企画に対して事業化の社内審査がおりた状態」「企画が事業として運営している状態」として定義しており、ビジネスとして走り出すに至っていないケースが大半を占めていることを示している。

 本調査では、事業化の失敗層と成功層と比較することで、「事業内容・ビジネスモデル」「検討プロセス」「組織・体制」の観点から事業化に失敗するメタバースビジネスの特徴を導き、事業化成功に向けての提言を「メタバースビジネス調査レポート」としてまとめているため、併せて参照されたい。

今必要なのは現場目線でのアプローチ

 メタバースへの参入は多くの企業にとって重要な戦略的決断だが、企画立案の段階で難航するケースが少なくない。この要因は、経営層がメタバース参入の意思決定だけを先行して行い、「メタバースを活用して何か新しいことをしよう」という方針を打ち出すが、具体的な企画案やそれを実現するための道筋や戦略が欠けており、結果として企画立案や戦略の策定は現場に丸投げされてしまうことにある。

 このような場合、現場担当者はメタバースビジネスの情報収集を行うも、筋の良いユースケースや成功事例らしい事例が確認できず、さらには経営層から明確な指針も与えられていないため、検討が暗礁に乗り上げてしまうケースが多い。

 クニエでは、そのような状況に置かれた複数の企業の現場担当者らとともにメタバースビジネス勉強会を開催し、議論を交わしてきた。ただその議論の過程で浮き彫りになったのは、シンクタンクやコンサルティング会社の提言として見受けられる「メタバースありきで考えるべきではない」や、「新規事業開発人材、テクノロジー人材を組み合わせた企画検討チームを組成すべき」といったものは、経営戦略または事業戦略レベルのものが多く、今まさに企画検討の命が下っている現場担当者の行動指針にはなり得ないということである。

 今回はメタバースビジネスの現状について解説したが、次回以降では現場担当者の検討の一助となるべく、メタバースビジネス勉強会の内容やこれまでのコンサルティング経験を踏まえ、メタバースビジネスにどう取り組むべきかを“現場目線”で考察していく。次回は、メタバースを既存ビジネスのマーケティングに活用するケースにおいて、その有効性や注意すべきポイントについて考察する。

小林拓人

株式会社クニエ

大手日系コンサルティングファームを経て、クニエに入社。新規事業戦略担当として、メタバース含む新たなテクノロジーを活用した新規事業開発、製品・サービス開発、事業グロースを支援。 調査レポートの発行・取材対応など、メタバースに関する実績多数。子どもの第3の居場所づくりを行うNPO法人AKTOの理事としても活動。

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