友人と絵を描いたり、ゲームをしたり、映画を観たり、3Dモデルを眺めたりしているうちにあっという間に1時間半がすぎた。子供におやすみを言うのさえ忘れてしまった。もう夜10時をまわっている。自宅の仕事部屋で、長いこといろいろな世界を一緒に飛び回ったような気がした。しかし、実際に部屋にいたのは筆者だけだ。Testedの共同創業者Norman Chan氏は、遠く離れた場所にあるホテルの一室にいた。しかし筆者とChan氏は互いのスペースに「テレポート」し、しばらくの間、本当に一緒にいるかのような時間を過ごしたのだ。
Appleは、ヘッドセット「Vision Pro」で見るアバター「Persona」の外観とふるまいに、小さいながらも非常に重要な変更を加えた。現在、開発者向けにベータ版が提供されている「Spatial Persona」(空間ペルソナ)機能を使うと、友人や同僚のスキャン映像を画面内の小窓ではなく、自分が見ている複合現実(MR)空間に浮かべることができる。この幽霊のような空間ペルソナは、MR空間の中のものを指さしたり、操作したりできる。この機能はAppleが2023年の「Worldwide Developers Conference(WWDC)」でVision Proを発表した際に約束していたものだ。Vision Proの発表から1カ月以上が過ぎ、6月のWWDC24ではソフトウェアアップデートが発表されるのではないかとうわさされる中、突然ベータ版が登場した。
筆者は、MR空間でのテレプレゼンスに興味津々だった。デモに参加したこともある。2020年初頭には、スタートアップ企業Spatialの拡張現実(AR)グラスをかけ、自分の周りに浮かんだバーチャルアバターとふれあった。2021年には「HoloLens 2」を装着して「Microsoft Mesh」を試した。このときは、MicrosoftのAlex Kipman氏のアバターが自宅の仕事部屋に現れた。Metaの仮想空間やメタバースアプリを使って映画を観たり、仕事をしたり、ゲームで遊んだりしたこともある。2022年には、Googleの「Light Field Display」を見せてもらった。目の前に3D化された人間が映し出され、リアルなテレプレゼンスチャットを体験した。
3D空間に浮かび上がるAppleの空間ペルソナは、こうした過去の体験をすべて合わせたもののように感じられた。空間ペルソナの動きや表情は、さらにリアリティを増し、実際にその場にいるかのように感じられた。空間ペルソナは、Vision Proで「FaceTime」通話中に表示される、頭の形の3Dアイコンがついたダイアログで有効化できる。有効にすると、相手の頭部と肩の一部、そして手が空間に浮かび上がる。全身ではない。後頭部も空っぽのままだ。3月に米CNETのKaty Collins記者が公開した記事に登場したEricssonのホログラムのような、人体の部分的なスキャン映像をイメージしてもらうといい。リアルだが、不気味ではある。
「SharePlay」に対応したアプリでは、最大5人のペルソナ間でセッションをリアルタイムで共有できる。共有したアプリの空間全体が区切られた3D空間となる。この空間はドラッグして部屋の中の別の場所に再配置することも可能だ。その際は共有したアイテムや画面、相手のペルソナも動くが、自分の位置は変わらない。自分と相手との相対的な位置関係も合わせて変化する。
Appleには「フリーボード」という共同作業のためのアプリがある。仮想のホワイトボードのようなものだ。Vision Proの発表時は特に興味をそそられなかったこのアプリが、今はがぜん熱い。筆者はフリーボードを利用して、Norm氏とリアルタイムで一緒に絵を描いた。このアプリを使ったブレインストーミングは盛り上がりそうだ。いずれは、この技術を利用したコラボレーションアートやモデリングアプリが登場するかもしれない。ラグは感じなかった。
映画を一緒に見る体験も、予想外に良かった。以前、Vision Proを使ってSharePlay経由で映画を見たときは、一緒に映画を楽しんでいる感覚は持てなかった。しかし、今は仮想のシネマ空間が用意され、自分の隣に相手のペルソナが表示される。ペルソナは確かに幽霊のように見えるし、スクリーンに対する距離を全員が同程度に保たなければならないという制約もある。しかし、仲間と仮想空間で一緒に映画を見るという体験のリアリティはかなり高まったように思う。Metaのヘッドセット「Quest」にも「Bigscreen」のようなスクリーン共有機能があるが、Appleの場合は「visionOS」のマルチタスク機能を使って、映画を見ながら同時に他のアプリを開くことができる。不思議な感じだ。
一緒にチェスもプレイした。これは楽しかった。以前、FaceTimeを使って友人とApple Arcadeのゲーム「Game Room」で遊んだときは、友人のペルソナはディスプレイの小窓の中にいた。しかし、今回は互いのペルソナが手の届く距離に表示され、チェスの駒を持つことさえできる。立ち上がってテーブルの周りを歩き回り、次の一手を考えることも可能だ。
仕事部屋では、Chan氏が作ったという3Dモデルも見せてもらった。「スタートレック」や「マンダロリアン」のキャラクターを模したもので、見事な出来映えだった。子供時代に戻って、おもちゃを見せ合っているような気分だ。
時間は溶け、現実と空間の感覚がなくなっていった。短い間だったが、散らかった2階の自分の部屋に友人が遊びにきたような気分だった。お開きの時間が来て、Chan氏は消えた。次は何が可能になるのだろう。共同作業、映画、アート、即興演奏――さまざまなアイデアが頭をかけめぐる。これはMetaのMark Zuckerberg氏が長年説いてきたテレプレゼンスのビジョンだ。このビジョンは、Vision Proではかなり現実味を帯びてきているが、問題はVision Proを持っている人がそもそも少ないことだ。しかし少数のオーナーたちにとって、Vision Proでの共同作業のリアリティがにわかに高まったことは間違いない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス