筆者にとって、2014年はそれほど昔のことではない。しかしテクノロジーの世界において10年はとても長い時間だ。筆者は当時も米CNETで記事を書いていたが、その頃スマートウォッチはまだ一般的ではなかったし、Facebook(現Meta)が「Oculus Rift」の発売に先立ちOculusを買収したこの年、完成した形で発売された仮想現実(VR)製品は、スマートフォンに接続して使用するプラスチック製ゴーグル「Samsung Gear VR」の開発者向けモデルだけだった。
VRは、2024年の今でもまだ大々的に普及しているわけでないが、当時の何倍も当たり前になっている。筆者は実際、「Oculus Quest 2」のヘッドセットをワークアウトやゲームに使っている家庭をたくさん知っている。今では、Appleまでが同社初のヘッドセットである「Vision Pro」でVRや複合現実(MR)について模索している。一方で、Metaの「Ray-Ban Metaスマートグラス」は、HumaneやBrilliant Labsなどのスタートアップが発売した一連のAIウェアラブルが同じような分野に参入してきたことで、それほど奇異なものには見えなくなった。Metaは4月中に、Ray-Ban Metaスマートグラスに独自のAI機能を追加する予定だ。
この記事では、過去を振り返り未来を展望するため、Metaの最高技術責任者(CTO)であるAndrew Bosworth氏に、Metaが今後「Oculus Quest 3」やAI、スマートグラス、ARグラスでどこに向かおうとしているのかについて話を聞いた。
MetaのQuestシリーズが成功する過程で起きた予想外の出来事の1つは、フィットネスが大きな役割を果たしたことだ。筆者自身、フィットネスはQuestを使う大きな目的の1つになっている。とはいえ、同社がフィットネスやゲームの分野に進出しただけではまだ十分ではない。Questシリーズのデバイスは数千万台も売れているとされるが、その数はFacebookの世界的な登録者数に比べれば微々たるものだ。Bosworth氏はQuestの魅力を掘り下げたいと思っており、そのためには新たな方向に製品を拡大することも考えられる。
「フィットネスは好きだ。この市場は、そうでもなければQuestやこれに似たデバイスなど使わない人たちからなる市場の絶好の例だと言える」とBosworth氏は言う。「しかし私たちは今、どうすればもっと幅広いデバイスのエコシステムをサポートできるのか、それはどんなエコシステムになるのか、といったことを考えている」
Metaの次の一手はフィットネスに特化したヘッドセットになるのだろうか。Bosworth氏は、フィットネスがQuestシリーズの人気に大きな影響を与えており、AppleのVision Proをはじめとする他のデバイスに対する、大きなアドバンテージになっているという意見に同意した。同氏は、よりフィットネスに特化したデバイスについても考えているが、そこにはトレードオフが生じるかもしれないと述べた。
「それでエルゴノミクスを改善できるだろうか?もしフィットネス向けのハードウェアを作るのであれば、バッテリーの持続時間とのトレードオフになる。また、フィットネスで問題になるのはエルゴノミクスだけではなく、汗や汚れについても心配する必要がある。そのため、『自分はとにかく没入感のあるゲームがしたいんだ』という人向けのハードウェアとは、ほとんど共通点がないデバイスになってしまうだろう」
Questシリーズのラインナップには、すでに「Quest Pro」と、ミドルレンジの「Quest 3」、最近200ドル以下に値下げされた割安な「Quest 2」が存在する。フィットネスやゲームに特化した製品にもラインアップが広がれば魅力は増すだろう。Questのラインアップが将来その方向に進化する可能性はあるのだろうか。あるいは、周辺機器を通じてそうなることはあり得るのだろうか。
最も未来的な形態のMRデバイスは、コントローラーを完全に取り払ってしまい、その代わりにハンドトラッキング技術を利用するもので、例えばVision Proがそれに該当する。一方Metaは、ハンドトラッキングと物理的なコントローラーを併用できるようにしようとしている。しかしその先には、まったく新しいインターフェースの可能性が開けている。Metaが長年取り組んでいるリストバンドでの神経信号入力が、将来ARグラスの鍵となるコントローラーになる可能性もあるし、他の入力方法も考えられるかもしれない。
Bosworth氏は、Questについてはカスタマイズされたコントローラーが適していると考えているが、ARグラスの入力方法については、奇抜で大きな飛躍が必要になると述べた。「世界からの情報を頭の中に取り込む一番手っ取り早い方法は視覚を使うことだ。しかし、人間から機械にどうやって何かを伝えるかということになると難しい。一番速いのは話し言葉を使うことだが、話し言葉は周囲から目立つ上に、扱いにくく、他人から見ると変でもある。また、画面の操作にはまったく向いていない」と同氏は言う。
Bosworth氏は、AppleのVision Proで採用されているハンドトラッキングやアイトラッキングは多少は先行しているものの、将来のインターフェースがどんなものになるかはまだ分からないと述べた。同氏は、MetaのReality Labsで進めている研究について触れ、「神経入力インターフェースがいいのか、エアタイピングがいいのか、何か触れられるものをスワイプするのがいいのか、アイトラッキングと何かをタップする動作を組み合わせるのがいいのか。私たちはあらゆることを試している」と説明した。
「私たちは、まったく新しいアーキテクチャーについて議論している。Xerox PARC以来、私たちは本当に新しいアーキテクチャーを試してこなかった」と同氏は言う。Xerox PARCは、現代のコンピューティングを構成する基本的要素の1つである、デスクトップコンピューターのアイデアを考案した研究所だ。
Metaが取り組んでいるARグラスのコンセプトモデルについて尋ねると、「そう遠くない未来」にデモができるようになるだろうという返事が返ってきた。同氏は、多くの理由からまだ日常的な利用には耐えられないものの、そのARグラスは「本物のタイムマシン」になるだろうと意味深に語った。
「その理由の一部は、このARグラスがまだプロトタイプであり、消費者に提供できるようなコスト構造に至るまでの明確な道筋がまだないことだ」とBosworth氏は言う。同氏は、ディスプレイがコストとバッテリーの持続時間の点で特に大きな課題になっていると述べた。「私たちはあらゆる問題を十分に把握している。インターフェースや入力についての課題もある。私たちは大きく前進しているが、これらは長年の間業界全体が取り組んできた、最も難しい問題だと言わざるを得ない」
筆者はまた、MetaのRay-BanスマートグラスとQuestシリーズのデバイスが、現在のスマートウォッチとスマートフォンのように互いの機能を共有する可能性についても尋ねた。筆者がこの考えを思いついたのは、最近の休暇の様子をRay-Ban MetaスマートグラスとAppleの空間ビデオで記録していた時のことで、後者はQuestシリーズのヘッドセットでも再生できる。Bosworth氏は、筆者が2023年に取材した際、Ray-Banスマートグラスの最初のバージョンでは空間ビデオを念頭に2つのカメラを搭載する設計だったが、その後そのアイデアを断念したと話していた。一方で、Appleは空間ビデオを前面に押し出すことを選択した。
Bosworth氏は、今後のモデルで同社のスマートグラスに空間ビデオを撮影する能力を復活させる可能性はあるが、スマートグラスとQuestのヘッドセットで共有できる他の機能をすぐに思いつくことはできないようだった。むしろ同氏は、ARグラスやスマートグラスから、ヘッドセットやスマートグラスを1つも持っていない人たちと情報を共有する手段の改善に力を入れているという。
「(新しい)Ray-Ban Metaスマートグラスは、1つの1200万画素カメラを中心として最適化されている」と同氏は言う。「現状ではステレオカメラもステレオオーバーラップもない。もちろん、いずれはこれも変更されるかもしれない。しかし重要なのは、デジタル写真が私たちの生活の重要な位置を占めるようになった一番の理由は、写真を共有できるようになったことだということだ。確かにノスタルジーや記憶の再体験には力がある。しかし私は、一番大事なのは『相手に同じことを体験してほしい』ということで、それに比べれば2次的な話だと考えている」
2023年秋に新型が発売されたRay-Ban Metaスマートグラスには、5月に生成AIの機能が導入される。筆者は2024年に入ってから、早期アクセスの形で生活の中でそれらの機能の一部を使ってきた。その内蔵カメラで実世界のものを認識している様子は、今後同じことができるウェアラブルが増え、いずれはARグラスでも同じことができるようになる兆しそのものだ。
「昨年の今頃はまだ、Ray-BanスマートグラスにAIを搭載する予定はなかった」とBosworth氏は言う。これらのAI機能は、Ray-Ban MetaスマートグラスがHumaneの「Ai Pin」や「rabbit r1」などの新たに登場しつつあるAI搭載ウェアラブルと戦うための、最大の特徴になるだろう。
AIを搭載したスマートグラスやウェアラブルは次の大きな流行になりそうだが、Bosworth氏は、もう1つ、生成AIがQuestデバイスで果たすことになるかもしれない大きな役割があると指摘した。それは、AIを使えば、ゲーマーやクリエイターがより簡単に3Dアセットを構築できるようになるということだ。「実は、没入型空間の分野で生成AIに大いに期待できることの1つに、クリエイターにとってのメリットがある」と同氏は言う。「私たちは、誰でも自慢のスペースを作り、友人を招待したり、集まったりできるようにすることを目指している」
例えば、Metaの「Horizon Worlds」などのメタバースにおけるものづくりの課題は、Robloxなどのゲーム会社がすでに模索しているように、最終的に生成AIで解決できると考えているという。Bosworth氏は、「生成AIに『ミッドセンチュリーモダンでガラス張りの家を作り、ガラスの壁越しに山並みが見えるようにしたい』と頼んでもいい。こういう仕事にかけては、生成AIはかなり信頼できる。私たちは、こうしたツールに非常に期待している」と述べた。同氏は、生成AIはプロのクリエイターにとっても大きな可能性があると考えており、その一例として、ゲーム内に登場する、AIを使ってやりとりできる高度なNPCを例に挙げた。
Qualcommの2023年の発表によれば、MetaのQuest 3に搭載されている最新のチップセットは、これまでよりも奥深いAI機能に対応する可能性があるという。Metaは、比較的近いうちに、そうしたアイデアのいくつかを実現しそうだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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