身に着けるAIデバイス「Ai Pin」のデモに衝撃--垣間見るスマホのない未来

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2024年03月06日 07時30分

 今、この時代に、私たちが再びスマートフォンのない世界で暮らす未来は想像しがたい。それでも、テクノロジー業界の一部の人は、生活にすっかり浸透したスマートフォンの画面を終始眺めるようなことは、いずれなくなるかもしれないと考えている。

ジャケットに付けられたAi Pin
提供:Andrew Lanxon/CNET

 近年の人工知能(AI)の進歩により、スマートフォンの機能の一部を提供する新種の小型デバイスが登場し始めている。それらの主な目的は、パーソナルアシスタントの役割を果たすことであり、デバイス自体はユーザーの手のひらに収まり、コートの襟などに装着できたりする。先頃バルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)で、筆者はHumaneの「Ai Pin」の実物を初めて目にすることができた。Ai Pinは、ディスプレイを介さずにAIを利用する未来を目指す、2人の元Apple従業員によって設計されたデバイスだ。

 Humaneは2023年11月にAi Pinを発表した。米国では、現在、699ドル(約10万5000円)で予約注文の受付が開始されている(米国外でも発売予定)。ユーザーは、本体価格に加えて、インターネット接続、安全なデータストレージ、HumaneのAIサービスの利用をカバーする月額24ドル(約3600円)のサブスクリプション料金も支払う必要がある。

 Ai Pinは、小型で目立たない、丸みを帯びた四角形のコンピューターで、マグネットによって服などに固定できる。主に音声を使って操作するが、前面のタッチパッドでのジェスチャーにも対応する。ユーザーがスマートフォンの画面で起きていることに気を取られる代わりに、今のその瞬間を大切にしながら、いつでも利用可能な専門アシスタントに疑問や要求に答えてもらえるようにすることが、Ai Pinの狙いだ。Humaneの最高経営責任者(CEO)で、共同創設者でもあるBethany Bongiorno氏は、「Ai Pinの目的として非常に重要なのは、今この瞬間をもっと大切に生きようとすることだ」と語った。

 Bongiorno氏は、個人で使っているAi Pinを使用してその機能のデモを披露し、ウェイクワードではなくタッチで起動するAi Pinが、ドルからユーロへの換算などの簡単な質問に即座に答えられることを示した。さらに印象的だったのは、翻訳機能だ。同氏はその機能を使って、現地のカフェのおすすめを英語で尋ねると、その質問がカタルーニャ語に翻訳された(Ai Pinは合計で50の言語を理解し、話すことができる)。Bongiorno氏がバルセロナに到着すると、Ai Pinは現在地を正確に認識し、現地の言語を話す設定に自動的に切り替わったという。誰かが現地語以外の言葉で話しかけてきても、Ai Pinはそれを認識して、自動的に切り替わるようになっている。

 Ai Pinの概ねミニマリスト的な外観に関して注目すべきなのは、タッチパッドの上に配置されているモジュールだ。デバイスが使用中であることを示すLEDライトとカメラ、そして、少し意外なことに、レーザーを備えている。このレーザーは、Humaneが「Laser Ink」と呼ぶ技術を使用して、画像やテキストをユーザーの手に投影することができる。

 Bongiorno氏はカメラを使って筆者の写真を撮影し、自身の手のひらに投影した。レーザーは、空中で指を使ってするジェスチャーを認識することもできる。同氏は、この機能を使って、手のひらに投影された情報をスワイプやピンチで操作した。「Ai Pinに話しかけたくないときや、話しかけられない状況にいるときもあるので、この機能は非常に重要だった」(Bongiorno氏)

 この体験は、筆者が今回のMWCで見た衝撃的なテクノロジーデモの1つであり、HumaneのAi Pinが、AIチャットボットの単なるウェアラブル版にとどまらない製品であることを示していた。Ai Pinは、さまざまな機能が搭載された超小型のデバイスであり、内部には見かけよりも多くの技術が詰め込まれている。筆者は何年も前からスマートフォンを持たずに家を出たことがないので、Ai Pinだけを携帯して、どのように外の世界を出歩いたり、目的の店まで行ったりするのか、ということに興味がある。

 Ai Pinには、それぞれ独自の電話番号が設定されるので、完全にスタンドアロンのデバイスだ。つまり、スマートフォンとペアリングする必要がない。単体で電話をかけたり、メッセージを送信したりできるだけでなく、AIを使ってメッセージを作成することもできる。さらに、受信したメッセージをまとめる機能もあるので、グループチャットが急に活発になったときに、見逃した流れの概要を簡単に把握できる。Bongiorno氏によると、現時点ではSMSに対応しているが、「WhatsApp」やその他のメッセージサービスにも将来的に対応する予定だという。

 他のサービスとの連携についても、同じだ。現在のところ、Humaneの音楽ストリーミングパートナーは「TIDAL」だが、さらに多くのサービスとの連携が予定されている。Bongiorno氏は、The Beatlesを例にとって、スマートスピーカーに指示を伝えるのと同じ方法で、Ai Pinに音楽を再生させる機能を披露した。Ai Pinに、プレイリストを作成してほしいと伝えたり、楽曲の再生中に楽曲やアーティストに関する質問をしたりすることもできる。Ai Pinは、Bluetoothヘッドホンや自動車のスピーカーとペアリングでき、完全にハンズフリーで、スマートフォン不要の音楽体験を実現する。

 多数のアクセサリーが用意されているので、さまざまな状況で装着することが可能だ。例えば、バッグのストラップ用クリップ、見た目の変化と本体保護のためのシールド(スマートフォンのケースのような役割だ)、エクササイズのときに着るような緩く軽い衣服用の留め具などがある。同梱品として、充電ケースとバッテリーブースターがあり、バッテリーブースターはAi Pinを衣服に固定する背面側のマグネットとしても機能する。Bongiorno氏によると、前面ユニットのバッテリーは約5時間持続するが、ブースターを付ければ、毎日午後4時ごろまで持続するという。その時点で、同氏はブースターを予備のものと交換するという。これで、夜の間にバッテリーが切れることはないだろう。

 Humaneはテクノロジー分野でまだ新しい企業であり、Ai Pinにはまだ証明すべきことがたくさんある。Bongiorno氏は早期のデモで、過去に見たことのないものを見せてくれたが、筆者は、Ai Pinがより幅広いユーザー層にどのように受け止められるのだろうか、という疑問も抱いた。もちろん、Ai Pinは万人向けの製品ではない。多くの人は、価格だけで購入対象から外れるだろうし、プライバシーを懸念する人もいるかもしれない。

 Bongiorno氏は筆者に対し、Humaneはプライバシーを優先事項として扱っており、カメラが使用中であることを示すLEDインジケーターを追加したほか、デバイスが常に聞き取る状態にならないように、ウェイクワードを使用しないことにしたと語った。ユーザーは、専用のウェブページを通して、暗号化された自身のデータをいつでも確認したり、削除したりできる。

 突き詰めると、Ai PinはAI革命の到来を受けて開発された第1世代の製品であるため、多くの点で、勇敢な新しい世界への第一歩にすぎない。筆者のようなドゥームスクローラー(オンラインでネガティブなニュースを延々と追ってしまう人)が待ち望んでいる、スマートフォンからの脱却にはならないかもしれないが、未来を一足先に垣間見させてくれそうな製品だ。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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