「iPhone」で見た不完全な「ホログラム」のインパクト

Katie Collins (CNET News) 翻訳校正: 編集部2024年03月28日 07時30分

 地球の裏側にいる友人や家族と気軽に、しかもわずかなコストでビデオ通話ができるなど、少し前には思いもしなかった。しかし、今では日常的な光景だ。次は、遠くにいる人のホログラムを目の前に呼び出す技術が登場し、ビデオ通話を新たな次元に押し上げることになるかもしれない。

ホログラムによる会話の様子
提供:Katie Collins/CNET

 ホログラム、そしてその映像を時空を超えて投影する技術はすでに存在するが、たいていは高額な装置が必要だ。価格の面で手が出ないだけでなく、大きくかさばるので所有欲もそそられない。しかし2月、筆者はバルセロナで開催されたモバイル見本市「Mobile World Congress(MWC)」の会場で、こうした装置を一切使うことなく、ホログラムによるビデオ通話を実現する新たな技術に出会った。元になっているのは、通信機器メーカーEricssonの研究だ。

 筆者から数メートル離れた場所に、Ericsson Holographic Communicationの共同創業者で最高技術責任者(CTO)のNatalya Tyudina氏が立っている。その前にはiPhoneのカメラがあり、同氏の顔にレンズを向けている。筆者はTyudina氏に背を向けていたが、筆者の手元のiPhoneにはTyudina氏の頭部と肩全体がフル3D映像で映し出されていた。次はiPhoneの代わりにXrealの拡張現実(AR)グラスをかけ、さまざまな角度からTyudina氏の映像を眺めた。その間もずっと、同氏はその場を動かず、筆者の驚いた顔を笑いながら見ていた。

 筆者は「FaceTime」や「Zoom」の会議と同じように、映し出されたTyudina氏と言葉を交わした。

 Tyudina氏のチームは、iPhoneのカメラ、そしてiPhoneが「Face ID」に使用しているものと同じ深度センサーを使ってTyudina氏をスキャンし、約100万個の3Dデータポイントをもとに同氏の頭部と肩の3D映像を筆者のiPhoneに映し出した。この技術は4年前のハッカソンで始まったプロジェクトから生まれたもので、今は規模を拡大し、Ericssonの社内技術インキュベーションプログラム「Ericsson One」の成功事例となっている。

 チームはAR関連のプロジェクトの一環として、離れた場所にいる人のバーチャル映像を会議室に映し出す実験に取り組んでいる。「『Teams』やZoomの小さな画面を見ているより、目の前に等身大の人間を映し出した方がずっといいことに気付いた」とTyudina氏は言う。そこでチームは3D技術を取り入れ、ホログラムをネットワーク上で伝送するための圧縮技術の開発に乗り出した。

 Ericssonもホログラムの可能性に注目している。ホログラムは、Ericssonが構築している先進的な5Gネットワーク機能に大きく依存しており、親しい人とのコミュニケーションを大きく変える可能性を秘めている。「この技術はあって当たり前のもの、生活の一部となるだろう」とEricssonの最高技術責任者(CTO)、Erik Ekudden氏は言う。「これはニッチな技術ではない」

 人間を(時には上半身だけの)絵文字のようなアバターで表現していた初期のメタバースのビジョンと異なり、ホログラムは人間をフォトリアルな3D映像として表現する。この映像は明らかに本人であって、マンガ風の似顔絵ではない。そのため、細かな表情や目の動きも伝えられる。

 筆者は、人々が現実世界を離れ、どこか別の場所にある仮想空間に集い、友人や同僚と交流するというメタバース的な技術が大人気を博し、普及するという主張には今も懐疑的だ。しかし、筆者の家族や友人、同僚は世界中に散らばっているので、現実世界にいたまま、離れた場所にいる人と密接に交流できる方法があるなら、大いに興味をそそられる。

ホログラムの限界

 映し出されたTyudina氏の周りを歩いていると、横顔は鮮明だが、後頭部に近づくにつれて映像が崩れ、髪があるはずの部分はスカスカになっていることに気付く。これが現在の技術の限界だ。Tyudina氏は、カメラとAI技術が進歩すれば、こうした空白も埋められるようになると断言する。

映像の一部が崩れている様子
提供:Katie Collins/CNET

 Ekudden氏は、ホログラムが普及するためには他の技術分野での進歩が必要だと強調する。ホログラフィック通信のビットレートは、標準的なビデオの10倍近い。つまり、ホログラフィック通信を実現するためには低遅延の5Gネットワークは必須であり、広く展開するとなると、増大する負荷に対応できるだけの処理能力も必要だ。

 ホログラムを普及させるためには、この技術に対する消費者の信頼を高めることも欠かせないとEkudden氏は言う。「これは一朝一夕にはいかない。啓発活動や社会化のプロセスが必要だ」と同氏は述べる。

 筆者も見たように、ホログラムの技術はすでに実用段階にあるが、広く普及するまでには最低5年はかかるとTyudina氏は見ている。多くの技術と同様に、ホログラムもまずは産業界に導入されるだろう。Ericssonはすでに、送電線の遠隔検査にホログラムを活用する可能性に言及している。その後、ある程度価格が下がったら社会全体への普及が始まる。

 コロナ危機は、対話が求められる仕事を遠隔でこなすには、ビデオには限界があることを教えてくれたとEkudden氏は言う。ホログラムがあれば、はるかに没入感の高い方法で交流できると同氏は語る。この技術はエンターテインメントの分野にも広がっており、Ekudden氏によれば、いずれは音楽やスポーツのイベントにも遠隔で立ち会えるようになるという。

 ショッピングのデモでは、Tyudina氏は気になる商品をホログラムで確認する方法を教えてくれた。例えば靴を買いたいなら、ジェスチャー操作で靴を引き寄せて細部を確認したり、向きを変えて、さまざまな角度から眺めたりすることが可能だという。

 しかしTyudina氏がホログラムに最も期待しているのは、日々のコミュニケーションに与える影響だ。「この技術を使って、離れた場所で暮らしているきょうだいや両親と、まるで直接会っているかのように交流したい」と同氏は言う。

 海外で暮らす姪や甥のことを考えると、筆者もTyudina氏の意見に同意せずにはいられない。姪や甥が遊んでいる部屋に一緒にいられれば、はるかに楽しい時間を共有できるはずだ。姪や甥にARグラスをかけてもらうのはまだ難しいかもしれないが、これは将来の楽しみにとっておくとしよう。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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