大規模な通信障害が露わにした現代のスマホ依存生活

David Lumb (CNET News) 翻訳校正: 編集部2024年03月26日 07時30分

 2月、筆者は通信会社のサポート窓口に電話をかけ、担当者と話をした。この通信会社のストアで買った新しい「iPhone」を返品するためだ。新しい端末が手に入るまでは、別の端末でしのがなければならない。筆者は、町の反対側にある実家に予備のスマートフォンを置いていたので、通信会社との契約を解除し、通話を終えると、車で30分の場所にある実家へ向かった。

へき地でスマートフォンを持つ人
提供:lechatnoir/Getty Images

 モバイル通信の手段を完全に失ったのは、大学以来のことだ。いま事故にあったり、道に迷ったりしても、自力で何とかしなければならない。それどころか、実家に向かっていることを父にメールで伝えることさえできない。スマートフォンへの依存心が頭をもたげた。世界と自分をつなぐ命綱がポケットの中にないことに呆然とし、孤独を感じた。

 このときの筆者と同じ思いを、2月22日木曜日には大勢の米国人が経験することになった。通信大手AT&Tのモバイルネットワークで突然、通信障害が発生したのだ。数時間後にはサービスは復旧し、AT&Tは「ネットワークの拡張作業中に誤ったプロセスを適用し、実行したことが原因であり、サイバー攻撃ではない」と説明した。

 通信障害が起きている間、AT&Tは影響を受けた顧客に対し、スマートフォンを使う必要がある場合はWi-Fi回線を使うよう案内した。移動する必要がなく、SMSのような携帯回線専用のサービスも使わないなら、Wi-Fi回線は代替手段になる。しかし、その他大勢の人、例えば車で通勤しなければならない人、家やオフィスから出なければならない人は、現代の生活があらゆる面でスマートフォンを介するようになっていることを思い知らされた。

 これは明白な事実であり、説明の必要さえないだろう。ドライブ中に電波が届かない地域に入ると、地図アプリでGPSルートを変更したり、新しい曲をストリーミング再生したりできなくなる。充電を忘れ、夜中にスマートフォンの電池が切れたときも同じだ。いらだちはするが、ずっと続くわけではない。しかし通信障害が発生し、復旧のめどもたたないとなると、たえず最新の情報が入ること、常にインターネットに接続できることが日常生活の前提になっていたことに気付く。

 仕事を例にとろう。現代の労働者のスマートフォンにはメールアプリや「Slack」のような職場用メッセージングアプリが入っているため、良くも悪くも常に連絡がつくと思われている。連絡に応じなければ、たとえそれが不測の事態によるものであっても、不利益を被ることになりかねない。ニュースなどの最新情報にアクセスできなくなると、業界によっては(例えば報道関係など)仕事の継続自体が不可能になる。

 家庭でも同様だ。子供をスポーツの練習や塾に送迎し、夕食を準備し、スケジュール通りに行動するためには継続的なコミュニケーションが欠かせない。情報が途絶えると人々は怒り出し、親は最悪の事態を恐れる。

 出先で通信障害が起きたときは、状況を判断して、対応の優先順位をつけることさえできなくなる。誰もが通信できないのか、自分だけなのか。問題は自分のデバイスなのか、ソフトウェアなのか、それともネットワークなのか。

 つまりスマートフォンの登場によって、私たちは無意識のうちに、たえず流れ込んでくる情報をもとに分刻みで軌道を修正するようになった。スピードを重視し、生産性を追い求める文化では、人々は次の会議が延期になると聞けば、1本でも多くのメールを送り、1つでも多くのタスクをこなそうとする。夜に会う約束をしていた友人からキャンセルの連絡が入れば、すぐに次の知り合いに連絡を取るか、予定を変更して、ためていた雑用を片付ける時間にする。

 しかし情報の更新と流入が突然に途絶えると、スマートフォンが登場する前の行動に戻らざるをえない。つまり、不十分な情報に基づいて推論し、行動する。GPSがあること、最新のニュースにいつでもアクセスできることに安心感を覚える人にとっては、惨事とまではいかなくとも、落ち着かない状況だろう。

iPhoneの緊急SOSを使う様子
提供:Kevin Heinz/CNET

 これはオンラインであることが当たり前になった時代の特徴であって、バグではない。過去数十年間の電話サービスがしょっちゅうネットワーク障害に見舞われていたことを考えれば、現代のネットワーク障害の少なさは驚くほどだ。ネット上のネガティブな情報ばかりを追いかけ、「TikTok」や「Instagram」を見続けるのは自制すべきだが、調べものからショッピング、道案内まで、あらゆることをインターネットで済ませられるようになった結果、私たちはオンラインサービスを外界と自分をつなぐ「へその緒」のように扱うようになった。

 AT&Tで起きた通信障害と、それによって露呈した現代人のスマートフォン依存は、少なくとも代替の通信手段はまだ存在することを思い出させてくれた。図書館や近所のカフェが提供しているWi-Fi回線を使ってメールやSMS以外のメッセージングサービスにアクセスするといった簡単な方法でも、通信障害が起きていることを上司や家族に伝えられる。固定電話を借りて(障害の影響を受けていないエリアの)友人や同僚に電話をかけ、自分の代わりにインターネットにアクセスし、通信会社で何が起きているのか、問題は他の地域でも起きているのかを調べてもらうこともできる。

 最近は誰もがGPSに目的地を入力し、行き方を手取り足取り教えてもらうようになっているので、スマートフォンで「Googleマップ」が使えるようになる前はどうしていたのかをなかなか思い出せないかもしれない。しかし、老舗のオンライン地図サービスをWi-Fiでチェックして道順を書き留めるか、プリントアウトすることはできる。大きな書店が近くにあるなら、地図は今も売られているはずだ。通りすがりの親切な人に道をたずねてもいい(あるいは、その人のスマートフォンの地図アプリで調べてもらおう)。

 長時間の通信障害は緊急事態であるだけでなく、「X」(旧Twitter)やInstagram、「Reddit」といった、退屈を紛らわすために使っているサイトが見られない辛さもある。ここでも書店を訪れることくらいしか、お勧めできる解消方法はないが、この辛さは現代人がいかにソーシャルメディアにいりびたり、くだらないネットジョークにアクセスしているかを改めて教えてくれる。インターネットというライフラインを失い、静寂に包まれたときは、この貴重なオフラインの時間を完璧に捉えたミームを後でグループチャットに送れるようにブレインストーミングに励むとしよう。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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