AIロボットのマッサージがびっくりするほど良かった話

　マッサージベッドに横たわって、2本のロボットアームにもみほぐしてもらう経験は、そうできるものではない。しかし先日、筆者は身体にフィットするグレーの専用ウエアを着てベッドに横たわり、ドーナツ型のヘッドレストに顔を沈めて、人工知能（AI）を搭載したロボットに30分間マッサージしてもらう機会を得た。妙な気分だったが、意外なほどリラックスできた。

提供：Nina Raemont/ZDNET

　筆者をマッサージしてくれたのは、Aescapeのニューヨークオフィスにあるロボットだ。同社はこの「AIマッサージロボット」の可能性に賭けており、この春からニューヨークの高級ジム「Equinox」にロボットマッサージベッドを10台配置し、30分間のセッションを提供する。

　Aescapeの創業者で最高経営責任者（CEO）を務めるEric Litman氏は、椎間板の膨張から来る慢性的な痛みと長年闘っていた。首も回せないほどの痛みを何とかしようと必死にマッサージセラピストを探したが、満足できるセラピストは見つからなかった。同氏が求めているのは、自分が指示した通りにマッサージをしてくれる人物だ。そこで同氏は7年をかけて、ロボットのマッサージセラピストを自ら開発した。

　Aescapeのマッサージベッドは、横たわったクライアントの身体をAIを使ってスキャンし、生成したデータをもとにマッサージを行う。100万カ所以上の3Dデータポイントを記録し、ベッド上の身体の位置と解剖学上の要所をマッピングする。同じクライアントが次に来たときにマッサージをカスタマイズし、個別のニーズに応えられるようにデータは記録される。機械学習によってマッサージベッドのAIはさらに賢くなり、すべてのクライアントの身体データを集約することで効果的かつ合理的な施術を行う。

　マッサージベッドの開発にあたっては、多くのマッサージセラピストたちの協力を得て、人間の技術の再現に努めた。怖いと思う人もいるだろう。筆者もマッサージ中にロボットアームが暴走し、誤って骨を折られるかもしれないと不安だった。しかし、心配は無用だ。「ロボットアームはマッサージに適した強度しか出せない。それ以上の力はない。しかし身体をモデリングすることで、セラピストよりもずっと正確な施術ができる」と、Litman氏は言う。

　Aescapeの広報担当者のMolly O’Connor氏は、「あらかじめ用意されたセラピープログラムから選ぶだけでなく、自分の感覚に合わせてカスタマイズできる」と説明する。マッサージベッドには、アクティビティ別のマッサージプログラムも用意される予定だ。例えば腸脛靱帯をほぐしたいランナー、長時間のデスクワークでこりかたまった背中や肩の緊張を和らげたいデジタルワーカー向けのセッションが考えられるとO’Connor氏は言う。

　Aescapeが（ユーザーによる入力や調整に頼っているという意味で）半自律式のマッサージベッドを展開している背景には、マッサージセラピー業界の盛り上がりがある。米国労働統計局によると、2022年から2032年の間にマッサージセラピストの雇用は18％拡大するとみられており、この分野では今後、人（またはAIロボット）の雇用と機会が増えることが見込まれている。

　ロボットのマッサージを受ける場合は必ずAescapeの「Aerwear」を着用する。このグレーの上下を着ることで、オイルを使わなくても、着衣のままでロボットアームによる摩擦なしの滑らかなマッサージが受けられる。Aerwearは身体をスキャンする知覚センサーとも連動する。マッサージベッドの足置きやヘッドレスト、マッサージの強さ、施術中に流れる音楽やスクリーンセーバーもクライアント自身が調整できる。調整が終わると2本のマッサージアームが動き出し、人間の身体をもんだり、伸ばしたり、動かしたりする。

提供：Nina Raemont/ZDNET

　筆者が受けたセッションでは、ロボットは背中の上部、肩、背骨、腰、臀部をマッサージしてくれた。圧力レベルをカスタマイズするのは楽しく、主導権は自分にあると感じられた。人間のマッサージセラピストによるセッションでは、こうはいかない。一瞬、力が強すぎると感じたことがあったが、すぐに力の強さは調整できること、自分好みの条件でマッサージを受けられることを思い出した。

　「（ロボットの動作の）安全性、正確性、視覚システムの安定性、そして人間の嗜好を知る方法については多くの議論と努力を重ねてきた」とLitman氏は言う。

　特定の場所をピンポイントでマッサージするのは、このロボットが得意とすることではない。マシンの「手」に相当するヒーテッドエアポイントには7つの面があり、セラピストの手のひら、前腕、ひじの役割を果たす。しかし、人間の指を再現するには大きすぎるため、細かい部分のコリは解消されなかった。指というより、2つの温かいこぶしを押しつけられているように感じる。ロボットマッサージは、こうした細部の取り回しの悪さを全体的なリラックス体験で補う。

　ロボットのマッサージを受けながら、筆者はマッサージのために服を脱いだり、知らない人に身体を触られたりするのが苦手だという友人や知人のことを思い出した。このタイプの人々にとっては、ロボットマッサージは良い選択肢になるかもしれない。このことはAescapeの調査でも裏付けられている。同社の調査によれば、知らない人に触られるのが嫌なのでマッサージを受けたことがないと回答した米国人は1000万人に上った。

　Aescapeのマッサージベッドは、Equinoxが運営するニューヨーク市内のジムで利用できる。Equinoxの会員である必要はない。各ジムでAescapeマッサージベッドを予約すると、無料のワンデーパスがもらえる。マッサージの料金は30分60ドル（約9100円）から。場所や特典によって料金が変わる。

　「（Aescapeは）最新のテクノロジーを使って体型の維持や健康の増進に励んでいるEquinox会員にぴったりだ」と、O'Connor氏はEquinoxとの提携について語った。Aescapeも高級ジムブランドEquinoxでマッサージベッドを展開することで差別化を図り、「共同イノベーション」を実現できると同氏は説明する。「米国にはテクノロジー、健康、あるいはその両方に熱心に取り組んでいる人が多い。こうした人たちが起点となって、ソーシャルプルーフ（社会的証明）と信頼性が形成される」とLitman氏は言う。

　今は奇妙に思えても、いずれはジムで一汗かいた後は、ロボットによるマッサージセッションを受けることが当たり前の日が来るかもしれない。