Appleが年1回実施するソフトウェアアップグレードは、テクノロジーの世界では大イベントだ。BloombergのMark Gurman記者が複数の記事で伝えたように、2024年にリリース予定の「iOS 18」には多くのAI機能が含まれるとみられているため、例年以上に注目が集まりそうだ。
Appleが新興技術の分野で一番乗りを果たすことはめったにない。例えば、Appleはまだ折りたたみスマートフォンを出しておらず、2024年には初の複合現実(MR)ヘッドセットを発売したものの、「Oculus Rift」の登場からは8年ほど後れを取っている。しかしiOS 18は、Appleが生成AIにどう対応しようとしているのかを垣間見る貴重な機会であり、このテクノロジーがすでに広い分野で多くの人の暮らしに影響を与えていることを浮き彫りにしている。
生成AIの登場がテクノロジー業界を揺るがせ、OpenAIのAIチャットボット「ChatGPT」の急成長に対抗する行動をGoogleやMicrosoftに起こさせたことは間違いない。Counterpoint Researchによると、2024年は生成AIスマートフォン、つまりAIモデルをネイティブに実行し、AIを使ってコンテンツを生成できるスマートフォンの出荷台数が1億台を超える見込みだという。McKinsey & Companyの調査によると、生成AIを活用しているのはスマートフォンだけではない。調査参加者の3分の1がこの技術をそれぞれの組織内でビジネス目的で定期的に使用していると回答した。
Appleはこれまで生成AIをめぐる競争から明確に距離を置いていた。しかしサムスンとGoogleがタッグを組み、「かこって検索(Circle to Search)」のようなAI機能をAndroidスマートフォンに搭載したことを受けて、iPhoneの次の一手への関心が高まっている。
Appleが新製品に関する情報を正式発表より前に語ったことはない。しかし、Appleの最高経営責任者(CEO)であるTim Cook氏は最近、生成AIに関して大きな計画があることをほのめかした。金融情報サイトの「Seeking Alpha」によると、Cook氏は直近の決算説明会で「生成AIとAIに関して、Appleには大きな機会があると考えている」と語ったという。
それがどのような形で実現するかはまだ分からない。しかし、来たるべき「iPhone 16」よりも刺激的なものになるという見立ては説得力がある。
Bloombergによると、2024年にリリース予定のiOS 18は、「iOS 17」よりもはるかに大規模なアップデートになる見込みだという。そのかなりの部分はAIに関するものだ。
Bloombergの記事は、iPhoneと「iPad」の次期ソフトウェアアップデートには多くのAI機能が盛り込まれ、ここ数年で最大規模になると示唆している。記事によれば、Appleのソフトウェアエンジニアリングチームは、iOS 18に向けて、できる限り多くのAI機能を開発するよう指示されているという。
AppleがiOS 18向けにどのような機能を開発しているのかは不明だ。しかしBloombergによれば、Appleは検索ツール「Spotlight」の強化や、「Apple Music」の自動生成プレイリストなど、複数の分野でAIの可能性を模索しているという。The InformationやBloombergは、Appleが「Siri」の強化に取り組んでいるとも伝えている。
サムスンやGoogleのスマートフォンにはすでに生成AIが搭載され始めている。こうした動きは、Appleの次の一手を知るヒントになるだろう。サムスンの「Galaxy S24」シリーズやGoogleの「Pixel 8」には、写真に映り込んだオブジェクトを消したり、移動させたりする機能があり、切り取られたスペースを埋めるために新たな風景を生成することもできる。また、「かこって検索」機能を使えば、画面上のほとんどのものを丸で囲むだけでGoogle検索が起動する。サムスンの新しいスマートフォンは、通話内容をリアルタイムで別の言語に翻訳することが可能だ。
Appleが同じようなアプローチを取る可能性はあるが、新しいソフトウェアが発表されるまで確かなことは分からない。
うわさや報道が事実なら、iPhone 16はiPhone 15のマイナーアップグレードとなりそうだ。だとすれば、iOS 18が2024年の最も重要なiPhone関連のアップデートになるという主張の信憑性は高まる。
Bloombergによると、予想される最大の変化は動画撮影専用のボタンが追加されることだ。TF International Securitiesのアナリスト、Ming-Chi Kuo氏によれば、「iPhone 16 Pro」にはテトラプリズム式望遠レンズが搭載される可能性があるという(現在、このレンズは大型の「iPhone 15 Pro Max」にのみ搭載されている)。MacRumorsによると、次期iPhoneには新しいプロセッサーが搭載される可能性が高く、アナリストのJeff Pu氏は4モデルのすべてに新しい「A18」チップが搭載されると予測している。MacRumors の別の記事によると、iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxでは、画面がわずかに大きくなる可能性があるという。
こうした変化は比較的マイナーなものに思える。これは、2023年にBloombergのGurman氏が述べていた内容、つまり2024年はiPhoneのハードウェアに大きな進化はないという発言と一致する。
これは、AI機能の強化が期待されるiOS 18が、iPhone 16よりも刺激的な変化をもたらすと考える十分な根拠となるだろう。しかし、ソフトウェアとハードウェアの役割には、さらに重要な論点がある。ソフトウェアとハードウェアが相互依存関係にあることは間違いないが、人々がスマートフォンを使う際にまず問題になるのはソフトウェアだ。
ソフトウェア面の大きな変化は、良くも悪くもスマートフォンの使い方を大きく変える可能性がある。思い出してほしい。「iOS 15」では初めて「Safari」の検索バーを移動できるようになった。iOS 16ではロック画面のカスタマイズが可能になった。どちらも小さな変化に思えるが、スマートフォンの使い方に大きな影響を与える可能性を秘めている。
Appleは新しいiPhoneソフトウェアをリリースする際、古いiPhoneでも使えるようにすることが多い。つまり、iOS 18の新機能はiPhone 16に搭載されるどの新技術よりも多くのユーザーに使われることになる(ただし新しいAI機能の一部は、高度なオンデバイス処理ができる新チップを必要とするため、iPhone 16でしか使えない可能性が高い)。
いずれにしても、筆者がAppleのAI計画に興味を持っているのは、それが人間とスマートフォンの関係を変える可能性があるからだ。筆者は1月に「Galaxy S24 Ultra」をレビューした際、カメラの改良やディスプレイの明るさの向上、デザインの改善といったレベルの変化にとどまらない、真に大きな変化を久しぶりに体験できたと感じた。
そのときのレビューでは、普段のスマートフォンのレビューとは異なり、外国語で電話をかけたり、テキストメッセージを翻訳したり、「Instagram」のフィードでおいしそうな料理を囲んでGoogleでレシピを検索したりした。どれもスマートフォンでは、あまりしたことのなかったものだ。
サムスンやGoogleが提供しているAI機能が、最新モデルへの買い換えを納得させるほど画期的だと言っているわけではない。しかしこれまでのところ、スマートフォンは非常に興味深い方向へ進化しつつあり、いずれは現在よりもインテリジェントなインターフェースが実現するかもしれない。そしてiOS 18は、こうした変化がiPhoneの世界ではどのような形をとるのかを垣間見る、格好の機会となる可能性がある。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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