DJIが2024年1月にグローバル展開を正式発表し、日本でも話題の物流ドローン「FlyCart 30」。本誌CNET Japanは、埼玉県春日部市にある未来型総合農業&ロボティクス研究所「春日部みどりのPARK」を訪問して、同機デモフライトの単独取材を行った。
デモフライトは、いずれも同施設を活動拠点とする、DJI正規代理店であるセキドと、無人航空機操縦者技能証明講習の国内最大規模の登録講習機関であるJULC(日本無人航空機免許センター)が担当した。本稿では、DJI FlyCart 30をはじめ、同施設で出会った最新テクノロジーについてもご紹介する。
DJIが物流ドローンのFlyCart 30をリリースしたのは、2023年夏。デュアルバッテリーモードで最大積載量30kgというパワフルな機体で、林業、建設業などへの活用が思い浮かぶ。
日本国内では、苗木や建設資材といった重量物を運搬する際、特に足場が悪く険しいところや、急な斜面、長い道のりの現場において、運搬作業をドローンで代替しようという動きがすでにある。
過去に聞いた「1度に30kgは運びたい」という声を思い出し、ペイロードはもとより、最大重量積載時の飛行距離16kmや、標高の高い山にも対応した最大飛行高度6000m(ペイロードなし)、機体のIP55保護等級といった公表値には期待が高まった。
まず驚いたのは、静音性だ。機体サイズは、アーム&プロペラ展開時で高さ947mm×幅3085mm×奥行き2800mmという大型機種。バッテリーを2個搭載すると機体重量は約65kgになるが、プロペラ音は思ったよりも低音で穏やかに感じられた。モーターのKV値は48rpm/Vだ。
4軸アームの上下に合計8枚あるプロペラには炭素繊維複合材が使用されており、強度も相当あるという。
FlyCart 30は、従来のマルチコプターと比べると非常に大型だ。障害物検知や、緊急事態に備えたパラシュートなど、安全性を高める機能があることは、とても心強く感じた。
具体的には、機体前方上部と後方下部に「アクティブ フェーズドアレイ レーダー」、また前方に「両眼ビジョンシステム」を搭載。360度多方向に障害物を検知するとともに、障害物回避もできるという。
冗長化のひとつとして装備されたパラシュートは、機体上面後方に、2本のバッテリーに挟まれるような形で搭載されていた。自動開傘のアルゴリズムは非公開であるものの、姿勢制御不可、電源供給の喪失といった緊急事態に作動する仕組みだそうで、パイロットの遠隔操作による開傘も可能だという。
使用シーンに合わせ、バッテリーはシングルモードとデュアルモードを選べるのも嬉しい。バッテリー1本で重量約11kgもあるため、最大積載重量はデュアルモードだと30kg、シングルモードを選べば40kgに増える。逆に、飛行距離や時間を伸ばしたいなら、デュアルモードを選ぶのがおすすめだ。
また、デュアルバッテリーで飛行中、万が一片方が故障した場合でも、もう一方のバッテリーで飛行を継続できる。ここでも堅実な冗長化が図られている。
ちなみに、シングルモードで使用したい場合には、操作画面で「ワンバッテリーモード」を選択しておけば、どちら側にバッテリーがセットされているかを自動的に認識し、機体の重心制御まで自動で行ってくれるという優れものだ。人的ミスの未然防止に役立ちそうだ。
さらに驚いたのは、荷物を搭載する貨物ケースの重量バランスも、リアルタイムにセンシングして機体を制御するという点だ。貨物ケースの四隅を機体に吊り下げる構造で、ここの四隅に重量センサーが搭載され、飛行中は操作画面でモニタリングもできるという。物流ドローンならではの安全性への細やかな配慮がうかがえる。
しかし、実際の現場として山奥を想定すると、離着陸地点に平らな場所を確保できないのが常だろう。また、貨物ケースは最大容量70Lあるものの、現場で運搬するものの形や大きさはさまざま。一定サイズの箱には入りきらない可能性が高い。そこで活躍しそうなのが、別売のウィンチシステムだ。
機体にウィンチシステムを取り付ければ、荷物を吊り下げて運搬し、上空からケーブルを伸ばして、着陸することなく荷物を地上まで届けることができるのだが、「フック部分に電子制御は一切使われていない」という。
ウィンチに荷物を吊り下げるためのフックをかける作業は、本当に一瞬だった。機体を上空でホバリングさせたまま、地上から荷物を取り付ける様子を見せてもらった。
地上から荷物を取り付けるところ
このウィンチの「機能美」がすごい。荷物を取り付け後は、安全のためウィンチに手動でロックをかけるが、ケーブルを巻き上げてウィンチが機体に収まると、自動的にロックが解除される構造になっているのだ。
ウィンチは、荷物を吊り下げてテンションがかかっている状態であれば、ロックが解除されていても、フックを開くことはないという。荷物が地上に到達してテンションが緩むと、フックが物理的に開放されて、荷物だけが切り離されるという仕組みだ。
同席したドローンソリューションプロバイダーであるアイ・ロボティクスの我田友史氏も、「本当によく考えられている」と感嘆のため息をもらしていた。
ウィンチの構造説明
さらには、例えば建設現場での運搬シーンを考えると、面積が大きく薄い木材や、縦長の角材、作業用の重たい工具類など、風の影響を受けやすいものも多いが、このウィンチはハンドスピナーのように上空でくるくると回るため、荷物が風に煽られてもロープがよれることがない。
ウィンチが回る様子
飛行中の機体制御も秀逸だった。風の影響を受けやすい荷物であるほど、重心バランスを崩すリスクが高まるが、例えば荷物が強い風に流される、急に加速や停止するなどの際に、機体がその挙動を検知して、振り子の揺れを抑えるように動くのだ。
機体が振り子の揺れを検知して抑える様子
なお、ウィンチは遠隔でも操作可能だ。荷物を下ろすとき、操作画面上のAGL(対地高度)表示数値が0になったのを合図に、荷物が地面まで降りたと判断できるという。また、インターネット経由でPCからの遠隔操作も可能だという。
日本国内では、まだ4G/LTEには対応していない。現状では、カタログスペック通りの飛行距離を実現することは難しそうだが、将来的には、4G/LTEの対応により送信機の通信距離を超えて長距離の映像伝送、操縦が可能になるという。まずは目視内での重量物運搬において、利用が広がるのではないだろうか。
価格は450万円程度を見込む。セキドは、2月19日〜3月15日に全国30か所で、DJI FlyCart 30 運搬フライト実演セミナーを実施予定だ。また購入後は、運用上の注意事項などを学べる講習を受講したうえで、導入する流れになるようだ。
今回訪問した「春日部みどりのパーク」は、小学校の跡地を活用して2022年4月にオープンした農業研究施設だ。当日出会った最新テクノロジーも非常に興味深かったので、併せて紹介する。
こちらは、農業照明を専門に開発してきたJapan Powerplant(JPP)の植物育成ライトの実験エリア。ライトの種類による育成の違いを検証している。屋内で野菜や果物を大量生産するなどの用途でニーズがある。
屋外には、太陽光発電と組み合わせ、証明、水、空調をスマホ1つで管理できる施設もあった。コンテナを活用しているため、施設ごと移動することも可能だ。施設内では希少で高額なビカクシダがのびのびと育っていた。
太陽光の代わりにLEDライトを用いた養殖研究もされていた。
VR開発を手がける積み木製作では、体育館でのドローン飛行訓練や、感電したときの痛みまで感じられる分電盤設置作業訓練のVR体験をした。これまでに訓練や危険体験のコンテンツを1000以上製作してきたそうで、ドローンとも親和性のある分野だという。
こちらはセキドのDJI最新製品。2023年に日本国内でもお披露目されて以来、注目の「DJI Dock」飛行デモでは、遠隔操作でプログラム通りに飛行する様子を間近で見ることができた。
また、最新モデルの農薬散布機「Agras T25」の飛行デモでは、20Lの水を霧状に噴射しながら、障害物を回避して飛行する様子も。測量機能も搭載されているため、操作画面上で上空から見た圃場のオルソ画像を表示して、飛行ルートや散布結果を重畳でき、とても分かりやすかった。
FJDynamicsの農機自動操舵システムも体験した。農機のハンドルを付け替えて、位置情報を取得し、ハンドル右側のモニターで操作することで、低価格でハンドル操作を自動化できる。農機は振動や音でも疲労するため、難しい直線作業を自動化できるだけでも、労働負荷の軽減につながる。「息子が、これを導入しないと農家を継がない、と言うから買いにきた」というユーザーもいたそうだ。
今回はDJI FlyCart 30をメインに取材を行ったが、人手不足が叫ばれる日本国内はもちろん、食料需要の観点では屋内や暗所での植物育成技術は注目度が高い。VRを活用した訓練や技能継承はもはや普及期を迎えており、春日部みどりのPARKには令和の時代には必須といえる最新技術が集約していることが印象的だった。
また、もともと小学校であるため、体育館やプールも実証や講習のフィールドとして活用でき、教室では大人数向けセミナーが実施可能だ。JULCの無人航空機操縦者技能証明講習も、この広々とした施設で受講できるという。今後も、入居企業同士でのコラボレーションを含めて新たな動きに注目したい。
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