ソフトバンクは2月7日、2024年3月期 第3四半期 決算を発表。売上高は前年同期比3.8%増の4兆5116億円、営業利益は前年同期比25%減の7319億円と、増収減益の決算となった。
ただし、減益の要因は前年同期にPayPayを子会社化したためで、その再測定益2948億円が含まれていたことが影響している。それを除けば事業自体は好調だという。
実際、同日に実施された決算説明会に登壇した、代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏の説明によると、主要4事業全てが増収であるほか、エンタープライズ、メディア・EC事業は2桁の増益を記録。ファイナンス事業も実質的には増益しているとのことで、4事業全てが増益となる年間計画に対して順調に進捗しているという。
主力のコンシューマ事業に関しても、課題となっていたモバイル売上高が、前年同期比で増収に反転。宮川氏は、政府主導による携帯料金引き下げの影響で続いていた減収トレンドが「3年続くと覚悟したが、2年半で抜け出すことができた」と話し、通期でも増収に反転するとの見込みも示している。
売り上げが伸びている要因について、宮川氏は1つに「ARPUは下がっているが、全体の面積が増えればそれを補うこともできる」と、契約数が好調に伸びていることを挙げた。そしてもう1つの要因として、ARPUの低下に一定の歯止めがかかったことも挙げており、「ペイトク」などの新プランが好調なことが影響している様子も見せた。
宮川氏は、好調な業績を受けて、通期業績予想を上方修正することも発表。売上高、営業利益ともに期初予想から600億円増額し、それぞれ6兆600億円、8400億円に引き上げるとしている。中でもコンシューマ事業に関しては、ARPUの改善などから営業利益を期初予想より200億円引き上げ、4900億円を見込むとのことだ。
そのコンシューマ事業に関して、2023年12月27日の電気通信事業法一部改正によっていわゆる「1円スマホ」に規制がかけられるという大きな動きがあった。ソフトバンクはこれに対応するべく、1年での買い替えを前提とした端末購入プログラム「新トクするサポート(バリュー)」を活用し、「実質12円」といったスマートフォンの激安販売を継続している。
端末値引き規制直後にあえてこうした施策を打ち出した理由として、宮川氏は「本当は5Gの普及をもっと急ぎたい。これ以上5G端末の普及が遅れることを、われわれは良しとしていない」と、値引き規制と端末価格の値上がりで5Gの普及が思うように進まないことが背景にあると説明している。
もっとも、ソフトバンクにとってもこの施策はチャレンジ要素が大きかったようで、宮川氏は「半分は(総務省に)怒られるかと思ってやった」と本音を漏らす。ただ、「総務省からお叱りを受けたとかはない」とも話しており、指導なども受けていないことから今後も継続していく姿勢を見せている。
その5Gに関しては、5G向けに割り当てられている3.7GHz帯が衛星通信と電波干渉してしまう問題が解消に向かっており、今後基地局の出力を大幅に上げることが可能になる。宮川氏はこの点について「スカパー(JSAT)さんに相当協力頂いた」と説明し、首都圏を主体として今後3.7GHz帯のエリア展開を積極化していく考えを示した。
一方で、2月2日にNTTドコモが実施したネットワーク品質に関する説明会で、ソフトバンクが大阪での通信品質をアピールしている広告が、優良誤認に当たるのではないかという指摘があった。この点について宮川氏は「詳細を把握しきれていない」と断りながらも、「(調査会社の)OpenSignalや(ソフトバンク傘下の)Agoopのデータを聞いて、現場が調子をこいたんでしょう」と釈明。改めて内容を確認するとした上で、「われわれだけがつながりやすいのではなく、しのぎ合っていると理解頂ければ」と答えている。
また決算発表の前日となる2月6日には、KDDIがコンビニエンスストア大手のローソンの株式を半数獲得し、三菱商事と共同で運営することを発表することを明らかにした。この動きについて宮川氏は「KDDIさんはなかなか思い切った判断をしたと驚いている」と評価する一方で、「当社としてはそういう方向ではないと感じている」とも説明。ソフトバンクは特定の小売事業者だけでなく、日本の小売業界全体のデジタル化を目指すとし、KDDIとは戦略そのものに大きな違いがある様子を見せていた。
宮川氏は今回の決算に際して、ここ最近のソフトバンクの主な取り組みについても説明。1つは、WeWorkの日本事業に関するものだ。
親会社の米WeWorkが経営破綻したことを受け、日本法人のWeWork Japanも2月1日に民事再生申し立てを実施している。ソフトバンクはWeWork Japanの株式を25%保有していたが、今回その事業をソフトバンク100%子会社のWWJに吸収分割し、従業員や事業、債務などはソフトバンクが全て引き継ぐ予定とのこと。宮川氏は、利用者や取引先に安心して欲しい旨を訴えている。
2つ目は、宮川氏の直轄で進めている「Beyond Japan推進室」で、2023年12月にアイルランドのCubic Telecomへの出資を実施したこと。キュービックテレコムはコネクテッドカー向けのIoTプラットフォームを190カ国以上で展開しており、それを子会社化することで自動車向けIoTネットワークに力を注ぐ姿勢を示している。
コネクテッドカー向けを中心としたIoTネットワークの世界展開は競合のKDDIも力を入れているが、宮川氏はCubic Telecomが世界各国で通信が利用できるプラットフォームを展開しており、自動車メーカーがそれを利用することで簡単にコネクテッドカーを世界中に展開できるなど、従来の通信会社のプラットフォームとは構造そのものが違っており、優位性があると説明。KDDIに対しても「十分戦えると思っている」と、強い自信を示している。
そして3つ目は、ソフトバンクが構築を進める「次世代インフラ」に関する取り組みであり、2023年10月に富士通と「光電子結合ネットワーク」の全国展開を完了したことなどを説明している。これは宮川氏によると「IOWNでいう光電融合と同じような技術」とのことで、従来のネットワークでは光信号と電気信号への交換が頻繁に発生しエネルギーロスが生じていたのを、光信号から変換することなく通信することで消費電力を大幅に削減し、より低遅延・大容量のネットワークを実現できるとしている。
そうした技術を活用するとなると、ソフトバンクとIOWNとの関係が改めて注目される所だ。ソフトバンクは現在、IOWNの実現を目指す団体「IOWN Global Forum」に加入していないが、その理由について宮川氏は、IOWNの構想には大いに賛同しているが、「グループでさまざまなことをやっていて、今の契約書のままだと制限がかかる書きぶりがある」と、契約上の多様な理由からIOWN Global Forumに参加できないことを明かした。
また、契約上の問題がなければ参加する姿勢だったと振り返るも、その後にNTT法見直しの議論が急浮上したという。「技術的には評価しており、方向感は一緒だが、NTTが腹を割って議論できる相手かどうか、最近曇り空になってきた」と、複雑な思いが出てきた様子を見せている。
そのNTT法に関して問われた宮川氏は、「2025年度(の廃止)ありきということに違和感を感じたまま」としながらも、2024年から総務省で立ち上がった3つのワーキンググループでの議論に参加し、意見を主張していく考えを示した。
さらに宮川氏は、IOWNの技術を半導体に取り込む研究に対して国が約450億円支援したことに触れ、「『そら見たことか』という気持ちで僕は見ていた」と説明。「半導体は好不況の波が激しい業界。(事業が)ダメになった時に光ファイバーの値段を10%値上げするという決着があるならば、それはやってはいけないこと」と、いわゆる“特別な資産”を持ったままNTTが完全民営化することへのリスクに強く警報を鳴らした。
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