3499ドル(約52万円)するAppleの複合現実(MR)ヘッドセット「Vision Pro」に関して、同社の広報戦略が「コントロールされている」と呼ぶのは控えめな表現だろう。「WWDC 2023」での撮影も許可された実機体験から、1月の米国での予約受付開始までバッテリー内蔵の実機を使って何度か行われた時間限定のハンズオンセッションを通して、明確な理解が欠けていたのは、このヘッドセットが現実の環境でどう機能するのか、最適な用途はどのようなものか、そして空間コンピューティングの来るべき時代が実際どれほどの可能性を秘めているのか、ということだ。
こうした疑問の一部は、近く答えが出るだろう。この1週間、レビュアーや業界の専門家らがVision Proを自ら試してみた経験を共有できるようになったからだ。以下にVision Proに対する初期のレビューをまとめて紹介する。
米CNETのScott Stein記者はこう記している。「生活の中でVision Proを使ったこの1週間は、かつてないほど複雑な体験だった。私がこれまで評価を求められた中で最も難しい製品の1つだ。驚くほど素晴らしい部分もあれば、完成したとは思えない部分もある」。Stein記者が感銘を受けた点の1つは、Vision Proの深度マッピングと空間認識だ。特に、ガーディアン(ユーザーがプレイエリア外の家具や壁などの障害物に触れるのを防ぐため、VRヘッドセットに一般的に設けられたデジタル境界)をマッピングしなくても周囲のオブジェクトを処理できたという。
Stein記者はVision Proを「どこでもコンピューター」としても使用し、「Mac Virtual Display」機能を使って「Mac」と接続した。Vision Proに映し出せるMacの画面は1つだけだが(ただし、その横に「visionOS」や「iOS」の複数のアプリ画面を並べて表示できる)、画質は鮮明な4Kだ。「不具合が何度かあり、コントロールがふわっとしすぎるように感じることもあるが、同社初のカテゴリーですでにこれほど優れていることに衝撃を受けている」(Stein記者)
しかし改善すべき点もあり、その1つは触覚フィードバックがないことだ。「スマートフォンやスマートウォッチ、ゲームのコントローラーにあるようなフィードバックを感じられる触覚フィードバックはない。3D空間では、より正確なコントロールが欲しい。十分に多機能なものがいい。ハンドトラッキングやアイトラッキングだけで、そのすべてができるかは疑問だ」(Stein記者)
The Wall Street JournalのJoanna Stern氏も、Vision Proを実際に試してみた。「空間ビデオ」の撮影をテストするため、Vision Proを装着してスキーまでしたという。解像度2200×2200、フレームレート30fps、アスペクト比1:1で撮影された動画を見る限り、画質は良好だが、数千ドルも安価なMeta Platformsの「Ray-Ban | Metaスマートグラス」で撮影する動画よりはるかに優れているというわけでもないようだ。
Vision Proを24時間ずっと装着するのはどのような感じだったのだろうか。Stern記者は「苦しかったが、得られるものが多かった」として、「Vision Proには、第1世代の製品にありがちな難点が揃っている。重く、バッテリーの持ちは最悪で、優れたアプリはまだそれほど多くなく、時には不具合もある」と語った。Stern記者が発見した最適な用途は、Vision Proを仕事用のコンピューターとして使うことと、これを使って映画を観ることだ。
The VergeのNilay Patel氏は、以前のデモセッションでは試せなかったVision Proの「EyeSight」機能の使用感をこう説明した。「実際には、(EyeSightは)存在しないも同然だ。前面のレンズ状のパネルを伴う低解像度の有機ELが控えめな3D効果をもたらすが、非常に暗い上に、カバーガラスがよく反射するので、大抵の通常照明から明るい照明の環境下では実に見づらい」
良い点もあり、CNBCのTodd Haselton氏がレビューしたように、内側のディスプレイははるかに高性能だ。「このディスプレイは、『Meta Quest 3』のような低価格ヘッドセットにありがちな(画素境界が網目のように見えてしまう)『スクリーンドア効果』を防ぐのに役立つ。Vision Proでは、ウェブサイトや本の文章を容易に読むことができる。また、3D映画を含む複数の映画についても、自宅のどのテレビよりも大きくて鮮明な画面で鑑賞できた」
多くのレビュアーの意見は一致している。それは、Vision Proが仮想現実(VR)における過去最大の技術的飛躍であり、デジタル世界で何ができるかを再想像させるオーディオビジュアルの品質を備えているというものだ。第1世代の製品であり、Appleにとってこの製品カテゴリーの第1弾なので、Vision Proにも欠点はある。具体的には、触覚フィードバックがないこと、時折不具合やバグが発生すること、利用できるアプリが限られていること、手と目のトラッキングに調整の余地があることなどだ。
購入価格の高さもまた、多くの人にとって障壁になる。米ZDNETのJason Hiner記者が指摘するように、Vision Proは素晴らしいものの、高価な開発者向けキットのようなものであり、大半の人は購入すべきではない。Appleがより手頃な価格のヘッドセットを売り出すのはおそらく2~3年後だろうから、それまではMeta Quest 3が最良かつ最も安全な選択肢と思われる。
Vision Proこの記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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