ソニーは、米ラスベガスで開催しているCES 2024において、1月8日(現地時間)、プレスカンファレンスを行い、高精細なXRヘッドマウントディスプレイを備えて、仮想空間内において、直感的なインタラクションが可能な没入型空間コンテンツ制作システムを開発したことなどを発表。次世代ビジュアライゼーション施設である「Torchlight」についても公表するなど、クリエイターの創造力をサポートすることにコミットする姿勢を改めて強調する一方、ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」(アフィーラ)では、「ADASにおけるAI活用」と「創造的なエンターテインメント空間としてのモビリティ」という2つの観点から、市場投入に向けた進捗を説明した。
プレスカンファレンスの冒頭、ソニーグループ 会長兼CEOの吉田憲一郎氏は、2024年1月10日に、コロンビア・ピクチャーズが創立100周年を迎えることに触れ、「過去100年間に渡り、記憶に残る物語に命を吹き込むクリエイターを支援することに尽力してきた」と切り出し、続く説明では、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーのパーパスのもと、クリエイターを支えるさまざまな技術や取り組みを紹介していった。
ソニー・ミュージックパブリッシング 会長兼CEOのジョン・プラット氏と、ソニー・エレクトロニクス プレジデント兼COOのニール・マノウィッツ氏は、ソングライターや作曲家を支援する取り組みを行っていることや、ソニーとAP通信が画像の真正性を証明するカメラ内デジタル署名技術の実証実験を実施していることなどを紹介。ソニー・ピクチャーズ・テレビジョン・スタジオ プレジデントのキャサリン・ポープ氏は、人気ゲームの映画化やテレビ化など、ゲームIPの拡充も進めていることや、映像分野における女性の活躍の場を提供するDiverse Directors Programの活動によるクリエイターの支援などについて言及した。
また、ソニーグループの吉田会長兼CEOは、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの次世代ビジュアライゼーション施設「Torchlight」について説明。リアルタイム3D製作ツール「Unreal Engine」を提供するEpic Gamesとの協業により、ソニーのデジタルシネマカメラ「VENICE」を使い、Unreal Engine上でシミュレーションする「Virtual Production Tool Set」を活用。映画製作者は、撮影前にリファレンスとなる映像を制作できるという。また、モバイルモーションキャプチャーの「mocopi」などの技術との組み合わせによって、クリエイターが創造性を発揮できるワークフローのサポートも可能になると述べた。
さらに、1月には、米シカゴ近郊に、自社運営による没入型エンターテインメント施設「Wonderverse」をオープンすること、アニメやスポーツ、ゲームなどのコミュニティにおけるファンエンゲージメントの強化による新たなスポーツ体験の提案などを進めていることも紹介した。
ソニーグループの吉田会長兼CEOは、「PlayStation」についても触れ、2023年12月の月間アクティブユーザー数が1億2300万となり、過去最高を記録したこと、レースゲーム用のAIエージェントである「グランツーリスモ・ソフィー」を開発し、新たなゲーム体験を提供していることなどに言及。ステージのスクリーンで放映した映像を通じて、小型化した最新の「PS5」、最新ゲームタイトルのほか、「PS VR2」や「Accessコントローラ」などの周辺機器も紹介した。
ここでは、新たな発表として、XRヘッドマウントディスプレイを備え、仮想空間内で直感的なインタラクションが可能な没入型空間コンテンツ制作システムを開発したことを明らかにした。
ソニーグループの吉田会長兼CEOは、「物理空間に仮想オブジェクトを重ねあわせることで、創造空間を拡張でき、シームレスな視聴体験と、3Dデザインのための直感的なインタラクションを実現。クリエイターは、物理空間において、没入型の開発体験を行えるようになる」と述べた。
空間コンテンツ制作システムは、4K OLEDマイクロディスプレイや、独自のレンダリング技術を搭載しており、3Dオブジェクトの質感や、人の表情までを、リアルタイムに、高精細に表現することができる。
また、6つのカメラとセンサーによるビデオシースルー型空間認識機能に加え、仮想空間のオブジェクトを直感的に操作できるリング型コントローラと、空間内で精密な指示を可能にするポインティングコントローラを使用することで、ヘッドマウントディスプレイを装着したまま、キーボードを併用した作業が可能になるという。
これにより、高精細なディスプレイを用いたXR環境で、実寸大のモデルを確認しながら、3Dモデルの制作や修正が行えるほか、アプリケーションとの連携による遠隔拠点間での同時レビューや、ヘッドマウントディスプレイを装着した没入環境のまま、一連の工程を直感的に行うことが可能だという。
なお、プラットフォームにはQualcommの最新XRプロセッサ「Snapdragon XR2+ Gen 2」を採用し、高画質な映像体験や、空間認識機能によるシームレスなXR体験を通じて、クリエイターが求められる高い性能水準に対応するという。
今後、エンターテインメント領域や工業デザインを含む、各種3D制作ソフトウェアへの対応を予定。第1弾として、工業デザイン分野での活用を目指し、シーメンスと協業し、同社のオープンデジタルビジネスプラットフォーム「Siemens Xcelerator」を使用して、没入型のデザイン体験とエンジニア間のコラボレーションを実現するための新しいソリューションを導入するという。空間コンテンツ制作システムは、2024年中の発売を予定しており、今後、発売日や発売地域、価格、販売ルート、仕様、各種ソフトウェアの対応状況を発表するという。
今回のプレスカンファレンスで、半分近い時間を割いたのが、モビリティへの取り組みだ。
ここでは、次世代EVのAFEELAを開発するソニー・ホンダモビリティにおいて、ソニーグループと協業している本田技研工業 取締役社長の三部敏宏氏が登壇。「ホンダが目指しているのは、世界中の人々に、人生の可能性を広げる喜びを提供することである。これはクルマやオートバイに留まらず、空や海でも同じである」と前置きし、「モビリティの分野を拡大するには、新しい技術を取り入れることが必要であり、それを支える技術のひとつがソニーのセンシング技術である。この技術を使って新しいアプリケーションを生み出すことができる」とコメント。さらに、「ホンダは100年に一度の変革をリードする企業でありたい。ソニーとホンダが協業すると、独特の化学反応が起きる。ソニー・ホンダモビリティは、この化学反応により、これまでの常識を覆す新しいモビリティ体験を生み出すことを期待している」と述べた。
続いて登壇したソニー・ホンダモビリティ 社長兼COOの川西泉氏は、PlayStationコントローラを操作して、最新のプロトタイプであるAFEELAをステージに登場させ、「ADASにおけるAI活用」と「創造的なエンタテインメント空間としてのモビリティ」について説明した。
「ADASにおけるAI活用」では、イメージセンサーやLiDAR、レーダーといった高度なセンシングデバイスと、AIを組み合わせた新たなADASを実現。物体検出ではソニーのVision Transformerを採用し、CNNよりも高い精度で認識していることをデモストレーションしてみせた。また、センシングデータを活用した新たなユーザーエクスペリエンスの創出として、Epic Gamesのゲームエンジン Unreal Engine 5の最新バージョンを使用し、車両や歩行者、地形、天候など、さまざまな外的環境条件をシミュレートし、AR技術と組み合わせることで、ユーザーが安心安全で、没入感がある体験を楽しむことができることを示した。
「創造的なエンターテインメント空間としてのモビリティ」では、社外のクリエイターやデベロッパーが、自由にAFEELAの上で動作するアプリケーションやサービスを開発できる環境を提供し、クリエイティビティを表現したり、共創できたりする場をデジタル上に用意。「AFEELA共創プログラム」(仮称)を通じて、AFEELAをデジタルガジェットとして自由に表現できるために開発環境のオープン化を進めるという。ここでは、対話型パーソナルエージェントの開発に向けて、マイクロソフトとの提携を新たに発表。「Microsoft Azure OpenAI Service」を活用することになるという。
マイクロソフト コーポレートバイスプレジデントのジェシカ・ホーク氏は、「生成AIとクラウドスケールコンピューティングの導入によって、無限の創造性とパーソナライゼーションの向上、車内体験の変革が実現する。マイクロソフトはデータの安全性とセキュリティを最優先事項に位置づけており、それはあらゆる業界に対して共通の取り組みである。ポリシーに基づいた責任あるAIを提供することができ、「Azure AI Content Safety」によって、有害なコンテンツを検出し、安全で、楽しい車両体験を生み出すことができる。ソニー・ホンダモビリティは、透明性を強化しながら、自信を持って、AI機能を拡張できる」と語った。
さらに、ポリフォニー・デジタルと、車両開発における協業を発表。人の感性や官能領域において、バーチャルとリアルを融合させた車両開発を目標にするという。
最後に、もう一度登壇したソニーグループの吉田会長兼CEOは、「クリエイターと一緒に仕事をすることで、可能性は無限大に広がる。ソニーはこれからも、テクノロジーによってクリエイティビティに力を与え、クリエイターの発想を実現していくことになる」と述べた。
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