韓国と日本、ホテル業界における共通点と相違点--マーケティング、DX化、サービス

 コロナ禍により長く苦戦を強いられてきた宿泊業界。しかし、ITを活用することで、この難局を乗り切っている宿泊施設もある。ここでは、ホテルや旅館向けの予約エンジンなどを提供するtripla(トリプラ)の高橋和久が、宿泊✕DXを実践している企業などの事例から、これからの宿泊業界のあり方を解き明かす。

 これまで国内のさまざまなホテルのDX化やマーケティング戦略に触れてきた当連載。以前にも海外編として、台湾で複数のホテルやレストランを有するグロリアホテルグループ(華泰大飯店集団)を取り上げたが、今回は韓国のホテル事情に迫る。

Trinity D&C CEOのHyunji Lee氏(右)、tripla 代表取締役 CEOの高橋和久氏(左)
Trinity D&C CEOのHyunji Lee氏(右)、tripla 代表取締役 CEOの高橋和久氏(左)

 仁川にある「The Week And Resort」(ザ・ウィーク&リゾート)と、ソウルにある「THE CONNOISSEUR Residence Hotel」(ザ・コノスル・レジデンス・ホテル)は、日本人観光客にも人気のホテルだ。運営会社のTrinity D&Cは、マーケティング戦略としてさまざまな取り組みを行っている。

 例えば、ファミリー層、ペット愛好家、カップル、ビジネスパーソンなどさまざまなターゲットに適した体験コンテンツを開発・運用する体験型マーケティング、国内外のインフルエンサーを通じてブランド体験を促進するインフルエンサーマーケティングを展開。

 さらに環境に優しい家具メーカーとコラボしたキッズプレイルーム、プレミアムキッズコスメブランドとコラボしたキッズルーム、プレミアムウイスキーブランドとコラボしたウイスキー教室、クレジットカードとの提携などを通し、より多くの潜在顧客にアピールできるブランドコラボレーション&コ・マーケティング、ペットビーチ活動やフェアトレードフェスティバルなどのエコキャンペーン、地元観光地とタッグを組んだ宿泊パッケージ「ザ・ウィーク&ヨットパッケージ」「目利きモーニングサンドPKG」などの開発をはじめとしたエコと地域共栄プログラムなどがある。日本でも、同じようなマーケティングを行っている宿泊施設があり、国を超えた業界全体におけるマーケティングのトレンドといえるだろう。

 また、韓国のホテル業界では、日本と同じく人手不足に悩まされており、世界的にもその傾向が高まっている。この問題を解決するため、ザ・ウィーク&リゾートでは料理をオンラインで注文できるネイバーオーダー機能を活用するとともに、配膳ロボットを導入してスタッフの数を最小限に抑えている。また、ザ・コノスル・レジデンス・ホテルはキーレスエントリー・システムを導入し、フロント係が不在でもチェックインとチェックアウトの手続きができるようにしたそうだ。よって前述したマーケティング戦略と、DX化に関しては日本と韓国における共通点が多い。

 逆に相違点としては、オンラインチャネルの露出方法が挙げられる。日本の宿泊施設では集客ツールとしてOTA広告の活用や口コミサイト対策をしている例がよくあるが、韓国ではそれだけでなく、あえてホテルとは無関係なプラットフォームを積極的に活用しているという。

 「日本でいう『メルカリ』のような、大手フリマサービスに広告を出している。このサービスはユーザーの位置情報をもとに広告が表示されるので、ホテルの所在地の近くにいるユーザーにアプローチできる。それを通じてホテルの認知拡大はもちろん、従業員も募集している。さらに、『週末どこかに出かけたい』と考えている主婦、主夫層にアプローチするために、食品などを取り扱っているオンラインショッピングモールにも広告を出稿。一見、ホテルとはまったく関係のないプラットフォームを通じて、まだ到達していない顧客層にアプローチするためのクリエイティブな方法を採用している」(Trinity D&C CEOのHyunji Lee氏)

韓国の国民性に合わせたサービス展開

 同ホテルでは国内外のゲストを迎え入れていることから、双方のゲストに対応する取り組みが不可欠である。

 「インバウンドのゲストは、宿泊先のホテルを検索する際、レビューによる評価や競争力のある価格なのかどうかが、意思決定に大きくかかわるでしょう。したがって、グローバルなホスピタリティ・ウェブサイトやOTAの協力のもと、レビューの管理やインバウンドに向けた適切な内容の広告掲載に力を入れています。また、海外のゲストからの問い合わせに対し、迅速に対応することも非常に重要です。それを最適化するために、triplaのチャットボット・ソリューションを利用しています。ゲストのよくある質問に対し、多言語で答えることができるので、運営上の人件費削減にもつながっています」(Lee氏)

 一方で韓国の地元客に対しては、競合との差別化に加えて、ゲストの傾向に寄り添ったサービスが必要だ。

 「韓国のホテル業界では『韓国からのゲストはホテルに泊まっても寝ない』というジョークがあるほど、韓国人は滞在中、とにかくさまざまなアクティビティを楽しむ。ホテルにチェックインしたら、すぐに着替えてプールに行き、映える写真を撮って、サウナを楽しんで、その後はクラブラウンジでアフタヌーンティーを楽しんで……といったイメージ。要はホテルそのものを目当てに来るというより、そのホテルならではの特別なイベントや楽しみ方に魅力を感じている。これは、韓国で新型コロナウイルスのパンデミック以降『ステイケーション』という言葉がよく知られるようになって、のんびりと過ごすのではなく、ホテルのあらゆるサービスやイベントを楽しむことを重要視するゲストが増えたことが影響している。私たちはそれに応えるべく、常に新たなイベントを企画し、地元のインフルエンサーをはじめとしたパートナーとのコラボレーションなどを試みている」(Lee氏)

 また、日本でもホテル内にジムやプールを設けているケースは珍しくないが、同ホテルでは韓国の国民性に合わせて、こうした設備をどんどん充実させているという。

 「『ステイケーション』のみならず、このところ韓国の人々はウェルビーイング、スポーツフィットネスに注目しており、健康に気を使っている。そうしたニーズに応え、当ホテルにはジムに加えてハイキングコース、プロのクライミングウォール会社が建てたクライミングウォールがある。それだけでなく、近隣地域とも協力し、アクティビティを通して近隣地域と一緒に利益を享受することを目指している。例えば、同じエリアにあるヨット会社とコラボし、ゲストが割引価格でセーリングを楽しめるパッケージディールなどだ。このように、毎回ゲストに新しい何かを提供できるようにし、ホテルとしての価値を感じてもらえるようにしている」(Lee氏)

 ちなみに日本人が韓国を旅行する場合、観光地として有名な釜山やソウル、済州島などに行くことが多いだろうが、ザ・ウィーク&リゾートがある仁川エリアはまた違った魅力を持っているという。

「毎回ゲストに新しい何かを提供できるようにし、ホテルとしての価値を感じてもらえるようにしている」
「毎回ゲストに新しい何かを提供できるようにし、ホテルとしての価値を感じてもらえるようにしている」

 「仁川は日本のゲストにとって釜山、ソウル、済州島ほどの認知度はないかもしれませんが、実はこの地域には特別な食文化があり、さまざまなシーフードが楽しめ、美しい夕日も見られる。1980~1990年代の韓国の雰囲気が漂っていて、本物の韓国を実感できると思う」(Lee氏)

 日本の宿泊施設の多くは、おもてなし文化にもとづいたきめ細やかなサービスが展開されており、そのクオリティの高さは世界に誇れるものだと言われている。一方、韓国の宿泊施設も日本に負けないくらいホスピタリティが高く、ゲストのニーズに応えるためにさまざまな施策に取り組んでいることが、改めて実感できた。

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