これまで国内のさまざまなホテルのDX化やマーケティング戦略に触れてきた当連載。今回は海外編として、台湾で複数のホテルやレストランを有するグロリアホテルグループ(華泰大飯店集団)の現状に迫った。
同グループの基盤となっていた「グロリア プリンスホテル台北」は、2022年10月に惜しまれつつも営業をいったん終了し、再開発中。現在は、長期滞在に最適なアパートメントホテル「グロリアレジデンス」、客室に赤銅、黒金石、大理石、クルミの木などの建材を使用し、スタイリッシュな空間が特徴のデザイナーズホテル「ホテル プロバーブズ 台北」、台湾最南端の恒春半島に位置する「墾丁国家森林遊楽区」内にあるリゾートホテル「グロリアマナー」などを展開している。
このようにさまざまなコンセプトのホテルを展開しているが、「グロリアマナー」がある墾丁は日本人にあまり知られていないピーチリゾートということもあり、日本人宿泊客は10%以下。残りは台湾の宿泊客が占めているという。
また、長期滞在向けのグロリアレジデンスには欧米からの宿泊客が多いそう。この場合のマーケティングにおいては、ロングステイを楽しんでもらうためのさまざまなパッケージの販売に力を入れているとのこと。
「そのほか、訪台外国人旅客に向けたマーケティングとしては、KOL(キーオピニオンリーダー:Key Opinion Leaderの略、日本でいうインフルエンサーのような存在で特定分野の専門知識を持っている人物)を起用したSNS戦略にも取り組んでいる。以前はOTA経由でKOLを紹介していただいていたが、最近はKOLの方から『SNSで紹介したい』というアプローチを受けることが増えている」(グロリアホテルグループ Vice President of Rooms DivisioのBetty Tsai氏)
一方で、ホテル運営のマーケティングの基本ともいえる、宿泊客によるレビューも重要視。サービスなどに対するポジティブな声が上がることがあれば、逆にネガティブな意見が寄せられることもあるものの、いずれの場合も専任スタッフがしっかり対応しているそうだ。
「新型コロナウイルス禍の影響が薄れて、以前に比べて連泊のお客様も増えてはいるが、現状では台湾の宿泊業界全体のマーケットや、国際線のフライト状況が安定しているとはまだ言い難い。そのため、国内外に向けて本格的なマーケティング戦略に取り組むのはもう少し先になる。すでに主要なプロモーションなどを計画中で、2024年度の始めから展開予定だ」(Tsai氏)
なお、国内の宿泊客に対しても課題はあるという。
「台湾の観光客の方々は自分で観光プランを立てたり、アプリを使って観光ツアーのパッケージを購入したりする方が多いのだが、それについてホテルスタッフが質問を受けることが増えている。私たちもできる限り対応しているが、ホテル側が観光プランと宿泊プランが合わさったパッケージをより充実させ、お客様が観光に際して困ったときに確実に対応できる環境を整えれば満足度が上がるのではないかと考えている。ホテル側は予約情報やコミュニケーションを通して、お客様の年齢や嗜好などの情報を把握しやすい分、より適したプランを提示できるのでは」(Tsai氏)
宿泊客から寄せられる生の声をヒントに、ただ単に宿泊することだけにとどまらない、さまざまな価値を提供しようとしているようだ。
また、今回のインタビューの中で、いま台湾で話題になっている日本のホテルがあるとも教えてくれた。
「日本は客室がコンパクトなホテルが多いので、家族や友達複数人で同じ部屋に泊まりたい台湾人は来日時のホテル選びに苦労することもあるのだが、『APARTMENT HOTEL MIMARU』(MIMARU)は客室が広くて家族旅行にピッタリだとして人気。客室やベッド幅の狭さから、これまで台湾人は日本滞在中、広めの客室が多いインターナショナルチェーンのホテルしか選べなかったという例も少なくないのだが、最近はMIMARUを選択肢のひとつにするケースが増えています。日本のさまざまなホテルの中からMIMARUをPRしているKOLも多い」(Tsai氏)
前回紹介したMIMARUは、立ち上げ当初から「家族連れの東南アジア人を中心とした外国人観光客」をターゲットにして客室設計したというが、その試みは台湾の人々のニーズにしっかりフィットしていたのだ。
日本のホテル業界と同じく、宿泊客に対する満足度の追求に余念がないグロリアホテルグループ。2024年以降は、現在建て替え中の「グロリア プリンスホテル台北」が新規のホテルとしてオープンする予定となっており、これまでにはなかった新たなサービスやマーケティング戦略を展開していくかもしれない。
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