2023年は、ヘッドホン分野の話題に事欠かない1年だった。ノイズキャンセリングやバッテリー持続時間の向上はもとより、低音に連動して振動する「クラッシャーベース」機能を搭載するヘッドホンや、自分で修理可能なヘッドホンなど、これまでにない特長を持つ製品が登場したからだ。
さらに重要なことは、新たなBluetoothコーデックと内部コンポーネントのおかげで、ヘッドホンメーカーがオーディオ品質を向上させたことだろう。2024年は、没入感のある空間オーディオ体験、低遅延、アダプティブノイズキャンセリング(ANC)技術、高ビットレート、より高速なワイヤレス充電などによってさらにヘッドホンが進化するとみられる。それぞれのトレンドを見ていこう。
低遅延とは、ネットワークが大量のデータを最小限の遅延で処理できることを意味する。ヘッドホンの場合は、遅延が少なければ少ないほど、音声が装着者の耳に届くのが速くなる。低遅延は、特にモバイルゲーム市場が拡大していることを考えると、ユーザーにとって望ましい機能だ。ユーザーは毎日の通勤時やオフィス、ジムで、そしてゲーム中に使用できるヘッドホンを求めており、オーディオメーカーもそのことを認識している。
ほとんどの消費者向けヘッドホンはゲーム向けに最適化されてはいないが、メーカー各社は現在、それに向けて取り組んでいる。例えば、Googleは2023年、ソフトウェアアップグレードを通して、同社のフラッグシッププレミアムイヤホンである「Pixel Buds Pro」に低遅延モードを追加した。Googleによると、Pixel Buds Proの低遅延モードは遅延を半分に短縮するという。これが、ソフトウェアアップデートによって実現されたという点は注目に値する。
Qualcommは、Boseやオーディオテクニカ、Jabra、Edifier、Ankerなど、非常に有名なヘッドホンブランドのチップを製造してきた。当然のことながら、Qualcommは広範に採用されているいくつかのBluetoothコーデックを所有している。その中で最も先進的なのが「Qualcomm aptX Adaptive」コーデックだ。
この技術のおかげで、低遅延のリスニングを楽しむことができる。同社は2024年にこのコーデックをさらに進化させる見通しだ。Qualcommは2023年10月、Bluetooth経由で高ビットレートオーディオを実現するとうたう2つの新しいサウンドプラットフォームを発表した。現在、ロスレスオーディオ(CD品質のオーディオ)をBluetooth接続で実現することはできない。Bluetoothは、ロスレス再生に必要な速度でデータを送信できないからだ。だが、Qualcommによると、同社の「S7 Pro」オーディオプラットフォームはヘッドホンにWi-Fi接続機能を搭載することで、無線でのロスレスリスニングを可能にするという。
Bluetoothの標準化団体Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)は2022年、新しいオーディオ技術「LE Audio」を定義する一連の新規格を発表した。
LE AudioはBluetooth Low Energy無線で動作し、「LC3」と呼ばれる新しいコーデックが含まれる。LC3は、高品質のオーディオストリーミングと低消費電力を実現するとうたわれている。LE Audioでは、1つの音源を無制限のデバイスにブロードキャストできる「Auracast」という新機能も利用できる。例えば、公共の場で音声付きのテレビ視聴が可能になる。
多くの消費者向けオーディオメーカーが、自社のBluetoothスピーカーにAuracastを搭載するようになるだろう。そうなれば、1台のデバイスから複数のスピーカーにオーディオをストリーミングできるので、パーティー用に1台の巨大なスピーカーを購入する必要性が薄れる。
ドライバーはヘッドホンの中にある小さなスピーカーだ。多くの場合、金属と磁石で作られており、空気がドライバーを通過すると、ユーザーの耳に聞こえる音が生成される。ドライバーの素材がより高品質で、よりうまく組み立てられていればいるほど、ヘッドホンの音質が向上する。
出力の裏側の物理的性質に関して言えば、ヘッドホンドライバーには何十年もの間、あまり変化がなかったが、ようやく新たな技術が登場しようとしている。カリフォルニアに拠点を置く新興企業のxMEMSが、オーディオの明瞭度を高めるため、シリコンベースのドライバーを採用したのだ。このドライバーは、ヘッドホンやインイヤーモニター、デジタル補聴器、スマートグラス、仮想現実(VR)ヘッドセットで使用できる。
xMEMSのドライバーは、従来のドライバーに搭載されてきた紙製やプラスチック製の振動板の代わりにシリコンを使用する。ソリッドステートシリコンドライバーは、ノイズキャンセリングと空間オーディオを向上するとされているほか、防水防塵性能はIP58等級で、フィットネスや屋外環境に最適だ。2024年には、さらに採用が拡大するだろう。
空間オーディオは、消費者用ヘッドホン向けの技術としては比較的新しいものであり、ソニーが「360 Reality Audio」を発表したのは2019年のことだ。これを受けてAppleは2020年、「空間オーディオ」に対応した。それ以来、ゲーミングヘッドホンメーカー各社がこの技術を普及させ、極めて没入的なエンターテインメント体験を提供している。
空間オーディオを利用するには、この技術に対応するヘッドホンと音楽ストリーミングプラットフォーム(「Apple Music」や「TIDAL」など)が必要だ。だが、2023年に入って、Boseが革新的な新技術を発表した。Bose独自の空間オーディオである「Immersive Audio」は、「QuietComfort Ultra」シリーズの新しいヘッドホンおよびイヤホンとともに発表された。
この新しいモデルでは、空間オーディオに対応していないストリーミングサービスでも、空間オーディオ風のサウンドを体験できる。米ZDNetで実際にテストしてみたところ、確かにそのとおりだった。Appleの「Vision Pro」やMetaの「Quest 3」で見られたように、より多くの企業がVRの世界に参入する中で、空間オーディオ技術の向上は消費者向けヘッドホン市場に革命をもたらし、今後も市場を活性化し続けるだろう。
ワイヤレス充電は現代のテクノロジーの土台になりつつある。真のコードレス化を目指す中で、ワイヤレス充電スタンドやワイヤレス充電パッド、車載用ワイヤレス充電器などが登場している。
2023年1月、Wireless Power Consortium(WPC)は新しいワイヤレス充電規格「Qi2」を発表した。Appleの「MagSafe」充電方式を活用することで、この新しいワイヤレス充電規格は、「Android」スマホを含むすべての対応デバイスに充電速度の向上をもたらす。
すでに、いくつかのQi2対応充電アクセサリーが発売されており、「iPhone 13」「iPhone 14」「iPhone 15」シリーズがQi2に対応している。近い将来、ワイヤレスイヤホンもQi2に対応し、Appleやソニー、Google、Bose、サムスンのイヤホンを充電パッドで急速充電できるようになるだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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