「経済圏」囲い込みに新NISA、2023年スマホ業界は反転攻勢--ドコモ・楽天は挽回できるか

 2023年のスマホ業界を振り返ると「反転攻勢」という言葉が当てはまる。

 ここ数年、スマホ業界は2020年に菅政権からの圧力によって行われた「官製値下げ」により、体力的に大きなダメージを追ってきた。しかし、値下げによる減収も一段落したキャリアが相次ぎ、次の戦略をようやく打てるタイミングに来たのだ。

 また、世間的には円安やウクライナ情勢によって、電気やガス、さらには物価高騰により、あらゆるものが値上げとなっている。キャリアにとってみても、基地局などのネットワーク設備を運用するには「電気」が必要であり、電気代高騰の影響をもろに受けている。

  1. 「値上げしてない感」のサブブランドと「お得感」のメインブランド
  2. 新NISAも焦点に
  3. ドコモと楽天モバイルはどこまで挽回できるか

「値上げしてない感」のサブブランドと「お得感」のメインブランド

 キャリア関係者からは「携帯電話会社だけ値上げが許されない空気感はどうかと思う」と愚痴がこぼれる中、サブブランドである「UQモバイル」や「ワイモバイル」が、料金プランの改定を実施。ようやく、データ容量を上げてお得感を出しつつも、支払額も上げるという「値上げ」にシフトしつつある。各キャリアともクレジットカード払いや家族割引などを組みあわせることで、なんとか従来と変わらないような支払額を維持することで「単純に値上げしてない感」を出すのに必死と言った感じだ。

 一方、メインブランドにおいては「金融経済圏との融合」が料金プラン改定のテーマとなっていた。

 例えば、「au」の新料金プラン「auマネ活プラン」は、「auじぶん銀行」や「auカブコム証券」、さらには「au PAYカード」などを使うことで、ポイントの付与や普通預金金利が上がるといった金融商品との組み合わせで「お得感」を出そうという立て付けだ。

サービス利用特典 サービス利用特典
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 また、「ソフトバンク」では、「PayPay」の還元率が上がる「ペイトク」を始めている。

 PayPayはすでに国内で6100万ユーザーを抱える、国民的な「スマホ決済サービス」となっている。NTTドコモやauユーザーでもPayPayを使っている人は多く、そうした他社ユーザーをソフトバンクに呼び寄せようという狙いがあるとされている。

10月開始の新料金プラン「ペイトク」 10月開始の新料金プラン「ペイトク」
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 KDDIとソフトバンクが金融商品を絡めた料金プランにシフトしている背景にあるのは、ユーザーが銀行や証券などの口座を持てば、携帯電話の契約を辞めにくくなり、解約率が下がるようになるからだ。ユーザーを「囲い込む」という点において、金融商品の効果は絶大なのだ。

新NISAも焦点に

 もうひとつ、KDDIとソフトバンクが金融に注力している理由としてあるのが、2024年から始まる新NISAだ。

 国を挙げて「貯蓄から投資」へのシフトを進める中、KDDIとソフトバンクにはそれぞれ証券会社とクレジットカードが存在する。

 しかも、全国にキャリアショップがあるため、「新NISAに興味があるけど良くわからない」という人に対して、キャリアショップで勧誘しつつ、クレジットカードで投資信託を証券口座に積み立てさせるという流れを作ることが可能だ。

 しかも、1度、NISA口座を証券会社に作ると、他の証券会社に口座を変更するというのがとても面倒な状況になる。つまり、新NISA口座を作ってもらえば、それだけで一生といっていいぐらい、経済圏に囲い込むことができてしまうというわけだ。

 KDDIとソフトバンクがこぞって金融と融合した料金プランを投入し、新NISAにデビューさせようと腐心しているのも納得というわけだ。

ドコモと楽天モバイルはどこまで挽回できるか

 一方、金融との囲い込みで、やや出遅れてしまった感があるのがドコモだ。

 ドコモでは、これまでは、すでに1000万枚の発行枚数を誇る「dカードGOLD」が圧倒的に強い存在だったものの、銀行や証券などに対しては及び腰だった感がある。

 ドコモでは2020年に「ドコモ口座」で不正利用問題を起こしたことで、ユーザーのお金を預かることに消極的だったとされている。

 しかし、世間的に新NISAの機運が高まる中で、10月にマネックス証券に資本参加すると発表。2024年1月に新会社を設立して、ドコモユーザーの新NISA口座への取り込みを急ぐ構えだ。

両社は10月に資本業務提携 両社は10月に資本業務提携
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 ただ、マネックス証券はあっても、ドコモには「銀行」がない状態だ。ユーザーとしても、まずは銀行に口座を持って、スマホ決済やクレジットカードの支払い、さらには証券会社に口座を持つという流れが自然だ。ドコモとしても早期に銀行を手に入れる必要があるだろう。

 また、ドコモに関しては、2023年にようやくデータの低容量プランとなる「irumo」を始めたばかりだ。

 KDDIやソフトバンクは早めにUQモバイルやワイモバイルを始めていたこともあり、通信料収入の落ち込みも早い段階から起きていた一方で、2023年あたりからようやく通信料収入の落ち込みから回復する兆しが見えている。

 一方、ドコモはirumoを始めたことで、これから通信料収入の落ち込みがやってくると予想される。昨今のネットワーク品質の低下により、ユーザーの解約も相次いでいると思われる。MNPでも苦戦を強いられているなど、契約者数さらには一人あたりの通信料収入のダブルで厳しい状況に突入することになりそうだ。

 第4のキャリアである楽天モバイルは、KDDIとのローミング契約を見直したことで実現した「最強プラン」により、契約者の獲得は順調に数位している模様だ。直近でも月間20万ペースを維持しており、楽天モバイル 代表取締役会長の三木谷浩史氏は、「特に法人契約が好調」という。

6月に開始した「最強プラン」 6月に開始した「最強プラン」
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 もともと、金融経済圏の囲い込みにおいては、楽天グループは他社よりも先を走っている。実際、楽天証券は新NISAがブームになっているということもあり、口座数で1000万を突破するなど勢いがある。

 本来であれば、楽天証券で新NISAをやっていると、楽天モバイルの通信料がさらにお得になるといった料金プランを展開できるのが理想だ。

 しかし、楽天モバイルに対する設備投資によって、楽天グループは社債の償還が迫っている。楽天証券に対してみずほ証券から追加の出資を受けるなど、今後、どこまで楽天経済圏での連携を図っていけるかが不透明だ。

 KDDIとソフトバンクが反転攻勢をかける中、ドコモと楽天モバイルがどこまで挽回ができるかが、2024年の注目ポイントといえそうだ。

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