企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発に通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。現在は、森ビルが東京・虎ノ門で展開する大企業向けインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」に入居して新規事業に取り組んでいる注目の方々を中心にご紹介しています。
今回のインタビューイーは、セブン銀行 セブン・ラボ 調査役 山方大輝氏です。山方さんは、セブン銀行でアクセラレータープログラムを担当し、ATMを活用したNFT募金キャンペーンなどの新しい事業を次々と手掛けています。新規事業を支援する現在の山方さんを形作った、前職での幅広い経験と、現在の職域についてうかがいました。
角氏:まずは山方さんがセブン銀行に入社するまでの変遷を伺えますか?
山方氏:私は和歌山県の田辺市で生まれ、大学進学で大阪に出て、その後SMBC日興証券にリテール営業の職種で入社しました。研修後の赴任地発表時になかなか名前が呼ばれなかったので、「ひょっとして東京の本社勤務もあるか!?」と期待していたのですが、結局宮崎県の支店に配属されまして、そこで2年半くらい“個人のお客様向けのいわゆる証券会社の営業”をやっていました。
角氏:ああ、分かります。肩に受話器を挟んで電話をかけまくる、いわゆる昭和の営業ですね(笑)
山方氏:はい(笑)。毎日100件くらい電話をし、それでもだめなので、いわゆる飛び込み営業をしていろいろな方にお会いしました。そうした中で、地元では有名な事業会社の経営者の方々とのお付き合いをさせていただく中で、学びがたくさんありましたね。
角氏:うんうん。
山方氏:そこから丸の内の本社に来て。4年くらい本社で個人投資家のお客様向けのリサーチ、エコノミスト、アナリストの仕事をやっていました。
角氏:その時はどのようなことを?
山方氏:最初は国内株式の調査チームにいて、そこからいろいろあって為替・金利・マクロ経済などを調査しているエコノミストのチームに移りました。おかげで個別の会社の財務諸表の見方、内外株、マクロ経済の指標の読み方や分析の仕方まで、幅広い視点が持てました。
角氏:いろいろとどんなことがあったのですか?
山方氏:実は異動して半年経たないくらいでミスをしてしまい、しばらくレポートを書くなという禁止令を出されてしまったんです。
角氏:なんと!
山方氏:それでお前は外に行け!勉強してこい!と言われ、自分で何かネタがないかなと探して。その時には、わたしもよく知るスタートアップが上場したりと勢いのあるタイミングだったんですね。そういう時に半年「外に行け」と言われて、はじめの3カ月くらいずっと、各省庁の有識者会議の傍聴や展示会、カンファレンスに参加していました。省庁の会議では、ポスト5GやIoTの話をしていたのですが、IoTといいつつ実態は害獣駆除の話であったり、バズワードもふたを開けて実用化されているものというと、まだこのくらいのレベルのものなのか、と思って聞いていたことをよく覚えています。
その後、レポート作成に復帰したときに、国内の株式調査に戻るかと思いきや、別の部でレポート以外の企画全般をする人が欲しいということで、部長直下のエコノミストのチームに移ったんです。それでそこからはレポートの書き方を学びつつ、他の業務もしつつ、総務部的な仕事もやりましたね。レポートを書く以外の業務はほぼ私みたいなかたちでした。
角氏:面倒くさいことをいっぱいやってきたということですね。でもそれは一番成長するパターンですね。僕もそれをやっていたからわかります。
山方氏:そこでフィールドワークや面倒なことをやった経験が、振り返ると血肉になっていると折々で感じます。ほかにも、通常リテールの営業だけに携わっていると参加する機会がない決算の取材にも行かせてもらえて、株式アナリストたちと並んで年間100社以上の取材話を聞きしました。そこで、理解ができるビジネスの範囲が広がったというか、手触り感が持てるようになったんです。そこでもいい経験をさせてもらえたと感じています。
角氏:絶対にいいですね。自分の仕事以外のところでたくさん引き出しを増やしておくと、外に行ったときに武器になる。チョンボしてよかったですね(笑)
山方氏:実は他にも、決算の金額を一桁間違えて差損金処理で退職しないといけないラインを踏み越えそうになって冷や汗をかいたこともありました(笑)
角氏:そういった地道な作業や外部の人との接し方、情報の取得など、そこで自分の引き出しを増やす経験があったことが、今のオープンイノベーションのスペシャリストという形で生きているんでしょうね。ではSMBCにいた時に、セブン銀行を受けようと思った理由は?
山方氏:2019年くらいに、フィンテックブームと同時並行でAIが盛り上がっていて、AIが作ったアウトプットの中身を見た時に、私はもう追いつかれたなと感じたんです。考察をしてファクトをまとめるというレベルだと、もう人が要らなくなるなと。
角氏:リサーチをしてファクトをまとめてホワイトペーパーを作るみたいな。
山方氏:例えば、その日の相場を説明する文章を作成するなど、ファクトをまとめるのは労力がかかる大変な作業だったのですが、「ここまで置き換えられるのか」と衝撃でした。そもそも自分がとびぬけてすごいレポートを書ける訳でもなく、仕事の価値にだんだんと疑問を持ち始めたところで、その時にたまたまセブン銀行が中途向けにワンデイのインターンシップを開催していて、面白そうだと思って参加したんです。/p>
角氏:中途向けのインターンシップなんてあるんだ、知らなかったです。
山方氏:その際に新規事業のワークショップをやっていて、その後の懇親会でたまたま当時の人事部長とお話する機会があり、「うちに来ない?」と言ってくださったので、「ぜひ、いきたいです!」と返事をしました。リップサービスくらいのものかなと思っていたのですが、数日後に連絡が来て。それで今のセブン・ラボ部と、戦略事業部という2つの部署のどちらがいいかと打診されて今のセブン・ラボ部を選び、2020年9月からセブン銀行でのキャリアが始まりました。
角氏:セブン・ラボ部はどんなことをしているのですか?
山方氏:部署の成り立ちについては、2016年に当時「おじさん5人衆」といわれた尖った人たちがいて、彼らがセブン・ラボ部を作りました。ちなみにそのメンバーの1人が、現社長の松橋正明です。元々は第2創業期を担う出島的に作られた部署で、新規事業開発やカルチャー変革に取り組んできました。その過程でCrewwに出会い、外部企業とのオープンイノベーションによるアクセラレータープログラムに取り組み、社内からの起案公募と社外企業との協業という両軸で事業創出に取り組んできました。
スタートアップ企業のみなさんとご一緒するので、出資の機能も備わっています。私が入社したときラボには、戦略事業部と協力することで、「出資」や「ビジネスの種を事業化する」という機能がすでに備わっていました。そのような中でジョインした直後に、「山方さん、アクセラやってね。よろしく」と。
角氏:ちなみにそれまでは、アクセラレータープログラムを運営するイメージはついてないわけですよね。
山方氏:微塵も(笑)。そこでCrewwさんとお話をさせていただいて、スタートアップとの付き合い方を伺い、過去のアクセラプログラムとその時のやり方を教えてもらって、何となく手触り感を得られるようになりました。あとは知見がある人も周りにいたので、助けてもらいながら当時同じ部署で年次が近かった3人が中心になって取り組みました。
角氏:今ラボ部には何人くらいいるんですか?
山方氏:今は戦略事業部とラボ部が一緒になったので、15人くらいですね。私の入社当時は5人くらいで、厳密に言うと同じ部の中にもう一つ組織があったのですが、そちらは事業共創というよりは、AI・データ推進チームで全然違うことをしていました。
角氏:オープンイノベーションチームの方は5人でかなり工数がかかることをやっていて、実際のところ大変だったのでは?
山方氏:大変でした。特にアクセラプログラムの一周目は私自身が手探りで。Crewwさんにも入っていただき、適宜、相談に乗ってもらいながら頑張って回す感じでしたね。ただ採択企業様との取り組みや、応募いただいた企業様との協業案が今に繋がっている部分も大きく、広がりを感じました。
後編では、山方さんが手掛けられた数々の取り組みと、セブン銀行の新規事業開発マインドについて伺います。
セブン銀行【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス