7万2000円した「電話加入権」を巡る誤解と現状--NTT法めぐりSNSで不満が再噴出

 NTTと携帯3社(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)が激しく対立している「NTT法」見直しの議論。戦いの場がSNSの「X」(旧Twitter)に移ったことで、以外なところへ話題が飛び火した。それが「電話加入権」だ。NTT広報室の投稿に対して「電話加入権」への恨み節をつづった返信が多く見られたのだ。

  1. 電話加入権とは
  2. 支払っていたのは「施設設置負担金」
  3. 不満が残っているのは確か

電話加入権とは

 電話加入権とはその名の通り、固定電話を契約した人が電話サービスの提供を受ける権利だ。

 かつては多くの人が、NTTの固定電話を契約するのに電話加入権を購入する必要があった。日本電信電話公社が民営化してNTTが設立された1985年当時の加入権は7万2000円(税別、以下同)であり、2005年には3万6000円に値下げされたが、かなり高額なことに変わりはない。

 一方で電話加入権は非常に高額だっただけに、かつてはその権利を売買する市場も存在するなど、実質的に一定の財産的価値を持っていた。だが携帯電話や、電話加入権の必要がない光IP電話サービスの普及によって固定電話のニーズ自体が減少し、その価値は激減した。また、NTT東西もその価値を保証していなかった。

 現在の価値を示す例として、国税庁のWebサイトで「取引相場のある加入権以外の電話加入権」の標準価格を確認すると、2014年から2020年までの標準価格は1500円とされている。なお、翌2021年には相続税等の申告時における電話加入権の扱いが変化し、既に電話加入権の取引相場が存在しないこと、1回線当たりの額が非常に低位な金額であることなどから評価自体がなされなくなっている。

国税庁の財産評価基準書路線価図・評価倍率表より。電話加入権の評価は2020年時点で1500円とされているが、それ以降は価値の低下などによって標準価格の提示自体がなくなっている
国税庁の財産評価基準書路線価図・評価倍率表より。電話加入権の評価は2020年時点で1500円とされているが、それ以降は価値の低下などによって標準価格の提示自体がなくなっている

 「かつて高額な料金を支払ったにもかかわらず、現状その価値がほぼなくなってしまっている」そうしたことに不満を抱く人、とりわけ7万2000円の時代に加入権を購入した人達が少なからず不満を抱いていることは確かだ。実際XでNTT広報部が競合3社に反論した際にも、XユーザーからはNTT法だけでなく電話加入権への恨み節の声も少なからず見られた。

支払っていたのは「施設設置負担金」

 ただ、電話加入権に関しては誤解も少なからずあるようだ。実はここまでの説明も、あえて多くの人が抱いている誤解を交え、一部誤った内容としていることをご了承頂きたい。

 ではどこに誤解があるのかというと、電話加入権を買うためにお金を支払ったのではなく、固定電話を新規契約する際に求められる「施設設置負担金」を支払っていたという点だ。民営化当初は「工事負担金」という名称だった。つまりNTT東西の固定電話は、施設設置負担金を払わないと電話加入権が得られないサービスだったわけだ。

 NTT東西のWebサイトによる説明では、「お客様がお支払いいただいた額(施設設置負担金)を加入者回線設備の建設費用から圧縮することにより、月々の基本料を割安な水準に設定することでお客様に還元している」という。

 毎月の料金を低廉化することで顧客には還元しているから、解約時に施設設置負担金を返金しないというのがNTT東西の方針であり、電話加入権の価値を保証していないのもそのためだろう。

NTT東日本の2004年のプレスリリースより。NTT東西の交換局から顧客の宅内までの加入者回線を敷設する費用の一部が、電話加入権で支払われた料金で賄われているという
NTT東日本の2004年のプレスリリースより。NTT東西の交換局から顧客の宅内までの加入者回線を敷設する費用の一部が、電話加入権で支払われた料金で賄われているという

 にもかかわらず電話加入権が価値を持ち、売買がなされていたのはなぜか? というと、先にも触れた通り施設設置負担金を支払わなければ電話加入権が得られない仕組みだったからだろう。固定電話を引きたいが施設設置負担金は高すぎるので、電話加入権を安く譲って欲しいという人が多くいたからこそ、それを売買する市場が成立していたわけだ。

 ただNTTの固定電話網は年を追う毎に整備が進む一方、通信自由化による施設設置負担金を必要としない競合固定電話サービスの台頭、更には携帯電話の普及が進むことで需要自体が減少。にもかかわらずNTT東西が7万2000円もの施設設置負担金を徴収することに疑問や不満を抱く声が増えていった。

 そこでNTT側も顧客の負担を減らすべく、2002年には「加入電話・ライトプラン」の提供を開始している。これは基本料や通話料に加えて施設設置負担金に相当する金額(サービス開始時は640円)を毎月徴収する仕組みで、初期費用が少ないこともあって提供後はほとんどの顧客が加入電話・ライトプランを選ぶようになった。

サービス開始当初の「加入電話・ライトプラン」の概要(NTT東西の2002年のプレスリリースより)。通常の基本料に、施設設置負担金に相当する640円をプラスして初期費用負担を抑える仕組みとなっている
サービス開始当初の「加入電話・ライトプラン」の概要(NTT東西の2002年のプレスリリースより)。通常の基本料に、施設設置負担金に相当する640円をプラスして初期費用負担を抑える仕組みとなっている

 だがそれでも、価値が減少し続けるにもかかわらず高止まりが続く施設設置負担金に対する不満は大きく、NTT東西も見直しを迫られたことで2005年には施設設置負担金が3万6000円に引き下げた。

 その後は携帯電話サービスの更なる利用拡大や、光ブロードバンド回線の普及に伴う光IP電話の普及などによってメタル回線の固定電話自体利用者が激減し、あえて固定電話を契約・利用するのでなければ、施設設置負担金を気にする必要はすでになくなっている。

加入電話の施設設置負担金の変遷(NTT東日本の2004年のプレスリリースより)。実は長い歴史がある施設設置負担金だが、2005年に現在と同じ3万6000円となっている
加入電話の施設設置負担金の変遷(NTT東日本の2004年のプレスリリースより)。実は長い歴史がある施設設置負担金だが、2005年に現在と同じ3万6000円となっている

不満が残っているのは確か

 だがNTT側の狙いがどうあれ、かつて固定電話を使うために高額な初期投資が求められた一方、その価値がほぼなくなってしまったこともあって、施設設置負担金を支払った人達の不満が現在も残っていることは確かだ。

 しかもNTT側は毎月の料金を低廉化するために施設設置負担金を徴収していたとしているが、日本の固定電話料金が世界的に見て安かったかと言われれば、決してそうとは言えなかった実態もある。

 そうしたことから長年にわたって不満がくすぶり続ける電話加入権、ひいては施設設置負担金なのだが、それを徴収して全国にメタル回線を整備してきたNTT東西は、現在そのメタル回線の利用減による巨額の赤字に苦しんでいるのが実状でもある。それだけに支払った料金が何らかの形で顧客に戻ってくることも、やはり期待できないというのが正直な所だ。

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