ヤンマーがコンポスター事業にかける資源循環サイクル実現に向けた思い

 テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏をパーソナリティに迎え、CNET Japan編集部の加納恵とともに、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。

 ここでは、音声番組でお話いただいた一部を記事としてお届けする。今回ゲストとして登場いただいたのは、ヤンマーホールディングス イノベーションセンタープロトタイプ開発部コンポスタグループの中山法和氏。食料廃棄物を適切に処理して農地に返す、コンポスター事業について聞いた。

ヤンマーホールディングス イノベーションセンタープロトタイプ開発部コンポスタグループの中山法和氏
ヤンマーホールディングス イノベーションセンタープロトタイプ開発部コンポスタグループの中山法和氏

加納:中山さんが所属されているコンポスター事業の業務内容を教えてください。

中山氏:ヤンマーホールディングスでは、ブランドステートメントに「A SUSTAINABLE FUTURE」を掲げ、持続可能な資源循環社会の実現に向けて取り組んでいます。その中で、食料生産、消費の過程で発生する廃棄物を循環させるためのいわゆる静脈ソリューションとして取組んでいるのが、コンポスター事業になります。

大野氏:なるほど。発生した食品残渣をどのように処理しているのですか。

中山氏:処理に用いているのが、ヤンマーが開発したバイオコンポスター「YC100」です。 機械に投入した残渣を細断し、中身を均一にした状態で乾燥。なかの微生物が働きやすい環境に整え、堆肥の素を作ります。

大野氏:細断、乾燥、微生物などいろいろな技術的要素が詰まっていますが、ヤンマーの強みを活かしている部分というのは。

中山氏:私たちは産業機械の開発から販売までを手掛けており、その中で培った独自の技術を活用しています。1つ目が攪拌技術です。トラクターの耕うん技術を応用したロータリー方式でむらなく撹拌し、安定した槽内環境を維持しています。2つ目が、ADI(Air Direct Injection)技術です。内容物に対してタイミングよく温かい空気を吹き付けることで乾燥効率を向上させ微生物の働きやすい環境を整えています。

処理1時間後(左)、処理24時間後(右)。食品残渣を「YC100」で処理した様子
処理1時間後(左)、処理24時間後(右)。食品残渣を「YC100」で処理した様子

大野氏:方法はさまざまあると思うのですが、やはりADI技術が、微生物を活発動く環境作りには最適だったということですか。

中山氏:そうですね。従来のコンポスターでは槽内に空気を引き込むタイプが主流でしたが、YC100では外気を加温した後、槽内に圧力をかけて押し込みます。 今回攪拌している残渣に直接、空気が届くことで、好気性発酵が促されます。

 微生物の分解には好気性発酵と嫌気性発酵の2種類があり、嫌気性発酵では内容物に多く水分が含まれたままのため、発酵時に強い臭気を発生させることがあります。それを防ぐためにADI技術で酸素を十分に行き渡らせる必要がある。トラクターの撹拌技術とADI技術、この2つの技術を組み合わせ、好気性発酵しやすい状態を作り上げました。

 加えて、槽内を最適に制御するシステムも取り入れています。例えば、内容物の入れすぎで上手く分解されないことを防ぐため、投入した残渣の重量を自動計測し、適正な量をお知らせする。入れる量は日々変わるというお客様もいらっしゃいますので、それに応じて出力を変更し、適正な処理ができるようにしています。これにより、電気代の節約にもつながっています。

加納:実際、どのような場所で利用されているのですか。

中山氏:今までの実績としては、食品加工会社が最も多く、ショッピングモールや地方自治体などへの納入実績もあります。食料残渣は食べ残しはもちろんですが、食品加工時や、農家でも出てきます。導入できる場所はまだまだたくさんあると考えています。

大野氏:1日にどのくらいの食品残渣を処理できますか。

中山氏:現在販売しているバイオコンポスター「YC100」は、1日あたり100キログラムの食品残渣の処理が可能です。この容量はスーパーマーケットで1日にでる食品残渣から導きだした数値で、これを1つの基準にしています。

バイオコンポスター「YC100」
バイオコンポスター「YC100」

大野氏:こちらをベースに大きくしたり、小さくしたりとラインアップの拡大も考えられますか。。

中山氏:そうですね。展示会などに出展すると、さまざまなご要望をいただきます。お客様の幅広い事業形態に対応できるようラインアップの拡大は今後検討していきたいと考えています。

加納:ヤンマーと聞くとトラクターのイメージが強いですが、そもそもこの事業に取り組まれたきっかけは。

中山氏:先述した通り、ヤンマーは「A SUSTAINABLE FUTURE」をブランドステートメントに掲げていますが、持続可能性と考えた時に、ものを大量消費するのではなく、使ったものをもう一度再利用する流れを作ることが重要だろうと考えました。私たちがお付き合いのあるお客様は農家の方が多く、みなさん食品を取り扱っていらっしゃる。その食品の部分で資源循環できないかとの思いが、この事業のスタートです。

大野氏:開発するまでにはかなりのご苦労があったのではないでしょうか。

中山氏:コンポスターは微生物が相手になりますので、機械をよくすれば、すぐに結果がでるものではありません。言ってしまえば、中身は人間のお腹と一緒なので、状態がよければ順調に消化が進み、崩れるときは一気に崩れる。良くなる時は徐々に回復するといった具合で、結果が出にくく、そのあたりは苦労しましたね。開発には約2年弱の期間を費やしました。

加納:新規事業開発ということですが、約2年の開発期間の中で、一番時間がかかったのは。

中山氏:実は、新規事業ではあるのですが、約20年前に生ゴミ処理機に取り組んだ時期がありまして、諸先輩方がやってきた技術を継承した部分が一部あります。その時の課題を一から見直して、今回の製品が出来上がっています。その課題の見直しに一番時間がかかりました。

ヤンマーが目指す「資源循環サイクルモデル」のイメージ
ヤンマーが目指す「資源循環サイクルモデル」のイメージ

 下記の内容を中心に、音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」で、以下のお話の続きを配信しています。ぜひ音声にてお聞きください。

  • コンポスターの市場提供に向けた課題と改善に向けた取り組み
  • 農家の収益を上げるために、肥料から考える
  • 農地から食卓まで、幅広い食品廃棄物を「未利用資源」と捉えて有効活用






大野泰敬氏


スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー


事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。



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