テクノロジーを活用して、ビジネスを加速させているプロジェクトや企業の新規事業にフォーカスを当て、ビジネスに役立つ情報をお届けする音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」。スペックホルダー 代表取締役社長である大野泰敬氏をパーソナリティに迎え、CNET Japan編集部の加納恵とともに、最新ビジネステクノロジーで課題解決に取り組む企業、人、サービスを紹介する。
ここでは、音声番組でお話いただいた一部を記事としてお届けする。今回のゲストとして登場いただいたのは、地域資産の調査、研究を通じて、地域の魅力を再発見する地域循環型ミライ研究所 所長の飯塚智氏。NTT東日本として、地域と密に関わりながら、地域の資産と人をつなげていくという新たなチャレンジについて聞いた。
加納:地域循環型ミライ研究所は、どのような事業を展開されているのでしょうか。
飯塚氏:研究所という名前からもわかるとおり、シンクタンクです。もっと言うと、地域シンクタンクと呼んでもらうのがいいかもしれません。日本各地にあるさまざまな資産や資源、地域の魅力をいかして、新たな価値創造を働きかけています。
具体的には、地域の魅力を調査したり、いろいろな技術を持った方、地域で活躍されている方など、キーマンのネットワーキングをしてレポートを作成したり情報発信をしています。場合によっては提言、提案、コンサルティングもしますが、できればコンサルティングにとどまらず、地域を元気にするような、社会実装の伴走をしていきたいと思っています。地域循環型社会をともに作っていこうとしている組織です。
大野氏:魅力を調査していくとのことですが、地域の資産にはどういったものがあるんでしょうか?
飯塚氏:いちばんわかりやすいところで言うと、世界遺産になるような自然があります。でも、まだ発見されていないような、地域の人でも価値に気づいていない自然、あるいは自然をベースとして育ってきた文化や食もあります。文化芸術、たとえばお祭りとか、特産品などもそうですね。地域の自然風土から、歴史に裏打ちされて育ってきた文化や食などが資産です。
大野氏:そういったものを発掘したり、調査したり、研究されているんですね。こういった調査はデジタルでやっていくのは難しい気がしますが、どのようにして地域の文化や食を発掘しているんですか?
飯塚氏:ウェブの世界から情報を収集するのも基礎調査としてはあるんですが、ご指摘いただいたとおり、やはりそれだけでは本当の魅力は発見できないと思っています。現地に実際に行って、生活している方、活動をしている方を引き込んでいき、ヒアリングをしていくことが大事です。NTT東日本は全都道府県に支店があるので、その支店の社員が見てきたことや聞いてきたことなどの情報も合わせて、地域の魅力を発見しています。
加納:NTT東日本ならではの視点もあると思いますが、かなり地元の方と密着したやりとりが必要になりますよね。地域の方と関係を築くために、どのような工夫をされているんでしょうか。
飯塚氏:幸い、NTT東日本が提供している光ブロードバンド、インターネット接続は、地域にとってすごく身近なものになっています。私自身も新潟県で支店長をやっていた経験があるのですが、NTT東日本で支店長をやっていると、地域のキーマンには会える関係になれるんです。たとえば、県知事や市長、地銀や地元企業の方々ですね。そこは強みだと思います。
大野氏:地域のキーマンと会いやすい環境があるのはとても強いですね。
飯塚氏:そうですね。冒頭でシンクタンクと言いましたが、シンクタンク自体は世の中にたくさんあります。我々の強みは各地域に拠点があり、そこに人がいて、かつ誰にでも知ってもらっている、身近な存在になれているところかなと思います。
大野氏:地域の資産や魅力を最大化するために、これからどのような活動をされていくのでしょうか。
飯塚氏:文化や食や自然がテーマではあるんですが、日本全国となるととても広いので、なかなか網羅的に見ていくことは難しいです。当面は我々が目を付けたエリアや、もしくは支店から具体的に相談をいただいたエリアに対して、その地域に関わっていきたいと思っています。網羅的であることよりは、地域の方々と話をして、少しずつ事例を作っていくところから始めたいと考えています。
大野氏:地域で事業をするとき、いきなり大きなものから手をつけるよりは、まずは小さな成功事例を積み重ねて、信頼を勝ち得ていくのが効果的ということですね。
飯塚氏:おっしゃる通りです。いきなり何かを売りつけようとしても上手くいきません。そういう意味でも、我々は地域シンクタンクと言いましたが、何かコンサルティングをして、そのコンサルフィーをもらって生業を作っていくという組織ではありません。時間をかけて、ロングタームで地域の方々とのお付き合いを増やしていきたいと思っています。
大野氏:コンサルティングで費用をもらわないということは、どこでマネタイズを図っていくんでしょうか?
飯塚氏:我々は通信会社なので、光ブロードバンドだけでなく、さまざまなデジタルソリューションのサービスも提供しています。最終的には、そういったものを地域の皆さんに使っていただきたいというのも、根っこにはあります。ただ、最初からそれを売り込みに行くのでは、地域の方々から支持されません。それありきではない形で、地域を元気にしたいと考えているんです。
そのためまずは、社業を超えて地元の方々とお付き合いをして、地域を豊かにしていく。そこで我々のサービスを使ってもらえなくても、NTT東日本は通信の会社なので、結果として、通信は何かしら使ってもらえるだろうと。そんなふうに考えて、長い目で取り組みを進めていこうと思っています。
大野氏:地域の方々が元気をなくしてしまって、産業や経済が衰退してしまうと、通信を使う人たちも減ってきてしまう。その逆で、地域の方々が元気になれば、通信やその他のソリューションを使う人たちも増えてくる。結果、売上げが上がってくる。そういった感じでしょうか?
飯塚氏:はい、そうです。関連した話でいうと、電話は日本全国で6300万ぐらいの回線が使われていたんですが、今はもう1300万ちょっとに減ってしまっているんです。最盛期の3割未満ですね。人口が減少していくと、こういうところから減っていってしまうんです。
もちろん今は電話ではなく光ブロードバンド、インターネット回線になっているんですが、これも人口が減っていけば、もう伸びなくなってしまいます。しかし地域を元気にすることで、たとえば人と人だけではなく、モノとモノをつなぐIoTのような通信など、回線を増やすことはできなくてもたくさん使ってもらえる土壌を、地域活性化の中で作り上げていきたいと思っています。
大野氏:6300万回線が1300万回線というのはすごいですね。
加納:そうですね、ちょっと驚きました。そんな中で、この地域循環型ミライ研究所が設立された背景を教えていただけますか。
飯塚氏::我々は通信の会社で、通信を通じて世の中の役に立ってきたという自負があります。昔は電話しかありませんでしたが、それが今はインターネットの時代になって、動画や映像も配信できます。ベースにあるのはやはり通信で、我々は社会を変える、経済を豊かにすることに貢献してきたと思っています。しかし、たとえばコロナ禍を乗り越えてみて感じたことは、通信だけではやはり、十分に世の中の役に立つことはできないということです。
そのため、これまでもさまざまなデジタルソリューションにチャレンジしてきました。再生エネルギーや中小企業のDX、ドローン農業、eスポーツを学校の教育に役立ててみたりだとかですね。そんなことを、ここ5~6年にわたってチャレンジしてきました。しかし弱い部分で言うと、地域に根付いている文化や食の領域は、まだ我々の会社があまり手をつけられていなかった部分だなと思ったんです。地域を豊かにしようしたときに、文化や食などの魅力を知らずに、地域を元気にすることはできません。そこで、あえてNTT東日本としては今までいちばん遠かった分野の価値創造に挑んでみようということで、それを専属で取り組む組織を作ってみようと、2023年の2月にこの地域循環型ミライ研究所が設立されたんです。
大野氏:現在、設立されて半年ほど経ちましたが、反響はいかがですか?
飯塚氏:「循環型」や「ミライ」というネーミングのおかげで、NTT東日本らしくないところが珍しがられたのか、メディアや地域で活動されている方から連絡をいただいたり、相談を受けたりということはありました。一方で、何か一緒になってやるという具体的なところまでは、半年の間ではまだ作り上げられていない現実もあります。
大野氏:NTT東日本は現在、農業、再生エネルギー、ドローン、eスポーツなど、本当にいろいろなことを進められています。特にこの2~3年は、地域が抱えている問題を解決していこうという強い意志を、会社として感じます。そのあたりは実際どうでしょうか?
飯塚氏:おっしゃる通りで、強い意志を持って、この世の中の役に立つように、ある意味では戦略的に活動をさまざまな分野に広げています。通信だけではなく、世の中のためになるデジタルソリューションを提供することが、課題先進国の日本にとっては重要です。しかし、それでもやはり文化や食には弱い。そういった背景で設立されたのが地域循環型ミライ研究所です。
大野氏:自然、文化、食の3つがお話に出ていますが、これから重要になってくるのは、それら3つを活かして、観光で地域にどう人を呼び込むかだと思うんです。地域循環型ミライ研究所としては、観光についてはどうお考えですか?
飯塚氏:日本の人口減少は、政府もいろいろな手を打ってはいますが、なかなか止まるものではありません。地域においては、定住人口が増えないとなると、観光による交流人口を増やしていこうとほとんどの地域が考えています。
観光による交流人口を増やしていこうとなると、やはり自然、文化、食は大事なコンテンツになってきます。インバウンドを考えても、クールジャパンを訴えかける意味でも、これらは大変魅力のあるものです。世界遺産のような誰もが知っているものだけでなく、地元の人も気づいていなかった当たり前のものが、実は外国人や他の県の人にとっては魅力的だったりすることがあるかもしれません。そういったものに目を付けて、交流人口を増やすことにつなげる。そんなアウトプットを見据えて活動しようと思っています。
加納:NTT東日本のベースである通信とは、まったく異なるジャンルに挑戦されているところがすごいですね。
飯塚氏:ちょっとした恩返しの意味もあるのかもしれません。コロナ禍を経て、日本人の働き方や生活様式もだいぶ変わってきました。そこで改めて、通信の大切さを見直して、あえて通信とは離れた領域にもチャレンジし、厚みを持たせて地域の役に立っていきたいと思っています。
加納:NTTグループとして、グループシナジーみたいなものはどう活かされていくのでしょうか。
飯塚氏:NTT東日本グループで、ここ3年くらいの間に、農業、再生エネルギー、ドローン、eスポーツ、セキュリティ、中小企業のDXなど、本当にさまざまな会社を作っています。まずは、近年設立したそういった会社のソリューションを地域の方が必要としているときに、すぐに持ってこられるようにしたいと思っています。
ただ、それだけだとソリューションとしてはまだまだ足りないこともあります。そういった際に我々NTT東日本は、特定の系列の企業としか付き合えないような、そういった縛りが意外とないことが強みです。さまざまな人たちと公平に付き合い、誰とでも関係を築きなさいという文化の会社なんですね。グループを問わず付き合っていけるコネクションを持っているので、我々のグループ会社のソリューションはもちろんですが、場合によってはライバル会社のソリューションを持ってくることもあります。それがその地域の役に立つことであれば、自らのグループのサービスだけでなく、いろいろなところから引っ張ってきてつないでいきたいと考えています。
大野氏:ライバルにあたる企業とも連携できるのは、他のジャンルではあまり見られない動きかもしれないですね。
音声情報番組「BTW(Business Transformation Wave)RADIO」では、このお話の続きを配信しています。このあとは音声にてお聞きください。
地域循環型ミライ研究所大野泰敬氏
スペックホルダー 代表取締役社長
朝日インタラクティブ 戦略アドバイザー
事業家兼投資家。ソフトバンクで新規事業などを担当した後、CCCで新規事業に従事。2008年にソフトバンクに復帰し、当時日本初上陸のiPhoneのマーケティングを担当。独立後は、企業の事業戦略、戦術策定、M&A、資金調達などを手がけ、大手企業14社をサポート。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会ITアドバイザー、農林水産省農林水産研究所客員研究員のほか、省庁、自治体などの外部コンサルタントとしても活躍する。著書は「ひとり会社で6億稼ぐ仕事術」「予算獲得率100%の企画のプロが教える必ず通る資料作成」など。
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