総務省の中古スマホ推進が「日本メーカー全滅」を招く可能性--iPhoneとPixel以外淘汰も

 総務省は11月7日、「日々の生活をより豊かにするためのモバイル市場競争促進プラン」を発表した。

 これまで通信料金の値下げを実現しようとモバイル市場の競争促進プランを展開してきたが、2020年の政府による値下げ圧力によって、オンライン専用プランなどが登場し、目的は実現した。

 総務省としても、目的を見失ったものの、何かしらの業務をし続けなければいけないようで、今回、「日々の生活をより豊かにするための」という、とってつけたような枕詞をつけて、議論を継続させていくようだ。

総務省が「中古スマホの流通推進」に注力

 実際にプランを見てみるとツッコミどころが満載なのだが、やはり最も気になるのが「中古端末の流通推進」にやたらと力が入っているという点だ。

 課題として「端末価格が高騰傾向であり、中古端末の需要が増加」しているため、「国民が低廉で多様な端末を選択できるよう、中古端末の更なる流通促進が重要」としている。

「日々の生活をより豊かにするためのモバイル市場競争促進プラン」の中古スマホ流通推進の項目
「日々の生活をより豊かにするためのモバイル市場競争促進プラン」の中古スマホ流通推進の項目

 そもそも、端末価格が高騰しているひとつの理由には総務省の失策があるのではないか。

 確かに円安基調が続いており、海外で製造した製品や部材を調達するためのコストが上がっているのは間違いない。

 しかし、総務省がこれまで端末の割引制限を実施してきたことで、日本メーカーの多くが撤退や事業の見直しを余儀なくされてきた。今年に入っても、京セラが一般向けの製品開発を見直し、一部の高耐久性スマホや法人向けのみに事業を絞るようになった。元富士通のFCNTは民事再生手続きを開始したのち、レノボが支援することが明らかになった。

 こうしたメーカーも、総務省による長きに渡る失策の影響を受けることなく国内工場で製造を続けられていたら、円安の影響を避け、もう少し端末価格を抑えることができたかも知れない。

GoogleのPixelは7年間のOS更新を保証

 製品としての寿命が長い自動車であれば、中古市場を活性化させることは、ユーザーにとってメリットがあるだろう。

 しかし、スマートフォンは、必ずしも長い年月、使うような製品ではない。そもそも、バッテリーは2〜3年でへたってくるし、OSのアップデートもままならなかったりする。

 ここ最近は、かなりの年数、アップデートを保証する機種も現れたが、仮にセキュリティアップデートが3年程度であれば、中古市場に流通した段階で、セキュリティアップデート対象外となっており、ユーザーの個人情報が脅かされることも考えられる。

 日本市場においては、これからスマートフォンにマイナンバーカードを搭載するようになってくる。マイナンバーカードを守れないスマートフォンが中古市場に流通し、国民の生活を脅かすことになってしまいかねないのだ。

 ただ、iPhoneにおいては、長年、OSのアップデートが適用されており、中古市場でもリセールバリューが高く、多くの端末が流通している。

 今年になって、グーグル・Pixel 8/8は「7年アップデート」をアピールし始めた。セキュリティアップデートだけでなく、Android OS自身のアップデートを含んでいる。西暦でみれば2030年10月までとなっており、これだけ長ければ、中古市場でも流通しやすく、リセールバリューも高くなる。まさにiPhoneに対抗する狙いがあると言えるだろう。

 このあたりは、単にスマートフォンのハードウェアだけでなく、Android OSというプラットフォーム、さらにはTensorというチップまで自社で手がける強みが出ているようだ。

 ちなみにサムスン電子「Galaxy」も、フラグシップモデルでは4世代分のOSバージョンアップと5年間のセキュリティアップデートを保証。シャープの「AQUOS sense8」でもOSバージョンアップは最大3回、セキュリティアップデートは最大5年を約束している。

日本メーカーはリセールバリュー競争に太刀打ちできるのか

 メーカー自身が努力し、アップデートを保証するのは素晴らしいことだが、これが国を挙げて中古市場を推進させていくとなると、厄介なことになる。

 国の支援によって国民が率先して中古端末を選ぶようになると、当然のことながら、新品スマホは売れなくなってくる。新品が売れなくなれば、メーカーとしての体力は消耗し、結果として、すでに売っている端末に対してのセキュリティアップデートの提供が難しくなってくる可能性があるのだ。

 サムスン電子などグローバルで展開しているメーカーであれば、体力に余裕があるだろうが、シャープやソニーなど日本国内での販売の割合が圧倒的に大きいメーカーにとっては死活問題だ。

 ユーザーがスマホを選ぶ基準として「アップデート保証が長期間なもの」ということになると、結果として、iPhoneとPixelというプラットフォームとチップを同時に開発している2社のスマホしか残らなくなる。

iPhone 15シリーズ
iPhone 15シリーズ
Pixel 8シリーズ
Pixel 8シリーズ

 結果、「iPhoneかPixelを買っておけば、リセールバリューも高いし、安心」ということになれば、日本メーカーは太刀打ちできなくなるだろう。

 総務省は「日々の生活をより豊かにするためのモバイル市場競争促進プラン」で、またも日本メーカーを窮地に追いやりたいのか。もう、これ以上、日本メーカーがスマホ市場から撤退や見直しをするのは見たくない。

 国民は、海外メーカーだけでなく、日本メーカーなど様々なスマートフォンのなかから、自分にあった、欲しいスマートフォンを選び購入することで「日々の生活がより豊か」に感じられるのではないか。

 国民の選択肢を奪うようなプランは見直していくべきだろう。

(更新)ニュース配信先において記事が冒頭で途切れていた問題を修正しました。

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