日本のマンガやアニメなどのエンタメは世界中で評価される日本有数の産業の一つですが、近年韓国から生まれた縦型のデジタルコミック「Webtoon」も世界で急速に成長しており、米国のAppleやAmazon、日本だとソニーやTBSなど、世界中の名だたる企業が参入しています。そんなWebtoonについて、その成り立ちとマンガとの違いを知ってもらうことで、より理解を深めてもらうべくまとめてみました。
Webtoonとはデジタルコミックの一種で、スマートフォンに最適化され縦型スクロールかつフルカラーであることが特徴です。いま日本のみならず世界中で急成長している新しいエンタメの市場となっています。
Webtoonは、韓国で個人がウェブサイトにアップしていたところから、2000年代にNAVERやDAUM(現カカオ)などの検索ポータルサイトが集客手段として無料の投稿プラットフォームを立ち上げたところから今の原型ができました。つまり最初からウェブ掲載が前提であり、ウェブテキストなどのコンテンツの代替としての存在だったため、縦にスクロールする形が一般化されていきました。
長らくWebtoon=無料でしたが、2010年代中盤に各プラットフォームが導入した「話課金&待てば無料」モデルがヒットし、ビジネスとして確立したことで、ここから一気に成長が加速しました。
日本では、2013年に韓国のNHNグループがComicoをリリースしたことから始まりました。その後、2016年に同じく韓国のカカオグループのピッコマが、待てば無料というビジネスモデルを日本市場向けに導入したことで、日本でもWebtoonが拡大し始めました。そして2020年に人気作品「俺だけレベルアップな件」の月間売上が1億円を突破したというニュースから参入企業が一気に増え、ビジネスシーンにおいて一気に盛り上がりはじめました。もう一つ、Netflixで世界的にヒットした「梨泰院クラス」はじめ、多くの韓国ドラマの原作がwebtoonであったことも、各大手エンタメ企業の業界参入の要因の一つになったと感じています。(詳細は次稿にて)
Webtoonの配信プラットフォームとして、日本では上述のピッコマに加え「LINEマンガ」が強く、「めちゃコミ」、「シーモア」などの各社がも注力している状況です。なかでもピッコマは、「モンスト」や「ウマ娘」といったゲームタイトルを抑え、2023年上半期に日本で一番消費者が支出したアプリとなっています。
世界で見るとWebtoonは韓国や日本のみならず、中国や東南アジア、さらには北米やヨーロッパ、インドなど世界中で着実に広がっており、米国の巨大エンタメ企業であるDCコミックスやマーベルなどもWebtoonに参入しています。またマンガ界のアカデミー賞と呼ばれるアイズナー賞の「ベストウェブコミック賞」に、米国発のWebtoonである「ロア・オリンポス」が2年連続選ばれました。Webtoonの世界の市場規模は2022年時点では37億米ドルですが、2029年までに275億米ドルの市場規模になると予測され、世界のマンガ市場を超えると予測されています。
Webtoonは一見「マンガを縦に並べてカラーにしたもの」と見られがちで、特に日本においては、いまだ新しいエンタメのジャンルと捉えられていないのが現状です。しかし、例えば小説とラノベは「テキストコンテンツ」としては同じですが、ユーザーが期待することが異なるため、それにともない内容も、作り手に求められることも明確に異なります。それと同じことが、マンガとWebtoonの違いとして言えると私は考えています。
Webtoonはマンガと異なり、スマホで読まれることを前提にしているため、最も近い存在は「TikTok」だと考えられています。移動時間や寝る前など細切れの時間にも面白い体験をしたいという、スマホの浸透にともなう巨大なニーズに応えているため、わかりやすく、テンポの良い作品が多い傾向にあります。以前、カカオピッコマの金社長は、Webtoonのことを「スナックコンテンツ」と表現していました。
また制作方法としても、マンガは作家個人で制作すること場合が多いのですが、Webtoonはカラーかつ週刊連載を求められがちなため、アニメのように分業で制作するケースが多いことも特徴です。もちろんマンガのように個人制作しているWebtoonもありますが、特に日本においては、分業形式で作る作品が多い傾向にあります。ネームや線画、着彩などそれぞれの工程において秀でているクリエイターが求められるため、マンガとは異なる才能が活躍する場にもなっています。
マンガは、アニメに比べると世界的に広く浸透しているとは言い難く、世界的に人気があるドラゴンボールやスラムダンクも一般的にはアニメとして認識されています。マンガがアニメほど浸透していない要因の一つとして、漫画の独特の表現が挙げられます。幼い頃からマンガに慣れ親しんでいると違和感ありませんが、マンガにはコマを読む順番等の独特の作法があり、外国人が読むハードルになっています。最近では日本人でもマンガが読みにくい感じている若者も増えているそうです。もう一点は、マンガは基本白黒であることもハードルの一つとしてあります。現代においてはあらゆるジャンルを見渡しても、白黒のエンタメはマンガ以外に見当たらず、普段マンガを見慣れない外国人にとっては、「白黒の漫画」は「白黒テレビ」くらい見るハードルがあるそうです。
カラーであり、縦にスクロールすれば直感的に読むことのできるWebtoonは、上述のマンガが持つ課題を解決しており、世界でマンガ以上の市場になる可能性を持っていると考えられています。
そのようなハードルを抱えていても、マンガ読者は今も世界で増え続けており、改めて日本のマンガが持つコンテンツ力にはただただ驚かされるばかりで、本当に面白ければ表現方法は関係ないと感じます。ただ逆に言えば、マンガで培った日本のコンテンツを生み出す力を、世界中の人がより親しみやすいフォーマットで表現すれば、今以上にたくさんの人に届けられる可能性があります。
日本には“面白い”を創る力が蓄積されているからこそ、世界に広がるフォーマットであるWebtoonの成長は、日本にとって大いなるチャンスだと思っています。次回は日本国内での動向についてお話します。
中川元太
株式会社Minto 取締役
2010年に大手インターネット広告代理店に新卒入社。札幌営業所長を経て、2013年より漫画アプリ「GANMA!」の運営会社の創業メンバーとして漫画編集チームとアプリマーケチーム等を立ち上げる。2016年にSNSクリエイターのマネジメント会社・株式会社wwwaapを創業。2022年に株式会社クオンと経営統合し、株式会社Mintoの取締役に就任。
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