携帯事業回復で増収増益のKDDI、金融連携により重点--NTT法は「廃止より改正」

 KDDIは11月2日、2024年3月期第2四半期決算を発表。売上高は前年同期比1.4%増の2兆7789億円、営業利益は前年同期比0.2%増の5603億円と、増収増益に転じている。

決算説明会に登壇するKDDI 代表取締役社長CEO 高橋誠氏
決算説明会に登壇するKDDI 代表取締役社長CEO 高橋誠氏

 同日に実施した決算説明会に登壇した、代表取締役社長CEOの高橋誠氏によると、楽天モバイルからのローミング収入減少が依然続いているほか、金融事業が一時的な会計処理の影響を受けているという。しかし、政府主導の料金引き下げ要請によってマイナスが続いていた、主力の通信事業がようやく回復。加えて金融やビジネス、エネルギーなどの注力事業が好調に推移したことにより、増益に転じることができたという。

通信事業の回復に加え、金融やビジネス、エネルギーなどの注力事業の伸びによって増益を達成している
通信事業の回復に加え、金融やビジネス、エネルギーなどの注力事業の伸びによって増益を達成している

 とりわけ大きなポイントとなるのは、通信事業である。実際、マルチブランド通信ARPU収入は前年対比で前四半期までマイナスが続いていたが、今四半期では37億円のプラスに転換。「au」「UQ mobile」「povo」のマルチブランドID数は前年同期比で28万増の3094万と増加が続いているほか、サブブランドのUQ mobileでも中・大容量プランを選ぶ割合が増えているとのことで、一連の動きが業績改善に寄与しているという。

マルチブランド通信ARPU収入は前年対比でついにプラスに転換。政府主導による携帯料金引き下げの影響をようやく抜け出したといえる
マルチブランド通信ARPU収入は前年対比でついにプラスに転換。政府主導による携帯料金引き下げの影響をようやく抜け出したといえる

 高橋氏はARPUに関して、「もうちょっと伸びてもいいと思うが、反転の方に来たのは非常にいいこと」と話す。高校野球のライブ配信「バーチャル高校野球」が大きな盛り上がりを見せたことから、「高校サッカー」や「春高バレー」など学生スポーツのライブ配信をパートナー企業と強化していく方針も示す。大容量通信を必要とするコンテンツの拡充によって「この傾向を続けて右肩上がりの数字を作っていければなと思う」(高橋氏)と語る。

 また、高橋氏は、9月から提供を開始した「auマネ活プラン」が好調な滑り出しを見せているとも説明。auブランドの使い放題プラン「使い放題MAX」を選んだ人のうち、3人に1人がauマネ活プランを選んでいるという。

9月開始の「auマネ活プラン」は好調な滑り出しとのことで、「使い放題MAX」を選んだ新規・機種変更者のうち3人に1人が選んでいるという
9月開始の「auマネ活プラン」は好調な滑り出しとのことで、「使い放題MAX」を選んだ新規・機種変更者のうち3人に1人が選んでいるという

 そのauマネ活プランは、KDDIが力を入れている金融サービスの拡大にも寄与しているとのこと。高橋氏は同プランの提供開始以降、「auじぶん銀行」「au PAYゴールドカード」などの金融サービスに、auショップ店頭で加入する割合が大きく伸びていると説明する。金融と通信の融合によって通信サービスの魅力を高めるとともに、金融サービスの成長を両立させていきたいとしている。

「auマネ活プラン」の影響で、auショップなどの店頭で「auじぶん銀行」「au PAYカード」などに加入する人の割合が大きく伸びているという
「auマネ活プラン」の影響で、auショップなどの店頭で「auじぶん銀行」「au PAYカード」などに加入する人の割合が大きく伸びているという

 その金融事業に関する競合の大きな動きとして、10月4日にNTTドコモがマネックス証券を子会社化したことが挙げられる。高橋氏はこの発表に「正直びっくりした」と話し、ドコモの動きに警戒感を示す。一方、携帯各社が金融事業にここまで力を入れることは他の国ではあまり見られないとし、4社4様の形で各社が金融サービスに力を入れることは「顧客にとっていいことと思う」(高橋氏)とも話す。

 一方で、未だ低迷が続いているのがスマートフォンの販売である。今四半期の端末出荷台数は134万台と、前年同期と比べ20万台減少している。高橋氏は、9月に発売された「iPhone 15」シリーズの販売は好調で、より端末の流動性を高めて5Gの利用率を上げたいとしたが、総務省の動きに懸念材料があるとも話す。

 それは、現在総務省で進められている、新たなスマートフォンの値引き規制に関する議論だ。その議論の中で、通信契約に紐づく端末の値引き額を現在の2万円から4万円に一律で引き上げる案が当初提示されていたが、KDDIらがパブリックコメントでこれに反対したことにより、値引きが一律ではなく端末価格に応じて変化する形へと変更が加えられた。

 高橋氏はこの変更に関して、「転売ヤーが非常に活動しづらい形になるので、これはこれで良かったのかなと思う」と答える。ただ一方で、「実際にはもう少し(端末の)流動性を上げるため、もう少し工夫があってもいいんじゃないか」(高橋氏)と話し、引き続き行政側に何らかを提案していく姿勢を示している。

 また、KDDIの動向を見るとソニー製の「Xperia 5 V」のように、取り扱いがオンラインショップに限定され、実店舗で取り扱わない機種も出てきており、ラインアップの減少が販売台数減少につながっているのではないかと指摘する声もある。この点について高橋氏は「店頭での販売ラインアップを増やすとそれなりにコストがかかり、『減らそうか』という話になるが、そうなると勿体ないのでラインアップをキープしている」と説明。オンラインショップでの販売が好調であれば実店舗で扱う可能性もあるとした。

楽天モバイルのプラチナバンド開設計画は「少し遅い」

 高橋氏は、ドコモの通信品質低下によって昨今注目されている、ネットワーク品質についても言及。従来から注力する、鉄道路線などの生活動線上への5Gネットワークに引き続き注力していく姿勢を見せるほか、従前から顧客の端末ごとの品質データなどを活用し、通信品質改善を進めてきたこともアピールしている。

生活動線に沿った5Gの整備に加え、端末からのデータなどを活用した通信品質対策も進めているとのこと
生活動線に沿った5Gの整備に加え、端末からのデータなどを活用した通信品質対策も進めているとのこと

 高橋氏は、英国の調査会社であるOpensignalの最新調査でも、そうしたKDDIの通信品質に関する取り組みが反映されてきていると説明。ただ、5Gの品質に関しては「ソフトバンクに負けているので何とかしないといけない」と話す。衛星通信との干渉でエリア拡大が困難な3.7GHz帯の改善に向けた動きが進んでいることを機として、5Gの通信品質の大幅な改善を進めたい考えを示している。

 また、他社の動向として、楽天モバイルが新しい700MHz帯を獲得したことに関しては「ある意味、既定路線なので良かったと思う」(高橋氏)と、これによってプラチナバンドを巡る混乱が落ち着くことを期待する様子を示す。一方、楽天モバイルの開設計画において、700MHz帯によるサービスの開始時期が2026年3月とかなり遅いことについて「少し遅いかなと思う」と話す。

 楽天モバイルのプラチナバンドの活用が遅いほど、KDDIのローミング活用が長期化して、売り上げに寄与する可能性が高まる。だが、高橋氏は2023年5月11日に楽天モバイルと締結した新たなローミング協定で、「ある程度プラチナバンド(の割り当て)などを見込みながら契約内容を詰めた」と、状況がある程度変化しても業績が大きく変わることはないと答えている。

 一方で、NTTに対しては、現在見直しの議論が進められている「NTT法」に関して、改めて廃止に反対の意向を示し、政府与党の自民党などに慎重な議論を要求。高橋氏はNTT法の議論に関して「論点がどんどん変わってきている」とし、3つの点に疑問を呈している。

注目されるNTT法の見直しに関して、時代にあった見直しには賛同する一方、NTT法の廃止には反対する姿勢を崩していない
注目されるNTT法の見直しに関して、時代にあった見直しには賛同する一方、NTT法の廃止には反対する姿勢を崩していない

 1つは、NTT法見直しのきっかけとなった政府の防衛財源費確保の話が出てこず、NTTの事業に関する法のあり方が議論の中心になってしまっていること。2つ目は、NTT側が求める研究開発開示の義務が、NTT法の内容を見る限り解釈を変えることで解決できる可能性があること。そして3つ目は、2020年に何の議論もなくNTTドコモの完全子会社化を打ち出した実績があるだけに、NTT法が廃止されれば「グループ統合、一体化の抑止が利かなくなる」(高橋氏)ことだ。

 それだけに高橋氏は、NTT法に関しては政府に慎重な議論をして欲しいと求め、NTTが求める研究開発の開示義務撤廃などを実現するならば、NTT法は「廃止より改正で十分」と話す。一方で、もし政府がNTT法を廃止する前提で話を進めるのであれば、公正競争や固定電話のユニバーサルサービスなど、課題となっている事柄を他の法律でいかに担保するか、丁寧に議論することを政府に要望するとしている。

 なお高橋氏は、昨今注目されている「生成AI」についても言及。同社でも生成AIの業務活用やビジネスの展開などについて取り組みは進めているというが、NTTやソフトバンクのように独自のLLM(大規模言語モデル)を開発することについては、「拙速に事を決めてはいけない」と慎重な姿勢を示す。

生成AIの活用に向けては社内でさまざまな取り組みを進めているというが、LLMの開発についてはパートナー企業との協業で取り組みたい方針のようだ
生成AIの活用に向けては社内でさまざまな取り組みを進めているというが、LLMの開発についてはパートナー企業との協業で取り組みたい方針のようだ

 その上で、高橋氏はさまざまなLLMが登場していることを踏まえ、それを日本に向け適切にチューニングすることが大事だと説明。いくつかの企業から共同でLLMの開発に関する声掛けがあることから、パートナー企業との協業によって取り組む可能性を示唆している。

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