KDDI社長がNTT社長にシカトされている「3つの論点」 --変更か廃止か、NTT法巡り

 NTT法を巡って、通信会社が一触即発のバトルを演じている。

 NTT法を廃止したいNTTに対して、KDDI・ソフトバンク・楽天モバイル連合が「ちょっと待った」と異議を唱えているのだ。

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  1. 防衛費捻出のための株売却に必須なNTT法の変更--縛られるNTTは「廃止」主張
  2. NTT社長に議論でシカトされる「3つの論点」--グループ再統合はある?
  3. 全国の固定電話サービスは維持されるか--現在は赤字
  4. 設備投資額25兆円分「特別な資産」の行方は

防衛費捻出のための株売却に必須なNTT法の変更--縛られるNTTは「廃止」主張

 NTTがNTT法を廃止したいのには理由がある。NTT法に縛られているのだ。

 例えば、研究開発成果を開示する義務がある、社名の変更ができない、さらには取締役を選ぶにあたって規定がある、といった具合だ。

 自民党が、防衛費を増額する上で「NTT株の売却」を検討し始めた。NTT法では政府がNTT株の3分の1を保有するという決まりがあるため、株式の売却にはNTT法を変える必要がある。このタイミングでNTTが「NTT法は廃止すべき」と主張し始めたのだ。

NTT社長に議論でシカトされる「3つの論点」--グループ再統合はある?

 NTT法の見直しを巡って、自民党を筆頭に総務省や通信会社などで議論が進んでいる。しかし、KDDIで代表取締役社長を務める高橋誠氏は、「NTTと議論すると3つの論点が必ず無視される」とボヤく。

KDDI 代表取締役社長 高橋誠氏
KDDI 代表取締役社長 高橋誠氏

 まず、1つ目の論点が「NTTグループの再統合」だ。

 NTT法が廃止されると、NTT持株会社やNTT東日本とNTT西日本、さらにはNTTドコモやNTTコミュニケーションズが一体化されたNTTグループが誕生する可能性がある。

 現状、NTT法では、NTT持株会社とNTT東日本とNTT西日本を分離しておくとなっている。NTT 代表取締役社長の島田明氏は「(NTT法を廃止しても)グループの再統合はない」と否定するが、KDDIの高橋氏は「(島田氏の口約束ではなく)法律に書いておかないといけない。分離分割の方向が閣議で決まっていたにも関わらず、法律に書いていないからとNTTはNTTドコモを完全子会社化してしまった。こういうことをされるので、基本的には法律に残しておかないといけない」と主張するのだ。

 いまのところ、NTTドコモがNTTの完全子会社になって競争力が上がったかといえば、かなり微妙で、NTTドコモのネットワーク品質が劣化するなど、逆に競争力が落ちている印象もある。しかし、KDDIやソフトバンクとしては、NTTグループが一体化することに脅威を感じているようだ。

全国の固定電話サービスは維持されるか--現在は赤字

 もうひとつの論点が「全国あまねく電話回線(メタル+IPで6000万利用)を提供する義務」だ。高橋氏は「NTTと議論するが、電話回線を保持していくのか、いまあるものを大事にしていくかという点も無視される」と語る。

 NTTにとって、全国で固定電話サービスを提供しているが、2023年6月末現在で1324万件で、10年間で半減、数年以内には1000万を下回る見込みだ。固定電話サービス事業は赤字であり、NTTグループにとってのお荷物になっている。NTTの島田氏は「固定電話を将来、どうするべきか、そろそろ議論を始めなくてはいけない時期に来ている」と語る。

 KDDIなどは、NTT法が廃止され、電気通信事業法だけがNTTに適用されると、「撤退できない責務」から「努力義務(撤退自由)」という縛りになる。NTTが地方などの固定電話サービスから撤退するのではないか、と危惧しているわけだ。

 KDDIやソフトバンクとしても、NTTの代わりとしてそうしたエリアに参入しても儲からないわけで、儲からない場所はNTTにお任せしておきたいというのが本心なのではないか。

設備投資額25兆円分「特別な資産」の行方は

 3つ目に高橋社長が無視されているというのが「資本分離」という議論だ。

 NTT東西には、公社時代から継承した7000の局舎、ケーブル数百万キロ、電柱1186万本など、設備投資額にして25兆円分の「特別な資産」が存在する。

 この「特別な資産」は税金を元に整備した国民の資産とも言えるわけで、これらを継承したNTTは特殊法人であり、だからこそNTT法によって国の監督のもと、あまねく全国に通信を提供する義務が存在する。

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 NTT法を廃止し、特殊法人から卒業したいのであれば、「特別な資産」をNTTから分離するべきだという議論もあるのだが、高橋氏によれば「この話もNTTから無視されている」とのことだった。

 KDDIとソフトバンク、さらに楽天モバイルがNTT法の廃止に噛みつくのは、いずれの会社もNTT東西が持つ光ファイバー網がなければ商売が成立しないという点にある。

 KDDIやソフトバンク、楽天モバイルはNTTドコモとは競合であるが、全国にある4Gや5Gの基地局は、NTT東西が持つ光ファイバー網に接続させてもらっているのだ。

 NTTとNTT東西、さらにはNTTドコモが一体化されれば、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルに不利な接続条件が提示され、競争しにくくなることを懸念している。

 ソフトバンクからは、仮にNTT法を廃止する場合、NTTグループからアクセス部門の完全資本分離を求めるという資料も提出されている。

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 全国に敷設されている光ファイバー網は国民の資産であり、今後、日本の産業が発展する上で不可欠な社会的なインフラと言える。

 KDDIやソフトバンク、楽天モバイルの社長がこぞって記者会見で異議を唱えているのは、この「特別な資産」をNTTの好きなようにはさせないという強い危機感があるようだ。

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