KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社は10月19日に会見を開き、通信事業者や地方自治体など140者の総意として「NTT法の見直しに関する要望書」を政府与党に提出したと発表した。
提出先は自由民主党で「『日本電信電話株式会社等に関する法律』の在り方に関するプロジェクトチーム」の座長を務める甘利明氏、および同党で政務調査会長を務める萩生田光一氏。
政府は2023年度からの5年間の防衛費を43兆円程度に増額する方針を閣議決定しており、その財源確保のために日本電信電話(NTT)株を売却する案が急浮上している。
しかし、現行のNTT法には政府が常時、NTTの発行済株式総数の3分の1以上を保有しなければならない規定がある。そのため、政府がNTT株を売却するにはNTT法の改正が必要となる。
また、NTT法によって、NTTは自社の研究開発成果について、適正な対価で技術開示することが義務付けられている。これは、NTTが市場を独占していた当時、民間の競争を促進するために設けられた制度だが、現在では経済安全保障の観点から、NTTの研究成果が海外に流出する可能性が懸念されている。
さらに、NTT法には日本国籍を有しない人物を取締役や監査役に任命できない規定があり、NTTがグローバルビジネスを推進するうえで海外の人材を自社で活用できない課題もあった。また、日本全国にあまねく電話サービスを提供する「ラストリゾート事業者」としての責務もNTTだけに課せられている。
要望書では「NTT法の見直しは容認するが、NTT法自体の廃止は反対する」との意見が盛り込まれた。
特に、国際競争力の強化に向けて、研究開発の開示義務や社名変更、取締役専任等の規定などは見直しても良いとした。
一方、NTTはこれを機にNTT法の改正ではなく廃止を望んでいる。
楽天モバイルはNTT法の廃止について「NTTドコモとNTT東西などの連携でグループが一体化され、競争事業者が排除され独占回帰につながりかねない」と批判した。
ソフトバンクは、NTTが特殊法人ではなくなることを望むのであれば、NTTが国から継承した、税金で整備された約25兆円の電柱、管路、局舎などの設備をすべて国に返還し、国が監督責任を持つべきだとした。
さらにKDDIは、既存の6000万ユーザーへのあまねく電話サービスを提供する「ラストリゾート事業者」としての義務の維持、公益性の高い国の資産(電柱、管路、局舎)について、外資からの保護による国のコントロール権の確保などを挙げた。
会見にはKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのトップも揃って登壇し、自社の見解を述べた。
ソフトバンクで代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める宮川潤一氏は「防衛費捻出のために国がNTT株を売却する」という議論について「NTTは国から受け継いだ官舎などの不動産を、東京ドーム換算で360個分も保有している。それを国に返還して売却したら、ひょっとすると株の売却代金よりも大きいのではないか、と自民党プロジェクトチームのヒアリングで申し上げた」と述べた。
続けて「ソフトバンクが大手外資に買収されても最初は大騒ぎするだろうが、国民生活は何も変わらない。一方でNTTが最悪外資に買収されたら、国民の生活や企業活動すべてが外資の手のひらの上に乗る構造が出来上がってしまう。だからNTT法で規制をかけている」とも述べた。
楽天モバイルで代表取締役 共同CEOを務める鈴木和洋氏は「NTT法撤廃によって、NTTドコモとNTT東西がそれぞれの商品を抱き合わせ販売してユーザーをロックインし、最終的には値上げされ国民が不利益を被るリスクがある。また、NTTが国から継承した局舎や電柱など25兆円の資産は国民の共通の資産であり、その利用については、NTT法の改正の有無に関わらず議論を継続すべきだ」と主張した。
KDDIで代表取締役社長を務める高橋誠氏は「古い法律なので、時代に即して見直すのは賛成。しかし廃止には絶対反対」とコメント。また「NTTが特別法人であるゆえんは(国から受け継いだ管路や官舎などの)特別な資産を持っていることだ。資本を分離するのであればNTT法を撤廃しても良いが、資本を分離するのは絶対に嫌だとNTTは言っている」とし、NTT法改正で事足りる話なのに、なぜ廃止にこだわっているのか理解できないとの認識を示した。
また高橋氏は、NTTが「グループの再統合を実施するつもりはない」と表明していることに触れ、「ドコモの完全子会社化も、法律に書かれていないという理由でしれっと実行された。法律で明確に縛ることが重要だ」と付け加えた。
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