違和感があるかもしれないが、499ドル(日本では税込7万4800円)の「Meta Quest 3」と3499ドル(約52万円)もするAppleの「Vision Pro」を比較せずにはいられない。Quest 3は、Appleが6月に年次開発者会議「Worldwide Developers Conference(WWDC)」でVision Proを発表するわずか数日前に発表された。Mark Zuckerburg氏はこれを「世界で初めてとなる、複合現実(MR)に対応したメインストリーム向けのヘッドセット」と表現し、比較的手頃な価格と市場への早期投入にゴーサインを出した。
Vision Proに比べると、Quest 3で利用できる機能はわずかで質も劣るが、499ドルという価格を考えると、現時点で手に入れられる最高の仮想現実(VR)体験であるということを認めないわけにはいかない。高性能のオールインワン型MRヘッドセットを装着して量販店に出入りするのは、今のところAppleのVision Proでは不可能なことだ。
しかし、Metaが旧型でQuest 3より200ドル安い「Quest 2」の販売を続けている中、499ドルも出してQuest 3を買うべきなのはどのような人なのだろうか。デザインやディスプレイの質、性能の新たな変更は買い替えの価値があるだろうか。そして、Vision Proの忠実な支持者であっても、Appleが不備を修正する間、Metaが提案する別の選択肢を検討すべきだろうか。以下で、そうした疑問とその他の疑問に答えていく。
皆さんがこの記事を読む頃、筆者はMetaのQuest 3でVR体験とMR体験の組み合わせを試して、1週間を少し過ぎた頃だろう。「Out of Scale」や「Immersed」のような静止型の作品と、「First Encounters」やセガの「サンバDEアミーゴ」のようなもっと動き回る作品などを体験した。
その週に試した体験すべての中では、プレインストールされているスターターパックに含まれている「First Encounters」が、最も印象的だった。しかし、それは最初に出会うゲームというだけのことで、Quest 3で試すようMetaが推奨したほかの作品をプレイするようになると、First Encountersのことはすぐに忘れた。それらの作品の大半はMRベースではなくVRベースで、MetaがQuest 3でMRを推していることを考えると、その点が少し期待外れだった。
とは言え、Metaは数週間から数カ月以内にさらに多くのゲームがリリースされるとしている。チェックしたいと思って筆者が特に興味を持っているのは、「Ghostbusters: Rise of the Ghost Lord」と「LEGO Bricktales」の2作品で、どちらもQuest 3のMR機能を真に利用しているようだ。
また、筆者は常に眼鏡をかけているが、幸いなことに、VRヘッドセットと内蔵のレンズ調整を試用する時に懸念材料になるほどの度数ではない。9月に開催された「Meta Connect」以前のブリーフィング中に試用したものは、眼鏡をかけたままではほとんどフィットしなかったが、自宅でのレビュー用のものは快適に装着でき、眼鏡をかけてもかけなくてもQuest 3を利用できた。Metaからは、試用のためにZenni Opticalを通じて度付きVRレンズを提供してもらえることになっている。
MetaはQuest 3を、外部ハードウェア、素材の選択、プロセッサーなど、ほぼすべての面でアップグレードした。ここでは、その最高の新機能について特に重要な情報や、筆者が試してみたときの使用感を紹介しよう。
フォームファクターのスリム化:筆者が初めてQuest 3を実際に使ってみたとき、まず気付いたのが、そのスリムになったフォームファクターだ。VRヘッドセット、特にPCや外部センサーに接続しなくても操作できるヘッドセットは、周囲の情報を処理するのに必要なあらゆるカメラやセンサーのことを考えると、必然的に前方が重くなる。実際のところ、Quest 3(515g)はQuest 2(503g)より重いが、新しいパンケーキレンズを含む前面の部品が薄型化されたため、ヘッドストラップとのバランスがはるかに取りやすくなった。
Metaはまた、コントローラー「Touch Plus」を小型化し、センサーリングを廃止した。前バージョンはセンサーリングがあったために不格好で、収納しにくい場合もあった。同社によると、これが可能になったのは、ヘッドセットに搭載した新しいセンサーと、手や指の動きをより正確に予測できるAI/機械学習の機能強化のおかげだという。
新しいコントローラーによってはるかに便利になっただけでなく、そのハプティクスも明らかによりリアルになった。ゲームをプレイしていて最も基本的な振動が来ると、まだNokiaの古い携帯電話が振動しているように感じることもあるが、それ以外の場合は確かに触れている感触があり、仮想ボタンをタップしたりブラスター銃を充電したりすると、しっかりしたフィードバックが返ってくる。
カメラとセンサーの拡充:Quest 3がMR体験向けに設計されたことをMetaがアピールしていなかったとしても、2つの新しいRGBカメラと深度プロジェクターからそれは明らかだ。Quest 3は周囲の状況をフルカラーで再現するのに優れており、物体の遠近を驚くほど正確に測定できる。
「Meta Quest 3」を筆者のリビングルームで試しているとき、MR機能について驚くことがあった。
とはいえ、新しいMRの体験も完璧なわけではない。腕を振り回すとパススルーがゆがみ、没入感が途切れることもあった。また、色調が実際の色合いより寒色系になることもある。それでも、大きく進化したことは確かで、499ドルという小売価格を考えれば多くの人が納得するだろう。
プロ仕様のパンケーキレンズ:「Quest Pro」の初期販売価格の3分の1ほどの値段であるにもかかわらず、Metaの上位VRヘッドセットで使われている4Kを超える「Infinite Display」パンケーキレンズが採用されたのは、うれしいことだ。視野(FOV)、つまり画面の端から端までで見える範囲が広がるだけでなく、文字や画像のディテールと鮮明度が大幅に向上する。アップグレードが最も顕著に感じられたのは、「Immersed」アプリで仮想デスクトップを操作したときだ。米ZDNETのコンテンツ作成サイトでも、スキャンやナビゲーションが通常より扱いやすかった。
Qualcommの「Snapdragon XR2 Gen 2」:ディスプレイとシステム全般には、新しいQualcommのSnapdragon XR2 Gen 2プラットフォームが採用され、グラフィック性能の面では速度が「Quest 2」の2倍になるとうたわれている。Quest 3は後方互換性がある、つまりQuest 2の既存のゲームやサービスも利用できるので、「Beat Saber」や「SUPERHOT VR」「Onward」など各種タイトルについて、両方のヘッドセットのロード時間を比較することができた。
Quest 3は、必ずしも2倍の速度で動くわけではないが、確かにグラフィックスのレンダリングは優に4~5秒高速になっていた。ただし、両者を並べて比較してみなければ、この違いには気づかないだろう。ヘッドセットとしては、新しいSnapdragonプロセッサーが市場に投入された初の製品なので、UIのナビゲーションにでも、あるいは「Horizon Worlds」などのソーシャルアプリ内のリアルなやり取りにでも、アイトラッキングを実装してほしかったところだ。
空間オーディオの進化:Quest 3でオーディオ要素を気に入るとは思っていなかったが、確かに音はいい。サラウンドサウンド技術の一種である3D空間オーディオが採用されており、VRとMRの体験レベルが上がっている。このアップグレードを特に特に実感したのは、「Dungeons Of Eternity」をデモで試したときだった。序盤でダンジョンマスターが遊び方を教えてくれたときに、筆者は動き回りながら、洞窟のテクスチャーの描画を見るのに精一杯だったが、それでも違いを感じられた。
筆者はAppleのVision Proヘッドセットを試したことはまだないが、米ZDNETの編集主幹Jason Hiner記者によるレビューも含めて第一印象の記事は十分に読んでいるので、その長所と短所は理解している。以下に示すように、Vision Proには、Quest 3と多くの共通点がある。
Quest 3は、Vision Proと比べてInfinite Displayレンズがシャープさの点で劣っているかもしれず、アイトラッキング機能がないため移動したい方向は手で示さなければならない。また、プロセッサーの数も、Vision Proの2つ(「M2」チップと「R1」チップ)に対して1つしか搭載していない。だが、Vision Proの中核的機能の多くはQuest 3にも用意されている。
この点がなぜ重要かというと、VR/MRを体験したことのない人がまだまだ多いからだ。そういう層にとって、Apple製とはいえ3499ドル(約52万円)もの投資はかなり辛い。初めての人は、もっと手軽な製品を試す方がいいので、Quest 3の499ドルという価格は、手始めとして最適だろう。
結論を言うと、Zuckerberg氏が言うように、Quest 3は、現在市販されている「メインストリーム向け複合現実ヘッドセット」の中ではベストである。筆者がそう論じる理由は、1)高品質のパススルー体験をついに実現したヘッドセットであることと、2)同じ価格帯の競合と言える製品がまだないからだ。もちろん、ソニーの「PlayStation VR2」も価格はほぼ同じだが、それを使うには別途「PlayStation 5」本体が必要であり、それに400~500ドル(6万478円)かかるという点も考慮しなければならない。
Quest 3で残念だった点が1つある。それは、128GBか512GBの構成しかないため、メモリーはとりあえず足りる程度か多すぎるかのどちらかしか選択できないということだ。筆者がレビューした実機は、15ゲームほどダウンロードした段階で128GBのうち90GBを消費していたので、すでに「このゲームは気に入ったけど、ファイルサイズはどのくらいだろう」と心配する段階になってしまった。
Meta Quest 3を購入するなら、好きなアプリやゲームに必要なストレージ容量を把握したうえでどちらの構成にするかを判断するといいだろう。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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