日本マイクロソフト(MS)が世界各地で運営しているAIを中心とした先端技術のビジネス化を支援する共創施設「Microsoft AI Co-Innovation Lab」(ラボ)が神戸市に開設され、10月11日に開所式が行われた。AIならびにIoTを活用したイノベーション開発をしたいという企業やスタートアップに対し、専任のラボエキスパートが1対1で1カ月アドバイスするというプログラムで、無料で申し込むことができる。同様の施設は本社がある米国レドモンドをはじめ、ミュンヘン、上海にあり、先日サンフランシスコでもオープンしたばかり。神戸は6番目の拠点となる。
開所式ではこの2月就任した日本マイクロソフト代表取締役社長の津坂美樹氏に続き、米マイクロソフトでAI関連の事業開発責任者を務め、ラボのグローバル総責任者である山崎隼氏があいさつを述べた。また文部科学大臣の盛山正仁氏が出席して祝辞を述べ、経済産業大臣の西村康稔氏からもビデオメッセージが寄せられ、同施設が政府も注目する施設であることが伺えた。
山崎氏は「AIはここ1年で専門とする自身も驚かされるほどのムーブメントになっている」とし、CEOのサティア・ナデラ氏もAIはパソコンやクラウドと同じく時代の転換点になるとコメントしており、製造業をはじめ、医療、農業、教育といった幅広い分野で課題解決の鍵になることが期待されていると話す。一方で関連技術は増え続けその進化も早いことから、活用を支援するラボのニーズが世界で高まっており、「日本国内のみならずアジア全体で、企業規模や業態、分野にこだわらず多くのユーザーに参加していただき、ユースケースを増やしていきたい」と今後の目標を語った。
本ラボの開設はマイクロソフト単独ではなく、神戸市、神戸商工貿易センター、地元企業の川崎重工業の3者が関わっており、開所式には神戸市長の久元喜造氏、川崎重工業 代表取締役社長執行役員の橋本康彦氏らが出席した。
ラボの誘致を牽引してきた川崎重工業代の橋本氏は、「リアルなものづくりがネットワークにつながることで発展し、AIが新たな価値を生み出すことで競争力が高められる時代になった。ラボを拠点にさまざまな人が出会い、新たなビジネスチャンスが広がることを期待したい」とコメントした。
ラボではユーザーが持ち込んだアイデアを約1カ月単位で実現につなげる「Sprint」というプログラムが用意されており、これまでに世界で800を超える組織を支援してきた。神戸でもできるだけ多くの参加者がプログラムを活用できるようにしており、参加申し込みはラボのサイトから無料で受け付けている。その後審査を経てNDAに署名したのちに、オンラインでイントロセッションを2~3週間かけて行う。その内容を元にラボエキスパートと1週間集中して共同開発を共に行い、クロージングとなる。
プログラムはSprintに参加できる企業を2社までとしていることから、1カ月で8社ほどを受け入れる。Sprintはラボの中にある部屋を使って行われるが、機密保持のため窓はワンタッチで見えないようにするなどセキュアになっている。とはいえ全体的にはオープンな雰囲気で、ラボ内にはさまざまなショーケースや最新技術を紹介するデモエリアも設けられている。
デモエリアでは神戸の地元企業を中心に複数の企業が展示を行っている。川崎重工は羽田のレストランで配膳を行うソーシャルロボット「Nyokkey(ニョッキー)」にChatGPTを搭載し、会話機能を短期間でアップグレードした本体を展示。ユーハイムはレドモンドのラボでAIを開発したバームクーヘンAIロボット「THEO(テオ)」を紹介している。他にも世界で初めてiPS細胞の臨床応用に成功した医療ベンチャーのビジョンケアは、患者に治療を説明するAIを開発しており、今後は眼科手術ロボットの開発でもラボと協力していくことが考えられる。
ラボでは他にもセミナーやハッカソンを開催し、情報共有や人材育成にもつなげていくとしているラボは世界にあるどの拠点でも参加できるが、神戸に拠点ができたことにより日本語でプログラムに参加できるようになり、国内での利用が増えることが期待されている。
さらに川崎重工と神戸市は共同で地元でのラボ活用を後押しする組織、一般社団法人 AI Co-Innovation Labs KOBE 活用推進協議会を立ち上げている。
協議会ではエンジニアがいない中小企業やスタートアップがプログラムに参加を希望する場合に、一緒に開発に取り組むエンジニアを紹介したり、コラボレーションを支援したり、企業間やスタートアップとの人材育成、AIリテラシー教育といった活動を行う予定だ。
川崎重工と神戸市はラボをきっかけに地域のDXやAI活用を促進し、神戸の産業振興につなげていきたいとしており、今後の活動に注目したいところだ。
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