2019年末に日本市場へ進出した、中国のスマートフォンメーカー大手であるシャオミ。得意とする低〜中価格帯のスマートフォンを中心にスマートフォンを積極投入して日本市場開拓を進めてきたが、2023年に入ると一転して新機種投入ペースが鈍化。2023年9月末までに発売されたスマートフォン新機種はローエンドの「Redmi 12C」のみと、急速に勢いが落ちていた。
だが、同社は2023年9月27日に発表会を実施。スマートフォンやスマートバンドといった主力製品の新機種だけでなく、チューナーレステレビやロボット掃除機など7つの新製品を一気に日本に投入することを明らかにするなど、一転して攻めの姿勢を見せている。
そうした新製品の中でも、シャオミの今後の日本戦略を見据える上で非常に特徴的な製品が、1つにスマートフォンである。シャオミは今回3つのスマートフォン新製品を発表しているが、中でも力が入れているのが「Xiaomi 13T」シリーズ2機種だ。
これは高い性能を備えたチップセットとカメラ、そして急速充電機能を備えた、シャオミの中では(フラッグシップではない)ハイエンドモデルという位置付けのシリーズ。120Wの急速充電機能を備え、バッテリーが1%の状態から19分でフル充電が可能な上位モデル「Xiaomi 13T Pro」がソフトバンクなどから、下位モデルの「Xiaomi 13T」がKDDIの「au」「UQ mobile」ブランドなどから販売される予定だが、重要なポイントは製品発表のタイミングにある。
というのも、Xiaomi 13Tシリーズのグローバルでの発表は、日本での発表の前日となる2023年9月26日。グローバルでの新機種発表から間髪を入れずに日本での発売を明らかにしただけでなく、「おサイフケータイ」が利用できるようFeliCaを搭載するというローカライズ対応も明らかにされている。それだけに発売時期は12月とやや先になるようだが、シャオミが同シリーズの日本販売に向け周到に準備をしていた様子を見て取ることができる。
そしてもう1つ、象徴的な製品となるのが「Xiaomi TV A Pro」である。こちらは昨今人気を高めつつあるチューナーレステレビで、テレビ放送を見ることはできない代わりに「Google TV」を搭載しており、各種動画配信サービスなどを大画面で視聴することが可能だ。
シャオミはスマートフォンだけでなく非常に幅広い製品を扱っているメーカーでもあり、中国などではテレビをはじめ多くのIoT家電製品も提供していることから、日本でテレビを販売すること自体不思議なことではない。だが、注目されるのはその販路である。
というのもXiaomi TV A ProはKDDIが独占販売するとのことで、販路も家電量販店ではなく、全国の「auショップ」などKDDIの販売網が主になる。携帯電話会社がテレビを扱うことに意外な印象を受ける人も多いだろうが、スマートフォンやモバイル通信が市場飽和で頭打ちの状況が続いているだけに、IoT家電にも強いシャオミの製品を取り入れることで、日本ではなかなか広がらないスマートホームの市場開拓を進めショップでの商材を広げたい狙いがKDDIにはあるといえそうだ。
そしてもう1つ、シャオミの日本戦略を見据える上で大きな動きとなるのが、日本法人である小米技術日本(シャオミ・ジャパン)のトップが変わったことである。
シャオミ・ジャパンは日本法人の立ち上げ当初から、シャオミの東アジア担当ゼネラルマネージャーだったスティーブン・ワン氏が取り仕切っていた。後に代表も務めるなど、スティーブン氏がシャオミの日本における“顔”となっていた。
だが、今回の新製品発表に合わせ、シャオミは新たに大沼彰氏が取締役社長に就任したことを明らかにしている。大沼氏はパナソニックの携帯電話事業を担っていたパナソニックモバイルコミュニケーションズの出身で、その後サムスン電子ジャパン、HTC NIPPON、華為技術日本(ファーウェイ・ジャパン)と、外資系スマートフォンメーカーの日本法人を渡り歩いてきた人物である。
そして日本法人を取り仕切る人物が日本人に変わったことは、シャオミの日本市場戦略における大きな転換点を迎えたと見ることができる。日本市場への参入が最後発のシャオミは、急ピッチで日本市場をフォローし、日本で受け入れられる製品を投入して販売を拡大するためにも、日本市場に精通したメンバーの獲得に力を入れていた。
実際に2022年から、シャオミの製品発表イベントでフロントに立つ機会が増えている、シャオミ・ジャパンのプロダクトプランニング本部 本部長である安達晃彦氏も、かつてはソニーモバイルコミュニケーションズ(現ソニー)で「Xperia」シリーズの商品企画などを手掛けていた人物だ。それに加えて大沼氏が日本法人トップに就任し、日本市場に精通したメンバーによる体制が整ったことから、改めて多数の製品投入を発表し再び攻めの姿勢を打ち出すに至ったといえる。
では、日本法人の体制が整ったシャオミが日本市場を本格的に攻略する上で、重視しているポイントはどこにあるのだろうか。一連の新製品発表から見るに、そのポイントは携帯電話会社にあるといえそうだ。
日本のスマートフォン市場は携帯電話会社による販路が非常に強く、逆に家電量販店などオープン市場での販路が小さいという特徴がある。シャオミも参入当初から、KDDIやソフトバンクなどからの販路開拓に力を入れてきたのだが、調達される製品はローエンドのスマートフォンが主体であるなど、ラインアップを思うように広げられていなかった。
だが、シャオミは非常に豊富な製品ラインアップを持つだけに、日本市場にうまくマッチする製品の特徴を理解してもらえれば扱う製品を増やすことにつながってくる。そこで日本市場攻略に向けた体制が整ったシャオミは、価格や性能だけによらない製品のアピールを進め、携帯電話会社により多くの製品を採用してもらうことに力を注いできたといえる。
ソフトバンクが2022年に、急速充電対応のシャオミ製スマートフォン「Xiaomi 12T Pro」を「神ジューデン」と銘打って販売したことや、KDDIが今回、スマートフォンだけでなくチューナーレステレビをも取り扱うに至ったことなどは、そうしたシャオミの取り組みの成果といえるだろう。モバイル通信では最も強力な携帯電話会社の販路を徹底して強化するというのが、今後のシャオミの日本市場攻略に向けた戦略となりそうだ。
さらに、その先に見据えるのは日本でのブランド認知の拡大であろう。携帯電話会社の販売力を生かした自社製品の販売拡大によって日本でシャオミのブランドを浸透させ、海外のように自社店舗を展開をするなど直接的な販路を開拓・拡大することこそが、中長期的な狙いといえるのではないだろうか。
ただ、中国メーカーには米中摩擦や、昨今激しさを増す日中の政治的対立などが少なからず影響してくる可能性がある。実際に最大手のNTTドコモは、中国メーカーの採用を避けており、依然難しい販路開拓状況にある。加えて日本のスマートフォン市場ではここ最近、「Pixel」シリーズの高いコストパフォーマンスを武器として、米グーグルがスマートフォン市場で急速にシェアを伸ばしている。シャオミが思惑通りに販売を伸ばせるかどうかは未知数な部分が多いというのも正直な所だ。
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