先頃開催されたAppleの毎年恒例のイベントで、同社が発表したのは、「iPhone 15」シリーズだけではない。同社は時間をかけて、環境に配慮していることも宣伝した。
おそらく、最も注目に値するのは、そのときに披露された寸劇動画だろう。内容は、本社の「Apple Park」での会議に、最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏と従業員たちとともに、オスカー俳優のOctavia Spencerさん扮するMother Nature(母なる自然)が参加するというものだった。この動画では、Cook氏とチームが、企業のさまざまな取り組み(素材、電力、輸送面)によって環境に配慮していることを示すデータを列挙し、不満げなMother Natureの支持を得ようと試みる。動画の最後の方では、最新の「Apple Watch」シリーズの宣伝もさらっと挿し込まれていた。
懐疑的なMother Natureは、「まさかApple製品で私を買収するつもりじゃないわよね?」と尋ねる。
Appleの環境担当責任者のLisa Jackson氏が、最新のApple WatchシリーズをMother Natureの近くに差し出しながら、「Apple初のカーボンニュートラルな製品です」と言う。
「こういうのをもっと見たいわね」とMother Nature。
Cook氏は、「そのつもりです」と答える。
動画は、満足したMother Natureが部屋を出て行き、従業員たちは歓喜と安堵の入り混じった表情で会議の成功を祝うところで終わる。
「Apple Watch Series 9」、2022年の「Apple Watch SE」、新しい「Apple Watch Ultra 2」は、カーボンニュートラル(ただし、特定の素材のケースとバンドを選択した場合に限る)をうたう最初のApple製品群だ。同社は、2030年までに、販売するすべてのデバイスで気候への影響をネットゼロにすることを目指すと公約しているので、さらに多くの製品がApple Watchに追随することになるだろう。
Appleは、世界のスマートフォン市場のライバルと同じように、何年も前から、自社を環境に配慮した企業として熱心に宣伝してきた。だが、GreenpeaceのXueying Wu氏など、Appleに批判的な人々は、環境に配慮した取り組み(カーボンニュートラル製品や、デバイスケースのレザー素材を段階的に廃止していく決定など)を多数実施しているからといって、同社が地球環境全体に及ぼしている大きな影響を軽視すべきではない、と主張する。変化をもたらす主要な指標である全体的なカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)について、Appleに責任を負わせることが重要だ。
Greenpeace East Asiaの活動家であるXueying Wu氏は米CNETに対し、「Appleが自社製品のライフサイクル排出量の削減とニュートラル化に関して、進歩を遂げたことをうれしく思う」と語った。「しかし、GoertekやFoxconn、TSMCなど、一部の主要サプライヤーの再生可能エネルギー比率は11%未満」だという。再生可能エネルギー比率とは、消費されるエネルギーに再生可能エネルギーが占める割合のことだ。
Greenpeaceによると、エレクトロニクス産業における二酸化炭素排出量の大部分は、部品やデバイスの製造のための電力調達に起因するという。また、カーボンニュートラルを達成するためには、大手テクノロジー企業の大規模なサプライチェーンのサプライヤーが、部品の製造および出荷プロセスでクリーンエネルギーを使用することが極めて重要だという。
その点で、Appleは2030年までにサプライチェーンの脱炭素化を実現することを約束している。同社の報告によると、すでに300社以上のサプライヤーがクリーンエネルギーの使用を約束しており、この数字は年々着実に増加しているという。さらに、Appleは、すべてのサプライヤーを100%再生可能電力に移行させることを目指す、自社の「サプライヤークリーンエネルギープログラム」への参加を他社にも積極的に奨励している。しかし、これらは依然として非常に高い目標であり、まだ実現していない。
「Appleの主要サプライヤーの中に、各社の事業で100%再生可能エネルギー化を達成している企業は1社もないということを覚えておくべきだ」とWu氏。「Foxconnやサムスン電子などのサプライヤーは、再生可能エネルギーへの移行があまりにも遅すぎる」
米CNETはAppleにコメントを要請したが、回答は得られていない。
Appleは近年、環境に関する情報開示を進めており、必ずしも「iPhone」のライフサイクル排出量が削減されていない場合でも、製品環境レポートを適宜発表している。これとは対照的に、中国のライバルである華為技術(ファーウェイ)と小米科技(シャオミ)は、自社のスマートフォン製造の環境コストについて、ほとんど、あるいは全く情報を提供していない。Googleは最近になって、そうした情報を提供するようになったが、同社の「Pixel 7 Pro」のライフサイクルにおける二酸化炭素排出量はAppleよりも多い。
一般的なスマートフォンの二酸化炭素排出量のほとんどは、ライフサイクルの最初の段階、つまり製造段階で発生する。「iPhone 14 Pro」を例に考えてみよう。Appleは、同スマートフォンのライフサイクルで、65kgの二酸化炭素を大気中に排出すると報告書に記しており、そのうち81%は製造プロセスで排出される。同社によると、製造プロセスには、原材料の抽出と生産、輸送のほか、すべての部品と製品パッケージの製造と輸送、組み立ても含まれるという。
つまり、iPhoneのライフサイクルで二酸化炭素を最も大量に排出する段階は製造プロセスであり、店舗への輸送、所有者による日常使用、耐用年数終了時の処理など、それ以外のすべての段階で排出される二酸化炭素量をはるかに上回っている(とはいえ、それらの段階も環境に大きな影響を及ぼす)。
これはiPhoneだけに限った話ではない。サムスンの試算によると、「Galaxy S23 Ultra」はライフサイクルを通して70.6kgの二酸化炭素相当量を排出しており、そのうち85.3%は製造中に発生するという。Googleは、同社の主力スマホである「Pixel 7」が、1台あたりの二酸化炭素排出量の約84%をライフサイクルの製造段階で排出していると報告している。
Greenpeaceによると、「半導体メーカーやディスプレイメーカー、最終組立業者を含む家電サプライヤーが、エレクトロニクス業界の総排出量の4分の3以上を占めている」という。「そして、製造プロセス中の排出量のほとんどは、電力消費によるものだ」
「iPhone 15 Pro」では、排出される二酸化炭素相当量が66kgに達する、とAppleの報告書には記載されている。だが、多くのリサイクル素材や再生可能素材の使用と、「サプライヤーがすでに導入済みのクリーン電力ソリューション」がなければ、二酸化炭素相当量はさらに26kg増えていたとも書かれている。
Appleが環境の持続可能性に関する約束に大々的に取り組んでいる一方で、持続可能性に対して、同社よりも確かなアプローチを取っているように思える企業も存在する。Fairphoneは、倫理的慣行と、労働者および鉱山労働者の生活向上に重点を置いてスマートフォンを設計・製造しているオランダの社会的企業だ。
Appleやサムスンと異なり、Fairphoneは、新しい、またはアップグレードされたスマホを毎年購入してもらうことを必ずしも求めていない。既存の機種に問題が発生した場合は、ユーザー自身に修理してもらうことを望んでいる。Fairphoneのスマホは、普通のねじ回しで本体を開けて、修理することも可能だ。これは、本体を開いて内部を確認したりいじったりするのに特殊なキットが必要なiPhoneやその他の高級な「Android」デバイスと大きく異なる。「Fairphone 5」はモジュール式の設計を採用しているので、修理がしやすい。
Fairphoneには5年間の保証も付いており、Appleやサムスンといった巨大企業が提供する保証をはるかに凌駕している。参考までに、iPhoneの保証期間は1年だが、「AppleCare」プランを購入するとさらに2年間延長できる。サムスンのスマホの保証期間も、「Samsung Care+」を通してさらに2年間の保証を購入すれば、Appleと同じだ(国や地域によって対応は異なる)。
Appleは持続可能性への取り組みを推し進め、世界の大手スマートフォンメーカーを先導している。Appleが完璧ではないとしても、環境指標の定期的な公表、カーボンニュートラルな製品製造の推進、サプライヤーの関与の拡大はすべて評価に値する取り組みだ。
だが、これらの環境への取り組みは、重要ではあるもののAppleの頻度の高い製品発売サイクルと並行して進められているため、環境保護に対する同社の動機と誠実さには疑問が残る。同社は環境に優しいことを誇り続けているが、それはどこまで本当なのだろうか。新しいiPhoneがリリースされるたびに、世界中の何千万人もの人々がアップグレードしたい誘惑に駆られる。たとえ、アップグレードの内容が比較的小さなものであっても、だ。それに加えて、AppleがUSB Type-C(USB-C)のようなユニバーサルポートへの移行にも消極的だったことを考えると、同社の動機に疑問を抱かざるを得ない。環境への配慮は、誠実な取り組みなのだろうか。それとも、環境意識がますます高まっているユーザー層へのアピールを目的とする、好機を捉えたマーケティング戦略なのだろうか。その両方である可能性もある。
Appleが本当に環境を優先しているのなら、デバイスをより長期にわたって使用することを奨励し、メジャーリリースの間隔を延ばすことを検討するかもしれない。そうすることで、環境に真剣に取り組んでいることをより効果的に示せる。だが、その一方で、Appleは売り上げを守り、伸ばすことを目的とする上場企業でもある。どうすればいいのだろうか。
Apple、そしてどの競合他社にとっても、課題は、ビジネス目標と環境への誠実な取り組みのバランスを取ることだ。その課題が解決されるまで、同社は鋭い懐疑論者から監視され続けるだろう。Appleの環境保護への取り組みはまだ初期段階にあるが、この取り組みは、見守っていく価値がある。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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