AR書籍はMRヘッドセットの「キラーアプリ」になるか?最新のARコンテンツを試した感想

Scott Stein (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2023年09月12日 07時30分

 何の変哲もなさそうな1冊の本を開くと、魔法のようなホログラムの生き物たちが飛び出てくる。これは、拡張現実(AR)グラスが何年も前に実現するはずだったことのように思える。これに近いものが実際に提供された事例もある。今から何年も前、ソニーでは「PlayStation」のカメラと連携する「ハリー・ポッター」のAR書籍を提供していた。任天堂も「ニンテンドー3DS」のカメラと3Dディスプレイを使用してAR体験を実現する、マーカーを用いた独自のカードや書籍を提供していた。Jim Hensonの「ストーリーテラー」を題材とした新しいコンテンツは、本のような物理的な付属品が未来の複合現実(MR)ヘッドセットで再び存在感を示すようになるかもしれない、という考えを提示している。

Jim Hensonの「ストーリーテラー」とARグラス
AR版Jim Hensonの「ストーリーテラー」。魅力的なコンテンツに仕上がっているが、本がARの付属品になるきっかけにもなるだろうか。
提供:Scott Stein/CNET

 このARコンテンツを開発したのはFelix & Paul Studiosだが、没入型仮想現実(VR)エンターテインメントを手がける同社にとって、これは新たな試みだ。同社では、国際宇宙ステーション内の様子を360度カメラで撮影したシリーズを提供しており、このシリーズでは、現実を見事にとらえVRヘッドセットに映し出している。しかし、ARを使用する「ストーリーテラー」の場合、それとは仕組みが逆になる。「Jim Henson's The Storyteller: The Seven Ravens」では、筆者を別の場所に連れて行くのではなく、本のような物理的な小道具の中に小さな物語の世界を映し出すのだ。映像も魅力的で、さしずめ動くミニチュアのテレビゲーム劇場といったところだ。Neil Gaiman氏によるナレーションも悪くない。

 このARコンテンツで、筆者は手元の本をのぞき込んで、その中の世界を見ているような感覚になった。本を傾けたり、ページをめくったりすると、本の枠を超えて、さまざまなものが表示される。登場人物が飛び出して、窓から筆者の方を見つめてくることもある。海のシーンでは、本を傾けると、水がこぼれる。厚い板のようなページをめくるたびに、新しいARシーンが始まる。また、最後のページに到達したと思ったら、本を逆さまにして、ページを逆の方向にめくっていくように指示された。指示に従って、再びページをめくると、物語が続いた。このような本なら、物語を無限に続けることも可能かもしれない。


コントローラーを超越したツール

 未来のVRヘッドセットやARヘッドセットでは、コントローラーが不要になりそうだ。まもなく登場するMetaの「Quest 3」(より高性能の深度追跡センサーが搭載される)や、2024年に発売されるAppleの「Vision Pro」などのデバイスのおかげで、ハンドトラッキングがより標準的になるはずだ。コントローラー不要のMRの未来が到来し、手を伸ばして、実際には存在しないものに触れられるようになれば、多種多様なMR対応アクセサリーやオブジェクトが登場し、ARの用途も幅広い触覚ツールに広まっていくだろう。

 キーボードとトラックパッドが次のステップとなるのは明らかだ。AppleのVision ProとMetaのQuestもキーボードとトラックパッドをサポートしており、一部の企業ではAR対応キーボードをすでに検討している。その後に来るのは、おそらく別のアクセサリーだろう。本、あるいは、ARを投影できる小さなスペースになり得る物かもしれない。

 マーカーを目印に、AR対応のスマートフォンやタブレットのほか、ヘッドセットとも連携する従来のおもちゃやカードの多くを彷彿とさせるが、このテクノロジーの進化は今、まさに到来しようとしている可能性がある。

 「Jim Henson's The Storyteller: The Seven Ravens」のコンテンツと本のイリュージョンは非常に効果的に機能しており、本のデザインを巧みに利用して、現在のARグラスが抱える大きな限界をうまく隠している。「Magic Leap 2」のようなヘッドセットは、視野が限られている。今回の場合だと、ヘッドセットの視野は、このコンテンツ用に仕立てられた小道具の本の縁と一致している。マーカーコードが印刷された分厚いページを1枚ずつめくるそのたびに、新しい章が始まり、本のフレームに沈み込んでいくように見える(本のページは濃い黒色なので、ARの3Dオブジェクトの透明度を高める役目も果たしている)。

 「Magic Leap」を用いた「ストーリーテラー」のコンテンツは5年前に開発され、当初は2020年にリリースされる予定だった。ところが、新型コロナウイルスの世界的流行が発生したことと、Magic Leapが方向転換し、クリエイティブ重視の実験から、企業をターゲットとした新戦略へと軸を移したことが原因で、リリースが延期された。今回、「ストーリーテラー」のコンテンツが復活し、ヴェネツィア国際映画祭で披露されたが、Felix & Paul Studiosの共同創設者であるPaul Raphael氏は、このコンテンツが近い将来、ヘッドセット向けの実際の書籍製品を制作する足がかりになるとみている。さらに、AppleのVision ProやMeta Quest 3などのMRデバイス向けの製品でも提供されるだろうと考えている。

 Raphael氏は、パススルー機能を搭載し、ARを実行できる最近のVR/MRヘッドセットが、そうしたアイデアに最適だと考えている。その理由の1つは、現在は極めてニッチな分野であるARグラスと異なり、VR/MRヘッドセットは実際に所有している人がいるからだという。

 「これにはパススルーが最適だと思う。優れている点もあれば、それほど良くない点もある。ユーザーは周りの環境も手に持っているものも認識しているが、意識を向けているのは本の内容だ」とRaphael氏。「映し出されているものが写真ほどリアルではないとしても、Vision Proでは、それにかなり近い体験を得られる。おそらく、Quest 3でもかなりリアルな体験ができるだろう。これらがこのコンテンツで使用される主要なデバイスになると見て間違いないと思う」

 「ストーリーテラー」のコンテンツはまだ実際の製品化には至っていないが、この本のアイデアは実現されるかもしれない。Raphael氏は、コンテンツを試し終えた筆者に対し、「ARが一般的になり、あなたがかけているようなメガネでもARを体験できるようになれば、あらゆるものをAR化することが可能になるはずだ」と語った。「このコンテンツの設計に着手したとき、私たちは実はオブジェクトを使用するストーリーテリング全般について考えていた。この本は最初の試みであり、われわれは大きな進歩を遂げることができたが、これ以外にも、ありとあらゆる種類のARオブジェクトのコンセプトがあり、それらも実現したいと思っている」

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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